『放課後の憂鬱』

                               ジャック:作
第4章「狼の目」(1)

 次の日の放課後、藍は高科との約束を忘れていなかった。
昨日の記憶は、藍を躊躇させるには十分のはずだった。が、足は自然と部室に向かって
いた。
そして部室の前まで来ると、ゆっくりとドアを開けた。

 次の瞬間、藍は少し安心した。
吉田も、伊藤も柴田もいた。しかし今日は二人の女子も、高科もいる。
(・・よかった。みんないる・・)
高科はドアの前に立ち止まっている藍に目をやると、「どうしたの? 中に入りなよ。」
とやさしく声をかけた。

 その言葉に引き込まれるように、藍は部室の中央のいすに座った。
女子部員の一人、さちが藍に「藍もお茶する?」と聞いてきたので、「うん。」と答え
た。
「紅茶でいいよね? 砂糖とミルクは?」
「うん。ミルクだけ・・」

 さちが紅茶を入れて藍の前に出した。
「さぁ、そろそろちゃんとやりはじめないとな!」と高科が口火を切ると、今度の映画
についての話し合いが始まった。

 「やはり、山場は押さえとかなきゃな! ここんとこの出来一つで、全体を左右する
しさぁ・・」
「そうね、この“捕らえられた”場面でしょ?」
高科とゆうこが台本を確認している。

 「そうっすね、部長。でもここは、主演の藍ちゃんの意見も聞きたいんすが・・・藍
ちゃん、どう思う?」
まるで昨日の出来事などなかったかのように、吉田たちも藍に話しかけてくる。

 藍は吉田たちには口もききたくなかった。
しかし、高科が気を遣ってくれているのが伝わってきたため、しかたなく普段どおり話
をしようとした。

 「えっ? あっ、あの・・。け、結構いい線だと思うけど・・・」
藍はもらっていた台本を思い出し、その場面を想像しながら会話に参加した。しかし、
どうしても口調がぎこちなくなるのが自分にもわかった。
(・・やだ、みんなに変だと思われちゃう・・)

 「もしかして藍ちゃん、もう全部覚えてるの? さすが、プロだね!?」
台本を開かずに話し始めた藍を、すかさず高科が誉める。
「あっ、は、はい。・・・でも・・・いつも仕事でそうしてるし・・」と頬を少し赤ら
めて照れた。なにより高科に誉められたのが嬉しかった。

 たしか、捕らえられた主人公が暗い牢獄に閉じ込められ、恋人を思い涙する、そんな
場面だった。
「藍ちゃん、今日はここの練習でいい?」と高科が尋ねると、「はい。がんばります。」
と藍は答えた。

 藍は高科の言葉にはとても素直だった。自分でも不思議なくらい・・
「さて、ここじゃ雰囲気出ないよな・・どこかないか?」と高科がみんなに聞いた。
「あっ、プールのシャワー室なんかどぉ?」とゆうこが答えた。

 「あそこかぁ! いいねぇ。いい雰囲気でるぞ! 吉田、おまえ先生に使用許可とっ
てこい!」高科が吉田に言うと、「わかりました。水泳部の顧問でいいっすよね?」と
聞き返した。
「そうだな。急いでいけよ!」と高科がせかしたので、すぐに飛んでいった。

 「藍ちゃん、制服汚れるといけないから着替えなよ?」と高科がさりげなく聞いた。
さちもゆうこも体操服姿だったので、藍はためらうことなく「はい」と答えた。
「あっ、紅茶、冷めちゃうよ?」
立ち上がりかけた藍に、さちが紅茶の紙コップを押しやった。
藍は素直に差し出された紅茶を飲み干すと、着替えに出て行った。

 藍は更衣室で体操服を取り出し着替えようとした。が、少し変な気分になった。
昨日の部室での出来事と、家に帰ってからの自分の部屋での自慰、その記憶が鮮明に蘇
ってきた。

 藍は暫くためらっていたが、ゆっくりと制服を脱ぎ始めた。ブレザー、ベスト、そし
てブラウス・・・一枚脱ぐたびに、胸が高まっていった。
(なんで?・・・なんで、こんなにどきどきするんだろう?)

 ゆっくりと体操服のTシャツに手を伸ばし、上に着ようとした・・・が、Tシャツを
もとに戻してしまった。
そしてスカートに手を掛けると、それも脱いでしまった。ブラジャーとパンティだけの
姿になって、ジッと立ちつくした。

 (・・・いや、こんな格好・・・)
藍は胸を隠そうとして、両手を上げた。しかしその手は胸を覆う代わりに、藍の意志に
反してブラジャーを脱がし始めたのだ。
(ああ・・・ダメ・・・見ないで・・・)

 抵抗するように、いやいやと首を振る藍。しかし、藍の手は更にパンティにかかって
いた。
まるで夢遊病者のように、ゆっくりとした動きで、とうとうパンティも脱いでしまった。
下着も何もつけず、全裸になっていた。

 そして、藍の胸の高まりは絶頂を迎えていた。
(どうしちゃったんだろう・・あたし・・こんな姿で・・・)
しかし藍の羞恥心は、胸の高まりに消されていた。その時、昨日自分の部屋で恥ずかし
いことをさせた「もう一人の藍」が、姿をあらわそうとしていた。

 (あぁ・・や、やめて、触らないで・・・)
(お願い・・・苛めないで・・・ひどいこと、しないで・・・)
藍の顔が、赤く火照っていた。藍の手は、あらわになっている胸に迫っていた。

 「・・あい~、なにしてんのよ~。先いっちゃうよ~」
突然、更衣室の外から声がした。戻るのが遅い藍を、さちが呼びに来たのだ。
(あっ、いけないっ。急がなきゃ・・)
藍はその声にハッとして、慌てて手を降ろした。

 「う、うん。もうちょっとだから部室で待ってて!! すぐ行くから~」
藍は半ば無意識のまま、そう返事をすると脱ぎ捨てた下着に目をやった。が、躊躇する
ことなく全裸の上からTシャツとブルマーを身に付けていった。


              

    この作品は「ひとみの内緒話」管理人様から投稿していただきました。