『若妻の指使い』

                           とっきーさっきー:作
第2話

 亮哉がお風呂から上がって、リビングのソファーでくつろいでいる。
早く服とかパジャマとか着ないと湯冷めするのに、腰にバスタオルを巻いたままの格
好でテレビを見ている。

 リモコンを使って適当にチャンネルを変えて、熱烈○○ファンじゃないのにプロ野
球中継を眺めている。
わたしは、そんな亮哉の後ろ姿に目をぶつけていた。
洗い物をして濡れたエプロンの裾を握りしめたまま、1分……2分……3分くらい。

 そして野球中継に差し込まれるようにCMが始まると、わたしは急いで脱衣場へと
向かった。
今は後ろ姿だけでもお腹が満腹で。
もしもだよ。その亮哉が何気なく振り返ったりしたら……?

 「はあ、はぁ……」
息が乱れていた。
脱衣場の湿った空気の中でわたしは、「すぅーっ、はぁーっ」って深く呼吸して、身
に着けていた服に指を掛けた。
幼い子供がお母さんのお手伝いでびしょ濡れにさせたように、じっとりと重たいエプ
ロンを外した。

 真希ったら、お風呂に入る前から顔が真っ赤になってるわよ。
暑いの?
それなら早く、服を全部脱ぎなさいよ。
脱衣場とセットの洗面台から、もう一人のわたしが話しかけてくる。
曇りガラスになりかけた鏡の中から、蔑むような顔つきで唆して……

 シュル、シュル……ファサ……
わたしはTシャツを頭から抜き取った。
クルクルっと丸めて、プラスチック製の赤いカゴに放り込んだ。
続けて腰を少し屈めると、両手を腰の部分に当てる。

 ぴったりフィットのジーンズをなぞるように指を走らせて、左手の指がおへその真
下にあるリベットボタンを外した。
右手の指が少し引っ掛かりのあるファスナーを引いた。

 「ふぅ、はぁ……」
せっかく深呼吸してあげたのに、どうしたんだろう。
唇だって結び合わせているのに、胸の中から突き上げるように熱い空気が漏れてきて。

 スル、シュル……シュルル……
わたしはジーンズを引き下ろした。
だらしなく開いたウエスト部分を握り締めるようにして、押し潰したように丸まった
ソレを足首から抜いた。

 見せてあげないから。
夫婦喧嘩している亮哉には、真希の裸は見せてあげないから。
ただお風呂に入るだけなのに、わたしの心は揺れ動いていた。
ただ服を脱いで素裸を晒すだけなのに、わたしの本能は余計な感情を呼び寄せていた。

 「ンンッ……はあぁ……」
わたしはおっぱいをガードするブラジャーを外した。
プルンって弾む乳房に目をやりながら、下半身に残された最後の一枚に指を掛けた。

 「ふくぅ……あぁぁ……」
なんなのよ、その溜息は?
それはエッチな時に漏らすものでしょ?

 制御不能な吐息はそのままにして、わたしは腰を大きく屈めていた。
お尻のお肉を包むように貼り付くショーツを、ペロンと捲るように下ろした。
そして「キャッ!」っと小さく悲鳴をあげて、身体の向きを急いで変えた。

 壁を挟んで感じる亮哉の気配。
もしかしたらテレビを付けっ放しのまま、耳を壁に当てて。
有り得ないよね。
だけどそんな光景まで脳内でねつ造しながら、わたしはショーツを下ろしていく。

 右足、左足と交互に持ち上げて、それを脱がせた。
たった一人の閉め切られた脱衣場で、羞恥心を全身で感じ取りながら、ほんのりと温
かい布切れをぶら下げていた。

 「生理はまだだし……そんなに汚れていないよね」
わたしの耳でも聞き取れるのが精いっぱいのボリュームでささやいてもいた。
そのままカゴの中に入れるか、隣に並んだ洗濯機に放り入れればいいのに、そのショ
ーツをわざわざ広げて。
裏返すようにしてクロッチの処を露わにさせて。

 そんなにってことは、少しは黄ばんだオリモノが沁み込んでいるのに。
女の子や、女の人は、絶対に他の人の目に触れさせてはならない使用済みのショーツ
……ううん、パンティーなのに。

 わたしは壁に向かって捧げていた。
ちょっぴり挑発の顔を引きつりながらこしらえて、物音一つしないのにじっと耳を傾
けながら。

 きっと今夜のわたしはどうかしている。
だけどこれは全て、72時間継続中の夫婦喧嘩のせいなの。
わたしは湯船に浸かったまま、白い湯気のつまった天井を見上げた。
露天風呂中継に登場するアイドルみたいに、波立つ湯面を手のひらですくっては肩に
掛け流していた。

 出来るなら何も考えたくない。
胃の中がムカムカするくらいに辛くなっているのに、それを無視して、自在に姿を変
えるお湯と戯れていたい。

 「ふぅ、そろそろ上がらないと……」
だけどもう限界。
いつのまにか肩までお湯に浸からせて、わたしは上せていた。
浴槽に縁に手を掛けると、勢いよく身体を起こした。
湯面にザブンと荒波を立てさせて、濡れたタイルの上へと足を乗せた。

 頭を洗わないと……でも……
身体を洗わないと……だけど……
シャワーノズルに腕を伸ばしかけて、わたしは止めた。
せっかく立ち上がったのに気だるそうに息を吐くと、浴槽の縁に腰かけていた。

 身体が熱いの。
素肌も焼けるように熱いけど、真希の身体の芯は溶け切るくらいに、もっと熱いモノ
が渦巻いているの。
これって冷たいシャワーを浴びても、きっと治まりそうにないから。
氷の浮かんだお水をゴクンって飲み干したって、全然効き目なんてないから。

 「ちょっとだけ……ほんのちょっぴりなら……」
わたしはつぶやいていた。
ムラムラした時にだけささやく言い訳を口にしていた。

 閉じていた太腿に隙間を作って、左手を湯船の縁を掴ませて支えると、右手を……
ドクドクとしている胸の鼓動を拾いながら、手のひらを伸ばした。
お湯の滴を垂れ落としている膨らみに指先を沈めて……

 「はあぁぁ……」
わたしはエッチな声を漏らしていた。


                    

  この作品は「羞恥の風」とっきーさっきー様から投稿していただきました。