『ツレがスケベ小説に染まりまして…』
    
                           とっきーさっきー:作

第5話 男女の仲をつなぐM字オナニー


 自分で全裸になるのは、お風呂に入る時だけ。
肌と肌を重ね合わせて、お互いの身体をひとつにさせるセックスの時は、吾朗が優し
く脱がせてくれた。
仰向けに寝そべる彼女から、ブラジャーもパンティーも。
不器用そうな指先をぎこちなく動かして。

 「涼花、ベッドに上がって」
「う、うん……わかった……」
吾朗は床に敷いた原稿用紙から目を離した。

 固く握りしめていた2Bの鉛筆も放り出すように手放すと、俯かせていた上半身を
引き起こしていた。
涼花は生まれたままの素裸なのに、吾朗は普段着のTシャツとチノパンのままである。

 その涼花は指定されたベッドの上で横座りのまま、胸を両手で抱いているのに、吾
朗はどっかと胡坐座りをすると、両腕を持ち上げて大きな欠伸をした。
「りょうかのストリップシーンだけで、原稿用紙5枚かぁ。ちょっと詳しく書きすぎ
たかな……はははっ」

 ブラウスにジーンズ。
それにブラジャーとパンティー。
ひと固まりにして雑に積み上げたモノに、涼花は目を落としていた。
妙に軽くて乾いた吾朗の笑い声を聞きながら、2000字に詰められたこれまでの行
為を思い返していた。

 「それじゃ、次はオナニーっていうことで」
少し現実逃避していたのかもしれない。
「涼花、オナニーだよ……そこで自分を慰めて見せてよ」

 だからだろう。
涼花は恋人の要求を、他人事のように聞いていた。
赤らめた顔に焦点のぼやけた瞳で、ただ口の端をニヤけさせた吾朗を見つめていた。

 オナニー……自分で慰める……
誰が……?
自分の指で……涼花自身が……

 とても分かりやすい日本語なのに、理解するのには暫くの時間を要していた。
「う、嘘でしょ……吾朗ちゃん?」
そして涼花の口から飛び出したのは、乙女として当たり前な反応。

 「僕の作る官能小説には、女の子のオナニーが必修なんだよ。このシーンを描かな
いことには、僕と涼花の関係も前には進めない。そう思うんだ」
吾朗の口元から、いやらしいニヤケが消えた。
両眼が真顔で見据えて、無理強いすぎるこじつけを持ち出してくる。

 「そんなぁ、オナニーなんて……恥ずかしいのよ、とっても……」
「だから必要なんだよ。涼花が恥じらいながら悶える姿が、この小説に絶妙なスパイ
スを加えることになるんだ」
涼花が恨めしそうに吾朗を睨んだ。

 けれども吾朗は素知らぬ表情である。
真顔な瞳に、似合いもしない目力まで湛えさせて、取って付けたような表現まで持ち
出すと、涼花の戸惑いを一気に瓦解へと進ませる。

 「卑怯だよ、吾朗ちゃん。言ってる意味もメチャクチャ勝手だけど……でも、だけ
どね……う、う~ん、仕方ないから見せてあげる。そ、そのね、涼花が独りエッチし
ているところ……」

 そして3分後、涼花が折れた。
何度も何度も諦め色をした溜息を吐いてみせ、あどけなさを残した顔付きのまま20
才の女体を、大人の女の兆しを見せる胸元と下半身を交互にも見つめ続けて、最後に
はハニカムように笑った。

 「サンキュー、涼花」
「吾朗ちゃん。やめてよ、そんな……」
オナニーを決意して感謝がられても、何も嬉しくはない。
しかし何であろう?
腹の底から胸の中に沸く高揚感は?

 涼花はお尻をズルズルと滑らせて、背中を壁に預けた。
ベッドシーツに乱れたシワを幾筋も刻ませながら、それも構わずに横座りの両足を崩
した。

 ヒザ関節を折り曲げる。
二つに畳んだ両足を、ぐっと引き寄せていく。
「『りょうかは男が見ているまで股を開いた。いわゆるM字開脚をしてみせると、左
の手のひらを胸のふくらみに乗せた。そして右の手のひらを拡げられた股間へと運び
……』それからっと……」

 チュク、チュク……にちゅ……
「ふぅっ……どうして……?」
サーモンピンクな恥肉は、既に濡れていた。

 吾朗の目からはガードするように、指を伸ばして押し当てた処からは、ヌルっとし
た愛液が潤み出していた。
乙女心は、決して望まなかった脱衣ショーだったのに?
それとも素肌の全てをはだけさせて、尚も、人目に晒してはならない自慰までを決意
して?

 「んんふぅっ……はあぁぁっっ……」
唇が薄く開いていた。
左手の指が無意識に乳房を揉み込んで、熱い刺激が喉を震わせている。
「嫌ぁ、恥ずかしい……でもぉ……」

 吾朗の眼光が、一直線に涼花の股間を貫いていた。
まるで西洋絵画の木の葉のように、秘処を隠す役目に徹する手のひら。
その伸ばされて伸び切った指先に、淫らな魔法を施していく。

 オナニーという羞恥と快感を両立させる行為へと、5本の指を誘っていく。
「ゴク、ゴクン……『りょうかの白魚そのままの指先が、紅い亀裂に這わされた。ぷ
っくりと膨らんだビーナスの丘に、小指と親指を残し、人差し指と薬指が陰唇の扉を
拡げる。
先兵を任された中指がその中心に深く沈み込み、複雑に絡み合う恥肉の層を掻き乱し
ていく』」

 「あぁっ、はうぅっ……疼いちゃうぅ、涼花の大切な処なのにぃ……指でこすった
だけでぇ、あはあぁぁ……」
涼花は喘いでいた。

 女の本能で、盛んに指を動かしていた。
くすんで色褪せた壁紙に背中を押し付けて、モゾモゾとさせて、きつく引き寄せてい
たM字の両足が、だらしなく崩れていって。

 写実的な吾朗の描写が、鼓膜の中から脳の中心に沁み込んでくる。
意識したことのない淫らな指の蠢きに、背筋がゾクゾクとして、切ない快感が全身の
筋肉を弛緩させる。

 シュル、シュル……スゥーッ……
「んふぁ、なんでぇ……どうして、吾朗ちゃんまでぇ……?!」


                
       
 この作品は「羞恥の風」とっきーさっきー様から投稿していただきました。