『恵 快楽出張』 Shyrock:作 第2話 電話に出たのは女性のホテリヤであった。 「あのぅ……マッサージをお願いしたいんだけど」 「マッサージでございますか?はい、すぐに手配させていただきます。15分ほどお 待ちいただくことになりますが、よろしゅうございますか?」 まだ歳は若いようだが、丁寧で落ち着いた口調が惠に好印象を与えた。 「15分ね。分かったわ。じゃあ、お願いね」 (ガチャン……) 15分と言うことは、マッサージ師はおそらく近所で待機しているのだろう。 マッサージ師は男性だろうか?それとも女性? できれば女性の方がいい、惠は思った。 それなりに名前の通ったホテルだし妙な間違いはないにしても、やはり個室に男性と 二人きりになると言うのは緊張もあるし、不安がまったくないとは言い切れない。 「あれこれ考えたって仕方がないか。男か女かどっちかが来るんだし~。考え過ぎ ~、考え過ぎ~。あははははは~」 微かな不安が頭をかすめたものの、惠はすぐに思い直した。 両手を上に伸ばし背中からベッドに寝転んだ。 分厚いクッションが華奢な惠を跳ね返し小さくバウンドした。 弾みでバスローブの裾がまくれあがり、太股があらわになった。 カモシカを髣髴させるようなよく引締まった美脚は社内でも評判で、社員食堂で惠が テーブルの端に座っていると、つい見惚れる男性社員も少なくなかった。 それもそのはず、惠はアマチュアながらモデルの依頼もあり、まれに撮影会へも顔 を覗かせていた。 惠はマッサージ師が来るまでの間、有線放送から流れる音楽を聴き時を過ごしてい た。 ポップスを少し聴いたあと、チャンネルをクラシックに合わせてみた。 聴き慣れたとても美しいメロディが流れてきた。 「あ、ショパンのノクターン2番だわ……」 惠はしばし甘美な旋律に耳を傾けていた。きら星のように輝くコーダの美しさは特 に惠のお気に入りの部分であった。 「あぁ、うっとりするぅ……」 (ピンポン~) その時、玄関の方で来訪者を告げるチャイムが鳴った。 「あっ、マッサージ師さんだわ。は~~~い!ちょっと待ってね~!」 惠は急ぎ足で玄関口まで行き、念のためドアスコープから外を覗いた。 男性が立っている。歳は30代半ば位だろうか。 「は~い」 「おじゃまします。ボディリフレッシュにまいりました」 「はい、ちょっと待ってね。すぐに開けますから」 (ガチャッ) ドアを開けると男性はペコリとお辞儀をした。 背が高くかなり痩せている。 栗色の髪を長く伸ばし、驚くほどの美形であったため、惠は面くらってしまい思わず 言葉を詰まらせてしまった。 「あのぅ……」 「はい……?」 「入らせていただいていいですか?」 「あ、ごめんなさい。どうぞどうぞ」 惠は男性を中へ案内した。 広めを借りたつもりでも、ホテルのシングルルームはやはり狭い。 椅子も1つしかないため、椅子は男性に与え、惠自身はベッドに腰を掛けることにし た。 「三谷です。どうぞよろしく」 「花塚です。こちらこそよろしくお願いします」 「どちらから来られたのですか?」 「東京からです」 「お仕事で?」 「はい、今日明日仕事で」 「それはお疲れでしょう。で、どんな症状ですか?」 この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました |