「罠に落ちたOL」

                     赤星直也:作

第1話 罠の融資


 チャイムが鳴ると「終わった。これからがホントの仕事だわ!」机の書類を片づけ
ていく。
「麻衣、またパチンコなの?」
「だって、彼氏もいないし、他に能がないからね」
「程々にした方がいいわよ」
「忠告ありがとう。でも、面白いのよ」更衣室で事務服から私服に着替えて出てきた。

 彼女の名前は伊藤麻衣と言って、日本を代表する商社のOLをしている。
麻衣は今夜も趣味のパチンコ店に向かった。
「出ないわよね、今夜は!」男性客が多い中、若い女性はひときわ目立っている。
「今夜はダメだわね」最後の玉も落とし穴に消えた。

 「珍しいね、若い女性がパチンコだなんて!」隣から声が掛けられた。
「若い娘がパチンコしちゃいけないの?」麻衣は負けたせいか機嫌が悪い。
「怒らないでくれよ。よかったらこれ使ってもいいよ」見知らぬ男性がケースに入っ
た玉を手渡す。
「おじさん、ありがとう。今日は負けているから悔しくて!」再びパチンコ台に向か
っていく。

 だが、やはり、運がないのか直ぐに消えてしまった。
「何だ、終わったのか。もっとやりたいかい?」
「当然よ、このままじゃあ治まらないわよ」
「だったら、軍資金を貸すよ」見知らぬ男は2万円を麻衣に渡した。

 「これ、使っていいの?」
「いいよ。その変わり、月末間には1割の利子を付けて返して貰うよ」
「わかった、必ず返す!」借りた金でまた玉を買い込み、挑んでいくと「やっと運が
向いたわ」リーチが相次いだ。

 だが、なかなか大当たりが出ず、暫くして、買い込んだ玉の全てが消えてしまった。
「また負けたわ…」帰ろうとして、周りを見たが、金を貸したあの男はいない。
「明日にでも払おうかな」パチンコ店を出てアパートへと向かうと(また負けたな。
こいつはいいカモかもな…)麻衣の後を先ほどの男が付けていく。

 男は織田勇作と言って、金貸し業を営んでいた。
付けられているとも知らず、麻衣はドアを開けて部屋の中に入っていく。
(ここか、いい女だな。俺の側に置きたいくらいだ…)部屋を確認すると織田は帰っ
た。

 翌日、麻衣は仕事を終えると、また、いつものパチンコ店で台の前に立っている。
「出ないわね。イヤになっちゃう!」
「そうカリカリ来なくていいよ。これ貸してあげるよ」隣の織田が2万を手渡す。
「ありがとう、所でおじさんの名前は?」
「俺か、織田祐作って言うんだ。給料を貰ったら返してくれればいいよ」
「助かるわ」麻衣は借りた金で早速パチンコ台に向かって玉を弾いていく。

 「悔しいわ、リーチが掛かっているのに出ないなんて!」いくら麻衣がやっても、
大当たりはでず、あっけなく玉が消えてしまった。
「残念だったわ。もう少しだったのに…」
「だったら、もっとやるかい。また貸してあげるけど?」
「お願い、貸して、必ず返すから!」
「分かった。頑張ってくれ!」再び麻衣はパチンコ台に挑んだ。

 しかし、なかなか出ない。
少しは出るが、大当たりにはならず、全ての玉が消えてしまった。
「今日はこれくらいにして置いた方がいいよ、明日もあるし」
「そうだよね、所で借りたのは6万だよね?」
「そうだ、6万だよ。給料貰ってからでいいよ」
「ありがとう」麻衣はこの落とし穴に、気が付かなかった。

 それからも、麻衣は仕事が終わるたびに、パチンコをしていたが大当たりは出ず、
織田から金を借り続けていた。
「お願い、貸して!」
「大丈夫かい。もう、50万だよ?」
「返すわ、今夜こそ、出そうな気がするの」
「じゃ、これだけだよ。必ず、返してくれよ!」
「ありがとう、必ず返すわ」麻衣は織田の作った落とし穴にのめり込んでしまった。

 当然、借りた金額も増え、100万にもなってしまった。
やがて、給料日が来たが「どうしよう、返せる当てもないし…」給料明細表を見なが
ら考え込んでしまった。
「今夜はとにかく、まっすぐ帰って様子を見ないと」仕事を終えるとパチンコ店には
寄らずまっすぐ帰宅した。

 しかし、そんなに甘くはなかった。
「こんばんわ、織田ですが?」(どうしてここが?)顔が青ざめている。
「伊藤麻衣さん、いるんでしょう?」
「今開けます!」怯えながらもドアを開けた。

 「困りますね。いつものようにやって貰えないと…」
「ご免なさい。ここでは何ですから中で!」
「そうですね、こんな所で大事な話は出来ませんしね」麻衣は織田を中に入れた。

 「早速ですが、お貸ししたお金を返して貰えませんか?」
「そのことですが、もう少し待って貰えないでしょうか?」
「給料日にお返しする約束でしたが…」
「少し、物いりになりまして」嘘を並べる麻衣だ。

 「それでは仕方ありませんね。取り合えず借用書だけは書いてください。それなら
いくらでも待てますし…」
「そうして貰えれば助かります」
「ここに名前と印鑑を…」麻衣は織田が差し出した借用書に記入した。
それを大事そうに仕舞い込み「それでは、失礼しました」「ご苦労様でした」素直に
引き下がる織田だ。

 織田が紳士的に振る舞った事で、麻衣は気持ちが緩んでしまった。
「待って貰えるんだから、取り返せばいいし…」翌日からまたパチンコ店に通い出し
「やったー!」遂に大当たりだ。
「ジャラジャラ!」玉が溢れかえり「これで、5万にはなるわ」現金に換えて店を出
た。
大当たりが出た事で更に大胆になって「明日は休んで稼いでみようかな?」帰り際に
思い付いた。

 そして、翌朝「申し訳ありません、熱が出まして…」会社に休暇を願い出た。
「はい、ゆっくり休みます」受話器を置くと時計を見て「9時か、もうすぐ開店だわ」
急いで着替えをし、いつもの店に向かった。
店はこれから開店するところで「間に合った。昨日の台は…」大当たりした台の前に座った。
そして、玉を弾くがなかなかリーチが掛からない。

 そこに「あれ、今日はお休みですか?」織田が顔を顔を出した。
「はい、休暇を貰いまして…」
「それにしても出てないですね。また、お貸ししますか?」
「はい、貸してください」織田は2万を渡し、それで玉を買い弾いていく麻衣だが、
いくらやっても昨日のようには行かない。

 「お願い。また貸して!」「いいですよ、はい!」織田は言われるがままに貸し、
この日だけで麻衣は10万も借りてしまった。
麻衣はその後もパチンコを続け、3ヶ月後には150万も織田から借りている。