『ありさ 土蔵の濡れ人形  第二章』
 
                    Shyrock:作

第十七話「竹尺尻打ち」

 「二つ!」
尻を丸出しにして叩かれるお仕置きは古今東西に存在するが、一種異様な光景と言え
た。

 「三つ!」
竹尺がありさの尻を弾き、乾いた音を鳴らす。
十秒に一回くらいの間隔でそれは続く。

 「よ……四つ……」
言葉が少し遅れた。
何度も叩かれているうちに少しずつ痛みが増してきて、思わず声を詰まらせてしまっ
たのだ。
後に残る痛みではないが、打たれる瞬間の痛みは想像以上に強く、ありさは顔を歪め
た。

 「五つ……」
「声が小さい。次も小さかったら一から数え直しやで。ええな」
「は、はい」

 冗談ではない。
痛みよりも、このような屈辱が延長されるなんて耐えきれない。

 「六つ!」
ありさは喉から思い切り声を絞り出した。
九左衛門は満足そうに微笑んでいる。
「ええ声や。その調子で最後まで数えるんや」
「……」

 返事を怠ると、突然肉裂に指が割り込んでいた。
「ひぃ!」
「ちゃんと返事せんとこないなるで」
「はい!ちゃんとします!許してください!」
指は引っ込められたが、代わって再び竹尺が振り下ろされた。

 「な、七つ!」
「その調子や」
九左衛門は軽快な手さばきで打擲する。
乾いた音が部屋に響く。
打たれて痛みを訴えてくる尻のことはできるだけ考えないようにする。

 「八つ!」
尻を打たれて、大声を張り上げる。
もし第三者が見ていたら、実に滑稽な光景だろう。

 そもそもどうしてありさがこんな辱めを受けなければならないのか。
皿を割ったり煙管を壊した時とは事情が違う。
元はと言えば、九左衛門がありさを緊縛し手首に縄痕が残っただけのことではないか。
それがほかの奉公人に見られたからと言って、なぜありさがその責めを負わなければ
いけないのか。

 理不尽な理由で責められている自分が実に情けなかった。
ありさは口惜しさと屈辱感でいつしか涙目になっていた。

 「九つ」

 「とお」

 十発を越えた頃、ありさの尻の痛みも我慢しがたいところまできていた。
「じゅぅ……いち……」
歯を食い縛って数えたため、しっかりと声が出ていない。

 「声が小そうて聞こえへんな。もう一回」
十一回目は九左衛門に認めてもらえず、もう一度仕切り直しとなった。

 「十一っ!」
その後も竹尺は容赦なくありさの白い尻に炸裂し、やがて最終回の二十回目を迎えた。
その頃ありさの顔は可哀想に汗と涙でぐしょぐしょになっていた。

 あと一つだ。
そう思い最後の一撃を待つありさ。
部屋内に大きな音が響き渡り、火の出るような強い痛みが尻を襲った。
最終回と言うことで、九左衛門の手にも力が入っったのだろう。

 「二十!」
二十回目が打ち下ろされた瞬間にありさは息が詰まりそうになったが、懸命に声を絞
り出した。

 「よっしゃ。二十回や」
九左衛門は所々に赤くミミズ腫れが残っているありさの尻を撫で回した。
まるで医師が触診しているかのように、九左衛門のてのひらが尻肌を緩やかに滑って
いく。

 自分の手で赤く染めた尻の感触を確かめて、悦に入っているのだろう。
やがて九左衛門の指はありさの秘所に伸びてきた。
九左衛門に身体を穢されると分かっていても、四つん這いのままじっと耐えるしかな
い。

 「んっ……」

 九左衛門に陰核を包皮の上から撫でられ、ありさは息を詰まらせた。
ごつごつとした中年男の指で陰核を擦られ、ありさは不覚にも官能の呻きを漏らして
しまった。
そのことについて九左衛門に何か言われるだろうと思い、身構えたが、特に皮肉を浴
びせられることはなかった。

 九左衛門は、まるで恋人を愛撫しているかのように、優しい手付きでありさの陰核
を刺激し続けた。
いつも加虐的で手荒な九左衛門としては珍しいことだ。

 「どうや?気持ちええか」
こんな状況だと、どのように返事をすればいいのだろうか。
ここは当たり障りのない従順な返事をするのが無難だろう、とありさは思った。

 「は、はい……」

 九左衛門は尻打ちとは打って変わって、じっくりとありさを責めた。
指先で陰核をくすぐるように刺激したかと思うと、指の腹で軽く擦り上げたり、こね
回したりする。

 いつしかありさは甘い快感に襲われていた。
緊縛や尻打ちとは一味違った一面を見せる九左衛門であった。

◇◇◇

 縄の痕事件以降も、ありさは九左衛門に何かと難癖をつけられ度々責められた。
そのため身体にいつも小さな傷痕が残り、通常の仕事以外に九左衛門の相手をさせら
れ時間を割かれてしまうことから寝不足が続き、心身ともにかなり疲弊していた。

 そんな折、一人の訪問客があった。
「ごめんやす。ご主人はいたはりまっか」
応対したのは丁稚の利松であった。

 「へえ、どちらはんでっか?」
「わては道修町の山波淳三郎と申します」
「ちょっと待っておくれやす」

 利松は算盤を弾いている小番頭富七に、九左衛門を尋ねて訪問客があることを伝え
た。
「だんさんにお客さんやて?お名前はお聞きしたんか?」
「はい、山波淳三郎はんと仰るお方でおます……」

 「や、や、山波淳三郎はんやて!?どひゃ~~~!そらえらいこっちゃがな!」
「えらいこと?なんででっか……?」
「そんなこと説明してる暇あらへん!直ぐにだんさんに伝えなあきまへん!」

 
                

   この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました