『闇色のセレナーデ』
    
                           とっきーさっきー:作
第22話 営業ガールは、ノーブラ・ノーパンで


 「話の方は、広報部長の小嶋君から聞いているよ。まあ、掛けたまえ」
緒方は卓造と千佳に席を勧めると、向かい合う席にドッカと腰を下ろした。
外回りを主とする卓造も肌は浅黒いほうだが、恰幅のよいスーツ姿の緒方もまた、相
当日焼けした顔をしている。

 年令は50代半ばといったところか。
白髪交じりの髪が頭頂部へ後退する様は、いささか老いを感じさせるが、オイルを塗
ったようにテカル顔肌はピンと張っており、40そこそこの卓造より若く見えなくも
ない。

 「ハヤシバラ文具、営業3課係長、佐伯卓造さんだね。それで、こちらの美人なお
嬢さんは?」
卓造が手渡した名刺を一瞥した緒方は、急に目尻を垂れさせると千佳に目を向けた。

 「彼女は営業3課見習い社員で……」
「あ、あのぉ! 小宮山千尋って申します! お仕事の資料集めから、お茶汲み、肩
叩き、足ツボマッサージ、街角でティッシュ配り、その他雑用全般、何でもしていま
す。本日は天下の小嶋技研副社長、緒方様とお会いできて光栄です♪ 記念に、握手
してもらえませんか?」

 そして引き続き卓造が、千佳のことを紹介しようとした矢先だった。
弾かれるように立ち上がった彼女は、打ち合わせにもなかった自己紹介を機関銃のよ
うに言い放つと、右手を差し出していた。

 いつのまにという具合に、上着の下から覗くブラウスのボタンを上から三つも外し
て、白い胸元を露出させている。
「ほお、小宮山千尋ちゃんって言うのかい。元気そうで溌剌としたいい子じゃないか」

 「はあ……仕事はまだまだですが、この通り、やる気とガッツだけは一人前で……」
緒方はグローブのような手のひらで、千佳のほっそりとした指を包み込むと、好色そ
うに鼻の下を伸ばしている。

 媚びるような笑みを作った千佳が腕を引かないのをいいことに、掴んでいた手のひ
らをジワジワと這い上がらせていた。
上着の上から、肘を通過させふっくらと脂肪の乗った二の腕あたりまで。

 「うんうん、確かに。千尋ちゃんは若々しい腕をしている。でも、これから営業を
覚えるんだったら、足腰も鍛えないとね。どうだい、オジサンがちょっと見てあげよ
うか?」
「はい、よろしくお願いします。千尋の下半身を好きなだけご覧ください♪」

 緒方のふざけた提案にも関わらずに、千佳を改め千尋に改名した少女は笑みを崩さ
ずに応じた。
唖然とする卓造に向けて素早く目をウインクさせると、同時に上着のポケットも指差
してみせる。

 (どういうつもりだ? 胸ポケット?)

 卓造は千佳からのサインに従い、上着越しに胸を押さえた。
手のひらに感じる、薄くて縦長の存在?!
(そうか! 分かったぞ)

 「ほら、千尋ちゃん。恥ずかしがってないで、オジサンの近くへ来なさい。ああ、
そうだ。上着は脱いでくれるかな。ついでに腹筋も調べてあげるからね」
「はぁ~い。上着を脱ぐんですね。わかりました、緒方様♪」

 千佳はさっさとブラウスだけの上半身を晒すと、緒方の元へとすり寄っていく。
ついでにお腹の辺りまで外されたフロントボタンのせいで、歩くたびに乙女の膨らみ
がチラチラと覗いた。
薄いブラウスの生地からは、サクランボを連想させる硬い蕾も浮き上がっている。

 「えっ! もしかして千尋ちゃん……ノーブラなの?」
それに気付いた緒方が、目尻の位置を更に下げた。
それを聞き付けた卓造が、スーツの内ポケットから取り出したスマホを取り落としそ
うになる。

 「やだぁ、緒方様ったらエッチなんだから。でも、そうでぇ~す。千尋は下着を着
けずに来ちゃいましたぁ……へへっ♪」
緒方の真ん前に到着した千佳は、はにかむように顔を伏せたままタイトスカートを持
ち上げていく。

 太股の半ばまで露出した処で、シャッターを下ろすみたいに、また引き下ろしてい
た。
「ということは……千尋ちゃんは、このスカートの下も穿いてないってこと? ノー
パンなんだね、ふふふっ」

 ダメ元のつもりだったセクハラまがいの冗談が、まさかこんなボーナス付きで現実
になるとは!
緒方はここが職場であることを忘れた。

 自分が従業員2千人を束ねる副社長であることも忘れかけていた。
テレビに登場するアイドル並みの美少女の痴態に、女癖の悪い男の本性を露わにさせ
かけていた。

 (どういうことだ、千佳ちゃん? そんな格好で来てたなんて、俺は何も聞いてい
ないぞ)
卓造はスマホを動画撮影モードに設定しながらも、千佳の行為に動揺が続いていた。

 まずは緒方という男の、人となりを観察して、作戦はそれからでも遅くないと考え
ていたのだ。
それを条件に、営業ガールに扮した千佳を渋々帯同させたのだが、事態はあらぬ方向
へと突き進んでいる。

 「千尋ちゃん、ここまで挑発しておいて勿体ぶるものじゃないよ。ほら、オジサン
がスカートを脱がせてあげる」
「そんなぁ、恥ずかしいです。ヤメテください」

 緒方の腕が伸びてきて、千佳が初めて恥じらう素振りをみせる。
すっと腰を引くと、肘まで伸ばしきった指先が空を切った。
「なんだよ、急に?! どうして逃げたりするの? ほら、大人しくして、大人しく
するんだ!」
「キャアァッ! 嫌ぁっ……乱暴はやめてください……許して……」

 肝心の処でお預けをくらった緒方が、荒っぽい行動に打って出た。
ノーブラの胸を両手で隠した千佳が、恐怖に顔を引きつらせて一歩二歩と後ずさりを
する。
スマホを構えていた卓造はそれを見て、思わず割って入ろうと身を屈めた。
だがその瞬間、襲われている筈の千佳がチラッとこちらに視線を送ったのだ、
(おいおい、ここまできてまだ撮影かよ)

                
       
 この作品は「羞恥の風」とっきーさっきー様から投稿していただきました。