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「全裸の新体操女王」
赤星直也:作
第1話 解雇
真夏の東京、代々木にあるオリンピック記念会館で、記者会見が行われた。
「それでは、日本代表をこれから読み上げます…」読み上げているのは、新体操協会の
会長だ。
協会は、アテネで行われる大会に備え、日本代表の強化を計るべく、選手名を早々と発
表した。
名前が読み上げられると、質疑応答が始まった。
「シドニーに出た、小森美紀の名前が入っていませんが?」
「彼女では、ギリシャは無理です。こんな事言ったら怒られますが、年を取りすぎてい
ます…」
会長は淡々と話し、30分程で記者会見は終わった。
記者会見の内容は、瞬時に選手が所属する新体操部に告げられた。
「小森が落ちたのか…」それを聞いた、諸星産業の総務部長が落胆顔になった。
「はい。小森が落ちた以上、新体操部では必要ないと思われます…」
「そうだな。必要がないなら、この際に引退して貰うか…」会社側は代表に選ばれなか
った小森の解雇を決めた。
美紀は24才と、ピークを越えてはいるが、まだ現役として充分、務まっている。
その美紀が、監督に呼ばれた。
「監督、何か用でも?」
「とにかく座れ。じっくりと話がしたい…」監督は美紀を座らせ、体操協会の決定を
告げると「そうでしたか…」次第に、美紀の顔色が青白くなっていく。
「それから、明日からは、来なくていいよ!」思い寄らぬ言葉に「どうして、どうして
です!」声を上げた。
「ピークを過ぎたんだ。ほら、こんな体型じゃないか。これでは新体操は無理だよ」
監督は小森の体を触っていく。
「そんな、体型がダメだなんて…」美紀は涙声になっている。
「胸もこんなに膨らんでいるし、腰だって女の体だ」手が胸の膨らみを触った。
「大きいと、いけないんですか?」
「いけないと言う事ではないが、見た目が問題なんだ。こんなに大きくてはな…」服の
上から、乳房を握りしめた。
「私、これからは、どうしたらいいのでしょう?」
「取り合えずは、ブラブラしていろ。その内、いい仕事が見つかるだろう」監督として
も、会社がクビを決めた以上は逆らえない。
逆らっても、徳にならないのは知っていし、自分も職を失いたくはない。
監督から冷たくあしらわれた美紀は、体育館で練習を始めると「聞いた。小森さん、
クビなんだって!」後輩達がヒソヒソ話し合っていく。
「聞いたわ。日本代表から外されたから、会社がお払い箱にしたんだって!」部員の間
で話される事が、美紀の耳にも入っている。
(そんな言い方しないで。あなただって、いずれそうなるのよ)涙を堪えて、最後の練
習をしていた。
練習を終え、シャワーを浴びて汗を流していると、紀子が入ってきた。
「あら、美紀さんじゃないの。今日が最後なんですってね!」かつてのライバルは、勝
ち誇ったように、話し掛けてくる。
「今まで、お世話になりました。これからも、よろしくお願いします…」
「まあ、たまには遊びに来て。これからは、私の時代だしね」得意げに話していく。
(イヤなやつだわ…)美紀は紀子を見たが(確かに、私のオッパイよりも小さいし、腰
の肉付きも、角張っている…)改めて、熟した自分を知った。
美紀は、体を丁寧に洗い終えると、ロッカーに置いた私物を持って、寮へと向かうが
「どこか、アパートも探さないと…」解雇された以上、いつまでもいる訳には行かず、
不動産屋を回って、アパートを探していく。
「この値段なら、何とかなる!」これからのことを考えると、贅沢はできない。
数日後、美紀は寮からアパートに引っ越し、それに、就職活動を始めている。
まずは、取材で知り合った、新聞記者の遠山に相談を持ちかけた。
「高校で、コーチの口なんて、ないかしら?」
「小森さん、難しいですね。高校の場合は、教員免許がないと無理です。特別な実績
があれば、特別に許可するでしょうが…」
「私、日本代表にもなったし、オリンピックにも、出たのよ!」
「出たくらいでは、ダメです。メダルを取ったなら、私立高校ではなんとかなるでしょ
うが…」
聞いた美紀は「そうですか…」落胆の顔になっていた。
「ガッカリしないで下さいよ。僕は小森さんの笑顔が好きでしたからね。それより、和
田さんと合ったら、いかがでしょう?」
「確か、関東テレビの方でしたよね?」
「はい、僕と一緒に取材をした人です。電話を掛けておきますから」遠山は小森を気遣
い、和田に電話を掛けた。
「そうなんですよ。可愛そうで黙っていられなくて…」遠山は暫く話してから、受話器
を置いた。
「これから来て欲しいそうだ。僕も取材させて貰うから、一緒に行こう!」
「ありがとうございます。何と、お礼を言っていいやら…」
「それは、就職が決まってから。それまで、礼はなしだよ」美紀は遠山に連れられて、
和田の元へと向かった。
美紀と遠山は、30分程してから関東テレビに着き「この度は、受難でしたね」和田
は美紀を笑顔で迎える。
「早速ですが、例の件を…」
「美紀さん、主婦層を対象に、昼間の体操を流そうかと思っていましてね」
「面白そうですね。それなら、私もやってみたいわ」
「和田さん。小森さんなら、知名度があるしいいですね」遠山も言う。
「ただ、新体操だから、どこまで通用するかが、問題でして…」
「新体操では、無理ですか?」
「体操協会からの売り込みも、ありまして」
「売り込みですか?」
「そうです。引退した岡崎ですよ。床6位の実績で、売り込んできました」
「決まったんですか?」
「いいえ、待遇が折り合わなくて。あちらは高額ですからね。高校のコーチでも、やっ
た方がいいと思うんですがね…」
「その話、私にやらせて下さい。必ず、やり遂げますから!」
「そこまで言われたら、やってみましょうか」和田も、美紀の売り込みを承知し(よか
った。これで何とか、生活のメドが立ったわ)笑顔の美紀だ。
「美紀さん。早速ですが、明日は体をチェックさせて頂きますよ。10時までここに
お出で下さい」和田はメモを渡した。
美紀は「必ず、お伺いします!」それを受け取ると、関東テレビ局を後にした。
残された遠山と和田は「和田さん、いよいよですね」笑顔で話していた。
「そうだよ。遠山君だって、楽しみにしていたんだろう?」
「そりゃあ、そうですよ。何と言っても、日本代表だったんですからね」和田と遠山は
美紀が帰った後も、笑顔で話していた。
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