『球 脱獄(推敲版)』
 
                    Shyrock:作

第5話 どす黒く汚れた麻縄

 「そんなことされてません」
「ほう? そうか。されてないってことは彼氏がいるんだな?」
「……」
「まだ高校生なのに、男といやらしいことをしてるんだろう?」
「してないわ!」
「嘘をつけ! 彼氏がいるのにいやらしいことをしてねえなんて話は通らねえぜ。
白状しな。本当はしてるんだろう?」

 原口は蜜壺に右手の中指を挿しこんだまま、包丁を持った方の左肘で球の背中を
小突いた。
右手の中指は相変わらずGスポットを擦っている。

 「ひぃっ!……ああっ……や、やめて……!」
「どうしたんだ? ここが感じるのか? どうなんだ。感じるんだろう?」
「か、感じないよ……」
「ふん、そうかい。じゃあ、感じさせてやろうじゃねえか。ここを擦られると、た
いていの女は『ヒイヒイ』と喚き散らすものだぜ!さあ、いい思いさせてやるぜ!」

 (グリグリグリ、グリグリグリ~!)
原口は吐き捨てるように言うと、膣口から3センチ奥の内壁を激しく擦り始めた。
「いや! いや! や、やめて! お願い!やめて~~~!」
「気持ちいいんだろう? なぁ? 気持ちよくなって来たっていいな!」

 「う……ううっ……気持ちよくないよ!」
「ほほう、気持ちよくねえってか? じゃあ気持ちよくなるまでたっぷりと擦って
やるぜ!」
「いやっ! やめて~~~~~!」

 流し台に腹這いになっていた球であったが、隙を見て反撃に転じた。
振り返りざま原口に体当たりし、間隙をぬってスルリと抜け出した。
包丁を持っている相手なので、危険な賭けと言えるだろう。

 原口がいくら大男であって腕力にすぐれていても、油断をすれば獲物に遁走され
た猛獣と同じだ。
球は台所から飛び出し、玄関口へと駆けて行った。
懸命に追いかける原口としても必死の形相だ。

 ここで球を逃がしてしまえば、自身はふたたび逃亡しなくてはならない。
原口とすれば逃走中やっと見つけた束の間のオアシスである。
蜃気楼にはしたくない。

 球は戸口まで辿り着き、なんとか逃げ切れるかに思われた。
ところが、皮肉にも防犯のため玄関ドアを二重ロックにしており、そのうえドアガ
ードまでかけていたので、開錠するのに時間を要してしまった。
球がもたついている間に、男の影が球の背後まで迫った。

 そそくさと二つの鍵を開けドアガードに手をかけたとき、丸太のような腕が球の
首に巻きついた。
「うぐぐ……」
「ちょっと油断した隙にこのアマがっ!」
「うううっ……く、苦しい……」

 首をグイグイと絞め上げる原口のいかつい手。
球は遠ざかっていく意識の中で懸命に抵抗を試みた。
「俺から逃げようなんて考えない方がいいぜ! 包丁で一突きにしてやってもいい
が、殺すにはちょっと惜しい娘だからなあ」
「ううう……」

 そうつぶやきながら原口は絞めあげていた手の力を抜いた。
これ以上絞めたら窒息死してしまう。だが早めに手を放せば死ぬことはない。
悪行に長けた原口は絶妙のタイミングを心得ていた。

 球は苦しさのあまり床に崩れてしまった。
フローリングに倒れ込みぐったりとしている。
原口は逃走中ずっと担いでいたリュックサックを肩から下ろし、袋の中をゴソゴソ
と探し始めた。

 そしてリュックサックの中から一本の麻縄を取り出した。
麻縄はかなり使い込んでいるようで、うす黒く汚れている。
刑務所暮らしの間、このようなものを一体どこに隠し持っていたのだろうか。

 原口は慣れた手付きで球を縛り始めた。
球の意識はまだ朦朧としている。
原口は早速球を縛りはじめた。

 両腕を背中側で組み、その腕を束ねるように縛った所を起点とし、背中の中央を
展開点として上腕と胸元に縄をかけていく。
後手縛りの完成である。

 「お願い……ひどいことはやめて……」
「けっ!よくいうぜ。逃げようとしたくせに」
原口は球の哀願を鼻先でせせら笑った。

 「さあ、立ちな。ほかの部屋を案内してもらおうか」
球は立ち上がろうとしたが、両手を後手に縛られているため、バランスを崩し倒れ
そうになった。

「おっとっと、危ねえぜ、お嬢ちゃん」
よろめく球を分厚い身体が受け止めた。
ぷんと匂う男の体臭が球の鼻をつく。
原口にかかえられるようにして球は廊下を戻り、ふたたびリビングルームに入った。

 左側には大きなピアノ、そして右側にはソファが配置されている。
原口はぐるりと部屋を見渡した。
「おまえところはなかなかの金持ちのようだな?」
「そんなことないよ」
「隠しても無駄だぜ。調度品を見りゃ俺だって分かるさ」
「……」

 「さっきの続きをしようじゃねえか?」
「さっきの続き?」
「へへへ、そうだよ。台所でせっかくいいとこまで行ってたのに、突然逃げたりす
るから中断してしちまったじゃねえか。なあ、おまえは名前は何て言うんだ?」
「……球」
「球か? 珍しい名前じゃねえか。俺は原口って言うんだ」
「……」

 「ははははは、脱獄犯の名前なんてどうでもいいよな? まあ、それはいいとし
て……」
原口はそういった後、ふたたび球のスカートの中にその厳つい手を忍ばせてきた。
「きゃぁ~~~!」