『球 脱獄(推敲版)』
 
                    Shyrock:作

第14話 野獣の雄叫び

 嫌がる球をものともせず、原口はさらに腰をグイッと突き出した。
額には玉のような汗が浮かんでいる。
秘孔からしだいに粘液が滲み出し、抽送する肉柱に絡み付いてグチュグチュと卑猥
な水音を奏で始める。

 椅子に緊縛されて身動きの取れない球を思う存分責めまくる原口。
球の背中が椅子に密着しているため、原口は椅子を抱きかかえるような体勢で腰を
激しく律動させた。

 球の狂おしげな、それでいて悦楽に咽ぶような声が痛々しく聴こえる。
原口は猛スパートを掛け、フィニッシュの体勢に入った。
「ひゃぁ……!いやあ……!うはぁ……!あぁ~~~!くはぁ~~~~~~~~!」
「うおっ、うごぉ~~~~~~~!」

 野獣の雄叫びが響きわたると、白濁の液体は花弁の奥深くに注がれた。
精を放出した原口は、球のきめこまやかな肉体に頬を埋める。
これほど凶悪な脱獄犯であっても、男としての役目を果たした後は少年のような仕
草を見せるものなのだと球は不思議に思った。

 しかし少年に戻ったのは、ほんの一瞬であった。
原口はすぐに野太い声を発し球を威圧してきた。
「おい、風呂を沸かすんだ」
「え? 風呂を?」

 「俺は逃げ回って疲れてる。風呂に浸かりたいんだ。それとも何か? 脱獄犯の
俺などお前の家の風呂には入れられないって言うのか?」
「そ、そんなことはないけど。分かったわ……じゃあ、縄を解いて」
「いいだろう。縄は解いてやる。だけど妙な気は起こすなよ。逃げたりしたらただ
じゃおかねえからな」
「分かってるわ」

「でへへ、言わなくても分かってるだろうが、風呂はもちろんお前と混浴だぜ。俺
の身体を洗わせてやる。ありがたく思え」
「……」
球をいっしょに風呂に入れるのは性的な目的もあったが、逃走防止のためでもあっ
た。
球に対して原口は、常に注意を怠ることはなかった。

 球の縄は解かれた。
長時間緊縛されたことで手足が痺れている。
球はふらつきながらもリビングに設置されている浴室操作盤を開いた。

 自動湯張りのボタンを押す。15分もすれば湯が溜まるだろう。
ボタンを押すと、球は急に力が抜けてへなへなと床にしゃがみ込んでしまった。

 「どうした? 脚が痺れたか? この後大人しくしていれば、縄は軽めにしてや
ってもいいぜ。とにかく言われたとおりに従うことだ」
「……」

 「おい、ちゃんと俺の着替えを用意するんだぜ」
「着替え? 男物なんて持ってないよ」
「親父の物があるだろうが」
「お父さんの? うん、あるけど……」
「じゃあ、用意しろよ」
「分かった」

 風呂を沸かしている間に、球は父親の部屋にシャツとトランクスを取りに行った。
その間、どういうわけか原口は球の監視の手を緩めた。
もしかしたら、上半身が裸なので、逃走しないと思ったのだろうか。

 しかし、半裸であっても球にその気があれば、父親の部屋の窓から逃走できない
わけはなかった。
球は父親の肌着を持って戻ってきた。
原口はにやりと微笑むと、球が差し出した下着を受け取った。

 「ねえ……」
「なんだ?」
「上に何か着ていい? ガウンとか」
「寒いのか? 着ていいぜ。風邪を引かれたら困るからな」

 球は小猫柄をプリントした光沢感のある素材のガウンを羽織った。
「あのぅ……」
「ん?」
「あなたはいつまでここにいるつもりなの?」
「そうだなあ。お前の両親は4日後に帰ってくるんだったな」
「そうよ」

 「じゃあ、その直前に失せることにするかな?」
「どこへ行くつもりなの?」
「どこって……そんなことをお前に言えるわけねえだろう」
「じゃあ、聞かないわ」
「うん、聞くな」
「ずっと逃げ続けるつもりなの?」
「そりゃそうさ。俺は脱獄者だ。捕まればまたムショ暮らしだ。ムショはもううん
ざりだぜ」

 「捕まったら懲役が延びるんでしょう?」
「まあ1年は延びるだろうなあ」
「じゃあ、自首すれば?」
「な、なんだと!? ふざけたことを言うんじゃねえ!」
「ふざけてないよ、真面目な話だよ。そのほうが少しは刑期が軽くなるんでしょ?」

 「バ、バカなことを言うんじゃねえ! 苦労してやっと逃げて来たのに、あんな
むさくるしい所に戻ってたまるか!」
「脱獄していなければ、あとどのくらい刑期が残っていたの?」
「1年だ」
「えっ? あと1年だったのに脱獄したの? じゃあ、捕まったらまた2年かかる
じゃないの」

 「ちぇっ、そんなこと、おめえに言われなくても分かっているさ。捕まることを
恐れて脱獄なんかできるかってんだ!俺はムショ暮らしに飽き飽きしたんだ。早く
娑婆の空気を吸いたかっただけさ」
「でもねぇ」

 「おい、ごちゃごちゃとうるせえんだよ! 風呂だ、風呂! もう湧いてるんじ
ゃねえのか?」
「うん、ちょっと待って」

 浴室操作盤を確認してみると、すでに風呂は沸いているようだ。
湯張り時に流れる自動メッセージにまったく気づかなかったようだ。

 「ちょっと熱いかも知れないよ。熱ければ水を足して」
「おい、俺を1人で風呂に入らせる気か?」
「でも、狭いし……」
「狭くてもいい。おまえも入れ」
「……」

 「まさか俺が風呂に入っている間に、逃げようなんて考えてるんじゃねえだろう
な?」
「そんなことしないわ」
「ふん、どうだかな。とにかくおまえも来い。俺の背中を流すんだ」

 散々犯されたあげく、まだこんな野卑な男の背中まで流してやらなければならな
いのか。
球は情けなくて、泣きそうだった。

 「おい、来いと言ってるのが聞こえねえのか……」
「分かったわ」