『恭子さん』

                          二次元世界の調教師:作
 
第21話 恭子さんにAV出演を承諾させる

 「ところで、奥さん」
「はい」
「今日参りましたのは、例の示談金の事ですのやが……」
「三十万円でしたら、必ず来週までには用意致します。もう少し待っては頂けませんか」

 「いや、それが、誠に申し上げにくいのやが……三倉さんに山田さんが三十万円払う
事を承諾された事を連絡した所、あのお母さんが火い吹いて怒られましてな」
「ど、どう言う事でしょう?」

 「お母さんが言うには、三十万などと言う端金で示談に同意した覚えはない、三百万
のつもりやった、と。指三本で、これでええでっか? と話をしたんで、わてもてっき
り三十万やとばかり……」

 「そんな、無理です! 三百万なんて……」
「わても、ちと無茶やと思うんやが、示談っちゅうのは本来警察の厄介になる問題を内
々で片付ける、言う事やから、被害者側が三百万を要求しとる以上、呑まざるを得まへ
んのや。三倉さんは、すぐにお金が払えないなら、警察に行く、言うとられます」
「……わかりました。主人と相談して、何とかします」

 ーーすまんな、恭子さん。何とかされては困るんや

 「いや、それでは遅いんですわ。三倉さんはもうカンカンに腹を立てとられて、今日
の5時までに三百万、用意せえ、と」
「え!?」
「わても今朝三倉さんから話を聞いたばかりでね。本当に、申し訳ないのやが……どう
考えても、無理ですわなあ」

 恭子さんの顔が蒼白になったかと思うと、大粒の涙がボロボロとこぼれ始めた。
彼女を騙して貶めるためだから、明らかに無理な条件を吹っ掛けてみたのだが、こんな
美女に泣かれると錐で突かれたみたいに胸が痛んだ。

 「奥さん、泣かんといてや。実は、わてに任せてくれたら、何とかしてあげられるや
も知れんのです」
「……三百万円を、ですか」
「この後の話は、絶対誰にも明かさない、と約束してくれまっか?」
「主人にも?」
「それはまあ、奥さんが判断しなはれ。言わん方が無難やと思うがな」

 俺はあえて謎めかした事を言って、恭子さんの気持ちを揺さぶった。
もちろん夫には絶対明かせない交渉を提示するつもりである。

 「選りに選って、三倉さんとは、相手が悪過ぎましたわ、奥さん。あのお母さんには、
バックに厄介な男が付いとりますのや。三倉さん、シングルでっしゃろ? 恐いお兄さ
んの情婦なんですわ」
「じょうふ?」
「本妻やのうて、二号さんみたいなもんやな」

 これは全くの嘘でなく、守男を念頭に置いて言ったのだが、恭子さんはヤクザでも想
像してくれただろうか。
守男はヤクザ以上に厄介で恐い男である。

 「あのお母さんが無茶な事吹っ掛けて来るのは、その男の入れ知恵や。アンタらから
身ぐるみ剥いだろう、とくらい考えとるのかも知れん」
「そんな……」

 一旦泣き止んでいた恭子さんが、再びさめざめと泣き始めた。
どんどん事態が悪化するような事を俺が吹いているからだが、ここで俺が救世主のフリ
をする。

 「奥さん、泣きながらでもええから、よう話を聞いてや。三倉さんの話聞いて、わて
はすぐその男と話して来た。知っとるのや、その男をね。昔の仕事仲間なんやが、絶対
誰にも言わんといてな」
「はい」

 相当ショッキングな話の展開であるが、恭子さんは泣きじゃくりながらもきちんと返
事をして、理性を保っているようだ。これなら大丈夫だろう。

 「で、実はその足ですぐ奥さんに会いに来ましたのや。結論を言いまひょ。奥さんに
ある仕事をやってもらいたい。そうすりゃ、その男も三百万などすぐに引っ込めますわ。
ですが、無理ならかなり酷い事になりかねまへんで。とにかく恐い男やからね。旦那さ
んは前科者となって一生まともな仕事に就けず、奥さんも今の仕事はもう無理でしょう
な。その男は細川と繋がっとるからの」

 「あ、あの……主人には言えないような仕事でしょうか」
「お察しの通りですわ。わてがそういう仕事に関わっとった事、皆には内緒やで」
「は、はい」

 恭子さんはどんな仕事を想像しただろうか。
アダルトな内容とだけはわかっただろうが、水商売か、体を売る仕事か。
いずれにせよ、素直に「はい」と言ったくらいで、ある程度覚悟はしてくれた事だろう。

 そこで俺は満を持して、持参していたアタッシュケースからCDを何枚か取り出した。
「わては昔から古本屋をやっとりましてな。店の奥では、アダルトな品物も扱って儲け
とりましたねん。奥さんには申し訳ないが、アダルトビデオに出演して頂きたい。奥さ
ん、たいそう美人やからな。その男は、奥さんで撮影したビデオで三百万どころか、そ
れ以上の収益が見込める、と思うとるみたいなんや」

 「アダルト、ビデオ、ですか」
「今ね、中国とか、アジアの方じゃ日本製のアダルトビデオが大人気ですねん。奥さん
には、日本じゃ販売せず輸出オンリーのビデオに出て頂きたい」

 アダルトビデオの話自体が大嘘で、撮影にかこつけて本物の性調教を施してしまう魂
胆だが、日本では販売しない、とは彼女に決意を促すための方便だ。
しかし、すぐにAV出演をOKする人妻もいないだろう。
恭子さんもためらいを口にし、迷っている様子だったが、考え直す時間を与えるのはま
ずい。

「はあ……少し、考えさせて下さい」
「申し訳ないが、時間はないのです。サンプルをお見せしますから、それで判断して下
さい、今日の5時までに。駄目なら、私としても、いかんとも出来まへんなあ」

 一本目に流したのは典型的な無修正もので、1人の女優を5人の男性が輪姦・中出し
すると言う代物だ。
そういう場面から再生したので、結合部や中出しされた精液もモロに見えて、おまけに
女優の顔もバッチリ映っている。
恭子さんの泣き崩れていた美貌は引きつり、とても合意出来そうにないと思ったようだ。

 「三百万の代償ですからな、普通より過激な内容になりすわ。まず、無修正は絶対、
モザイクなしで性器がモロ、っちゅう事です。それから、顔にぶっかけとか、中に出す
とか、ザーメンまみれも覚悟せんと。まあ、膣内に出すんは偽もん使うから心配いりま
へん」

 「ごめんなさい、こんな事出来ません。もう、止めて下さい!」
「やっぱ、この路線は奥さんには無理ですわなあ」
「も、もういいです。この話はなかった事で……」

 「では、5時までに三百万用意しますか? それとも」
「酷過ぎます……」
「まあ待って下さい、奥さん。あなたのような人妻さん向けのビデオもあるのですよ。
これをご覧下さい」

 何とか恭子さんを落ち着かせ、次に流した二本目のAVが本命だった。画面に大きく
「アートSM 幸子の調教」とタイトルが現れる。
「SM、なんて」
「とにかく、良く見て下さい。女優さんの顔、わからないでしょう?」

 もちろん、そういうAVを選んで持って来たのだが、縄掛けする男も全身をギチギチ
に緊縛されていく女も目隠しのドミノを着けており、素顔はわからない。
そして緊縛を終えた女は二本のディルドウ付き三角木馬に乗せられ、ドミノで隠された
顔が快楽で歪んだ。

 「それにSMだと、このように偽物のペニスで責めるのが主流で、本物を入れずにす
ます事も可能です。他人に犯されなくて良いのですから、あなたのような人妻向きと思
うのですが。まあ、口でするくらいは我慢して下さい」

 三角木馬に乗った女には、調教役の男のペニスが突っ込まれていた。

 「あ、あの……どうしても今決めないといけませんか? もう少し考える時間を」
「仕方ありまへんな。今日は夜勤でっか?」
「はい」
「では、明日のこの時間にもう一度、よろしいでっか? わての方から、その男に頼ん
でみまひょ」
「ありがとうございます」

 もう恭子さんの心は半ば決まっているように見えたが、俺はあえて猶予をやった。
迷っている彼女が、こんな事を相談出来る相手と言えば、同じ職場の久美しかおるまい。
いや久美の方から誘い水を掛けさせても良い。
そして……俺の頭には、グルである久美も巻き込んで、恭子さんにSM調教を受ける決
意をさせる手管が浮かんでいた。

 「さて決心は付かれましたかの」
「あ、あの……何とか三倉さんにお願いしては頂けませんでしょうか? 一週間でいい
んです。一週間あれば必ず三百万の用意を」

 「アンタも往生際の悪いお人でんなあ。わてが頼み込んで、ようやっと今日まで待っ
て貰うたんや。これ以上は、そら無理でっせ。三倉のお母さん、すぐにでもアンタの旦
那さんを警察に突き出したる、言うて息巻いとるんやで」
「でも! 私は夫のある身です。そんないかがわしビデオに出るだなんて、出来るわけ
がありません」

 ーーやっぱ、ええ女やわ。ホンマ、あの男にはもったいないで

次の日の昼下がり、約束通り夜勤明けに俺の家に直行して来た恭子さんは、夫が未成年
少女暴行で警察に訴えられるのを示談で済ますため、AVに出演すると言う条件を断っ
た。

 顔を隠し本番はしなくて良い、とハードルを下げてもなお頑なに拒否する彼女は、や
はり人妻としての貞操観念を強く持った立派な女性である。
どんな理由であれホイホイとた易く体を開く女など興ざめも良い所で、俺は却って彼女
を調教する事に意欲がわいて来た。

 そんな恭子さんでも絶対に屈して、SM調教を受ける事に同意せざるを得ないよう、
手は打ってあるのだ。

 「ほうか。そうまで言うなら仕方ありまへんな。ちょっと、中に入りなはれ」
「久本さんっ!」

 恭子さんはうちの床の間に通されると、中で正座して待っていた女性を見て驚きの声
を上げる。
彼女の存在自体もだが、白衣のまま全身に縄掛けされた上司の姿は強烈なショックだっ
たに違いない。

 「決心は付いたのかしら、恭子さん」
「一体、どういう事ですか!」

 あり得ない眺めに動転して、入り口で固まり引き攣ったようなハスキーな声で俺を非
難する恭子さん。俺は彼女に代わって久美に答えた。

 「アカンわ。やっぱどうあってもAVには出られへんと、言わはるねん」
「そう。思った通りね」
「なあ奥さん。観念して旦那のためや思うてビデオを撮られるよう、婦長さんからも説
得されたんとちゃうんか? そうやと聞いたで」

 「ごめんなさいね、恭子さん。どうしても放っておけなくて、シフトを変えてここに
来てたの」
「どうして久本さんが……そんな事に……」

 わざわざ勤務を変更して、恭子さんに黙ってここに先回りして出向いた上、無残に縄
緊縛されている久美。
話の展開に付いていけず、ようやくそう声を絞り出した恭子さんを落ち着かせようと、
俺は座布団を引っ張って来た。

 「奥さん、まあ座りなはれ」
オズオズと腰を下ろした恭子さんに久美が話し掛ける。
俺は恭子さんが何とも言えない表情で正座したのを見届けると、少し離れた場所に縄掛
けされている久美の方へと向かった。

 「恭子さん、あなたにはあんなアドバイスをしたけれど、聞き入れてくれない事はわ
かっていたわ。いいのよ、あなたには達也君と言う大切な旦那様がいらっしゃるんです
もの」

 「奥さん、婦長さんは立派な方やな。アンタがAVには出られへん事を予測して、代
わりに出たる、言うて直談判に来られましてな」
「そんな! やめて下さい、どうして久本さんが」

 「今回の件、元はと言えば私が悪いんだから。あなたと達也君を無理矢理旅行に参加
させた上に、あの時どんどんお酒をすすめて酔い潰れさせちゃったわ。だからこれは私
の責任でもあるの」

 職場の上司と言う立場を利用して夫婦で一泊旅行に参加するよう圧力を掛けたのも、
恭子さんの酒に薬物を入れたのも久美であり、彼女は本当の事を言ってるのだが、恭子
さんにはとてもそのように聞こえないだろう。
久美に対する申し訳なさでいぱいになり、彼女のありがたい申し出を受け入れる事が出
来るわけがない。

 「そんな事ありません! 何で久本さんが……早く縄を解いてあげて下さい、羽黒さ
んっ!」
「では奥さんがAVに出る、言わはるんやな? なら、話は早い。この縄を解いて、早
速奥さんに掛けさせて貰うわ。ホンマ、あの男はせっかちでな、今日すぐ撮影を始めて
証拠を持って来い、言うねん」

 「恭子さん、駄目よ! 私はいいの、独り身なんだから。ほら、もう覚悟も出来てる
し」
「そんな……久本さん、いけませんっ!」

 もとより久美は俺が調教を手掛けて弟守男の愛人奴隷に仕立ててやったマゾ女である。
こんなシチュエーションで縛られるのも歓んでしまい、興奮して目を妖しく輝かせてい
るくらいなのだが、何も知らない恭子さんにそんな事がわかる筈がない。
 
 「では婦長さん。せっかく覚悟して頂いたのに申し訳ありまへんが、このお縄はやは
り奥さんの方に」
「駄目ですっ!」
「なあ、アンタは本来関係おまへん。山田の奥さんさえSMビデオに出て下されば、そ
れでええんやで」
「そうです、成本さん。私、AVに出ます」

 久美は嫌がって見せるが、予定通り恭子さんは遂にSMアダルトビデオに出演する決
心を固めてくれたようで、小声だがキッパリとした口調でそう言った。
すると久美は縄拘束を外される前に条件を出す。


               
    この作品は「新・SM小説書庫2」管理人様から投稿していただきました。