『恵 快楽出張』 Shyrock:作 第1話 会議が終わった後も、惠は支店長たちから熱心なもてなしを受け、断りきれず、つ い酒の量が進んでしまった。 ホテルまでの帰り道は会社が用意してくれたタクシーには乗らず歩いて帰ることにし た。 酔いのせいか少し顔が火照るので、夜の凛とした冷気にさらされたかった。 「あぁ、少し飲みすぎちゃったかなぁ……」 繁華街からいつしか八丁堀のビル街へと歩いていた。 もう少し行けば今日宿泊するホテルが見えてくるはずだ。 しかし惠の足取りは重かった。 顔が火照るだけではなく、身体全体が何故かだるいのだ。 酒のせいだろうか、それとも、久々に長時間列車に乗った疲れからだろうか。 「ほんとマジでだるいよ~。早く風呂でほぐさなきゃ」 惠はホテルに戻るとすぐにバスタブの湯のコックをひねった。 湯を張っている間に、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターをぐいっと飲んだ。 酒を飲んだ後は水が一番だ。 部屋の電気を消した。 そして窓のカーテンを開けて外の景色を眺めた。 部屋は14階なので夜景もまずまずと言える。さ すがに政令指定都市の広島市だけあって窓から見える灯りも賑やかだ。 「ふ~む、いい眺めだなぁ。ここに彼氏がいたらなおいいんだけどなぁ。あはは」 惠には今付き合っている彼氏がいる。 今日、1、2通のメールは交したがまだ声は聞いていない。 「寝る前に電話しよう~っと。ん?もうお湯が張れたかな?」 風呂を覗くともう湯はほぼ張れている。 惠はバッグを開けて着替えの下着を取り出した。 黒のキャミソール、黒のブラジャー、そして黒のTバックのセットだ。 明日着る洋服が黒っぽいので合うだろう。 着替えの下着を一旦ベッドに置き、着ていたジャケットをクローゼットのハンガー にかけた。 「出張用なのにちょっとセクシー過ぎたかな?でも私、黒のTバック好きなんだも の~。それにあの人も黒のT大好きだって言ってたしぃ。うっしっしぃ~。あ、でも、 今日は関係ないか。あははははは~。こう言うのって場違いって言うのかな?」 惠は後で着替える黒の下着を見て、ひとりつぶやいていた。 風呂はバスタブとトイレとが一体になったユニット型だ。 いささか狭いが、ビジネスなら贅沢も言えない。 バスタブに身体を沈めると、潤沢に張った湯が溢れ出る。少し熱いめだが、疲れた 身体にはちょうど良い。 「ふぅ~、気持ちいい~……」 惠は明日のスケジュールを考えていた。 午前中打合せを行って、昼には解放される。 「安芸の宮島に行こうかなぁ~?まだ行ったことないし。それとも早く新幹線に乗 って帰ろうかな?」 入浴にたっぷりと時間を掛けた惠は、その甲斐あって、酔いも冷めて少し気分がよ くなっていた。 しかし、身体のだるさがいっこうに抜けない。 「あぁ、腰がだるい……どうしたんだろう……生理でもないのになぁ……」 惠は室内に置いてあったサービスプログラムを開いた。 『ボディ・リフレッシュ不調個所を刺激することにより血行を促進し、お客様の抱 えている様々なストレスや日常生活での疲れ(肩こり、腰痛など)を、改善へと導き ます。 ゆったりとしたベッドにて、心地よい音楽を聴いていただきながら、お好みの力加減 にて施術を行います。』 「あぁ、あった、あった。これだわ……」 プログラムの一番下に、マッサージサービスの記載があった。 惠はフロントへ電話をかけた。 「もしもし……」 「はい、フロントでございます」 この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました |