『恵 快楽出張』
 
                    Shyrock:作
第3話


 自ら名前を名乗ってきた潔い態度には好感が持てる。
惠もつい仕事と同じように挨拶を返してしまっていた。
三谷と名乗るマッサージ師は物静かな口調で早速惠の症状を聞いてきた。

 「腰がすごくだるいんです。それと、肩も凝ってるんです」
「そうですか。分かりました。では、先ずバスローブを脱いで、バスタオルを身体に
巻きつけた姿になってもらえますか」
「は、はい」

 三谷の目前で着替えるわけにも行かず、惠は風呂場に行きバスローブを脱ぎ下着姿
になって、バスタオルで胸と腰を覆った。

 (これでいいかなあ?)
 
 鏡の中を覗き込み自分を確かめる。

 「なんか緊張するなあ……」

 惠はそっとつぶやいた。

 バスタオルを巻きつけた惠はベッドへと戻った。
ベッドの傍らには三谷が行儀よく椅子に座って待ってくれている。

 「お待たせしました。じゃあ、お願いします」

 惠は自らの緊張を解きほぐすかのように、わざと明るい声で三谷に語りかけた。

 「じゃあ、ベッドにうつむけに寝てもらえますか」
「はい」

 惠は枕に肘を乗せ、三谷の指示どおり仰向けに寝転んだ。

 「では始めます。先ず部屋を少し暗くして、音楽を流します」
「はい……」

 音楽はいいとして、部屋の灯りを暗くすることにはかすかな抵抗があった。
だが断るわけにも行かず、惠は三谷に任せることにした。

 しばらくすると部屋が薄暗くなり、川のせせらぎのような音が聴こえてきた。

 「水の音は人にリラックスを与えてくれます。部屋を暗くするとさらに効果が上が
ります」
「そうなんですか……」

 「では今からマッサージをします」
「はい……」

 三谷が最初に触れた箇所は首筋であった。
 
 「はじめに、緊張を和らげるマッサージを行います」
「はい……」

 三谷の指は温かだった。
そして華奢な感じがした。

 首筋に指が宛がわれ、軽い指圧が始まった。
 
 (あぁ、気持ちいい……)

 「かなり凝ってますね」
「やはりそうですか」
「はい、かなり硬いです」

 首筋に指圧が施された後、次に上腕部へと移った。
気持ちがよくて、疲れがす~っと引いていくように感じられた。
指圧はあくまで緩めだが、ツボを心得ている者が行うと力など要らないのかも知れな
い、と惠は思った。

 指は背中へと移動した。
背中から脇にかけて、外から内に、内から外へと円を描くように手のひら全体を使っ
て軽く撫でられた。

 (うわぁ……すごく気持ちいい~……)

 同じ動作が2分ほど繰り返された頃、全身の力が抜けていき、眠っていた何かがか
すかに目を覚まし始めていた。
ただ今の惠にはそれが疲労回復の兆しであると言う認識しかなかった。

 (あぁ……でも何かへん……身体が熱くなっていく感じ……)


 指は背骨の両側へと移動し始めていた。

 「いかがですか?この辺りに腰のツボがあるんですよ」
「うううっ、そこ、すごくいいですぅ……」
「この辺りに指圧を加えると腰の疲れが取れるだけではなく他にも効果があるんです
よ」
「うっ、うっ、どんな効果ですか?」

                

   この作品は「愛と官能の美学
」Shyrock様から投稿していただきました