『放課後の憂鬱』

                               ジャック:作
第8章「無邪気な悪魔・後編」(2)

 「冗談だよ。そんなにムキにならなくたって。ははは。」
「・・・・・」
吉田が笑い飛ばすと、藍は少し膨れて下を向いてしまった。
「まぁ、まぁ。怒らない、怒らない。それより藍ちゃん、この前の水着の撮影のとき気
付いたんだけど・・」

 吉田がそう言うと、藍は元に戻って聞いた。
「・・えっ? なにか・・」
「藍ちゃんさぁ、処理、してないよね?」
「えっ? ショリって? な、なんの?・・・あっ!」藍は吉田の質問の意味がわかる
と、真っ赤になってしまった。

 藍は確かにこれまで「陰毛の処理」など、したことはなかった。
「・・・ど、どうすれば・・・いいですか?」
藍は恥ずかしそうに吉田に聞くと、吉田が藍の耳元に顔を近づけ、小声で言った。
「・・・ちゃんと、剃っといてね。あれじゃはみ出しちゃうよ・・」

 藍はますます恥ずかしくなり、しどろもどろで答えた。
「えっ? あっ、えっと、は、はい。・・・わかりました。」
「今晩ぐらいから、ね。剃り始めてすぐだと、肌が荒れてることもあるから・・気をつ
けて剃ってよね。傷つけないように。」

 吉田がそう言うと、藍は下を向いて答えた。
「はい・・わかり・・ました。」
「よしっ、じゃあ今日はここまでだ。藍、次の仕事に行くぞ。・・・吉田、頼んだぞ」
時計を見ていた岸田が、区切りをつけるように言うと立ち上がった。藍は岸田と次の仕
事に向かった。

 その頃、藍の学校の昼休み。映研の部室では、部員が顔を揃えていた。
奥の椅子に、すぐ前の机に足を投げ出して高科が座っている。藍がいるときに見せる、
優等生のような表情が消え、不良っぽい雰囲気だ。
すぐ横にさちが座り、やや離れた中央の机を囲んで、他のみんながひそひそと話し込ん
でいた。

 吉田や伊藤たちは、藍が昨日今日と間学校を休んでいることが気がかりだった。
そして吉田が不安そうに高科に言った。
「・・先輩、あれって、やっぱまずかったんじゃないすか?」
高科はそんな不安を吹き飛ばすかのように言った。
「おいおい、なーに言ってんだよ。全て計算どおりだぜ! ぜーったいにうまくゆくっ
て」

 「でも、ねぇ・・・二日も休んでんすよ?・・先公にでもチクられて、バレたら俺た
ち退学っすよ、きっと。」
「だ~いじょぶだよ! 藍ちゃん、そんなバカじゃねぇって。あいつぁ芸能人なんだぜ。
ゲイノージン!・・スキャンダルは一番まずいっしょ? 自分から晒し者の道、選びっ
こねぇって。心配いらねーよ!」

 「そんなもんすかねぇ・・」
「それにな、あれはもう目覚めてるって。まちがいねぇ。ほれ、このビデオ見ろよ。目
覚めてなきゃ、自分からこんなカッコすんか?」

 「まぁそうっすけど・・」
「まぁみてろよ、明日あたりまた顔出すよ、ちょっと苛められるのを期待してな。だか
ら希望をかなえてやらにゃ、かえってかわいそーだろ!・・・そうだ、さち! 台本、
書き直してくんないか?」

 「いいわよ。で、こんどはどうすん?」
「ふふ・・どうせあいつぁ、いじめられたいんだ。だから、な・・・」
「え~っ!? そりゃすげぇ! でも、そこまでやっていいっすか?」
聞き終わった吉田が目を輝かせた。伊東と柴田がゴクッと唾を飲み込んだ。
「そうよ、やっちゃえばいいんだわ。あいつ、自分が違うと思ってるんだから。いい気
味よ」

 それまで黙っていたゆうこが口を挟んだ。
「みんな、なんて顔してんのよ。どーんとやろうよ!」高科が押さえるように言った。
「まぁな。ただ・・・傷にしちゃマズイ、いいな? まぁ、こっちにゃまた切り札が手
に入りそうだが・・」

 「またビデオ、撮るんっすね!?」
「ははは。それだけじゃねぇんだよ。まぁ黙ってみてなって。」
高科は不気味な笑みを浮かべ、吉田たちに言った。
あまりに自信満々な態度に、吉田も伊藤も次の言葉は出てこなかった。

 その日、藍は前日ほど遅くならずに家に帰った。藍は秋や両親と食事を済ませると、
風呂に入った。
吉田の言う通り、カミソリを持って・・
藍は今まで自分の陰毛を処理したことなどなかった。せいぜい腋にカミソリを当てる程
度だった。

 体を洗い終わり、湯船につかっていた。が、藍はどうしよう、とずっとそう考えていた。
そしていよいよ覚悟を決めて、カミソリを手にした。が、すぐに置いた。
(あっ、シェービングクリーム、つけなきゃ・・)
本当は、そんなコトはしたくなかった。剃るのを、少しでも先に延ばそうとしていた。

 しかし、諦めたように父親がいつも使っているシェービングクリームを取り、泡を手
のひらに乗せた。そしてそれをつけようと、自分の股間に目をやった。
藍はそれまで自分の性器をまじまじと見たことなどなかった。まるで、不思議な物を見
るように、目を開いて自分のそこを覗き込んだ。
(あ、こんなになってるんだ・・)

 泡のないほうの手を、見慣れない性器にやった。
(・・あっ!)
藍の手が性器に触れた時、ビクッとなった。しかし藍はすぐに我に返った。もう片方の
手の泡が気になったからだ。
(・・・剃らなきゃ、ね。でも、なんかやだなぁ。)

 そう思ったが、藍は自分の股間に泡をこすりつけた。
(・・あっ! すーっとする・・)
男性用シェービングクリームの、メントールの冷たい刺激が股間に走った。
藍はそれだけで、少しとろーんとしてしまった。その夢の中のような気持ちのまま、カ
ミソリを当てた。

 (あっ! やだっ・・)
カミソリの冷たい感触が股間に触れ、それと同時に陰毛が藍から離れてゆく。
(なんか・・・ヘン・・)

 その時だった。
「おねーちゃん! いつまで入ってるのよ! あたし、明日早いんだから早く出てよ!」


              

    この作品は「ひとみの内緒話」管理人様から投稿していただきました。