『ツレがスケベ小説に染まりまして…』
    
                           とっきーさっきー:作

第8話 ディナーを共にして、エッチを共にして


夕食を『ディナー』と呼ばれたら、即アウトである。
カウンター越しに威勢の良い板前さんが愛想笑いをすれば、限りなくレッドカードで
ある。

 どっぷりと日が暮れた街中を、涼花と吾朗は連れだって歩いていた。
駅前に近い繁華街で肩と肩を触れ合せて、手首と手首を器用に捻り合わせて、手のひ
らどうしをピタリと重ね合わせて、いわゆる恋人繋ぎで、自己主張してみせるショー
ウインドを覗き込んでいた。

 「え~っと、何にしようかな? 吾朗ちゃんは何が食べたい?」
「お、俺はだな……涼花、お前を食べたい……」
「……やっぱりここは中華かな? ガッツリと揚げ物系もいいわね」

 すれ違った同世代のカップルが、クスクスと笑うのを聞いた。
スローな歩みの二人を追い抜いた家族連れが、揃って振り返る。
なぜか野球帽を被った男子児童が、涼花と吾朗を見比べてモノ欲しそうに指を咥えた。

 「えぇっと、ふぅ~む……ここにする」
それから10分余り歩いただろうか。
涼花のジョギングシューが動きを止めた。

 二人して店の軒先にべったりと顔を寄せていたのに、彼女だけ身体の向きを反転さ
せると、真剣に考え込んでいた。
真顔で唸っても見せた。

 そして、取り残された感のある吾朗にちらっと目を合わせてから、涼花は腕を伸ば
していた。
その先で、人差し指もピンと引き伸ばして……

 「はあぁ……ここね……」
それを目で追って、吾朗が安堵の表情を浮かべた。
薄っぺらい折れ財布をズボンのポケットの中で握りしめながら、涼花が指さす先の赤
い看板を吾朗も見つめた。

 声を嗄らしながら、法被付きアルバイト兄ちゃんが呼び込みをしている。
家族連れに老夫婦、さっきクスクス笑いをしたかもしれない同世代カップルまで、そ
の割れ鐘のような絶叫に誘われて紫地の暖簾をくぐり抜けている。

 『大衆』と名のついた居酒屋の、大衆向けの料理と酒で舌鼓を打つために。
「あ、早く行かないと席が埋まっちゃうかも。ねぇ、吾朗ちゃん……」
「お、おい……そんなに急がなくたって……」
涼花に腕を取られて、吾朗は引きづられるように居酒屋の暖簾をくぐった。

 「ほらね、わたしに感謝しなさいよ」
「あ、あぁ……確かにラッキーかもな」
涼花が急かしたお陰か?
この時間帯は普段からこんなものなのか?
店内は意外に空いていた。

 二人連れで入店なら、間違いなく狭苦しいカウンター席ご案内のはずが、涼花と吾
朗は、ゆったりとくつろげそうな座敷席へ通されたのである。
おまけに衝立の仕切りまで設けられており、ちょっとした個室気分まで味わい可能で
ある。

 「え~っと、え~っと……チーズピザでしょ、揚げ出し豆腐にぃ、肉豆腐、お刺身
の盛り合わせも外せないし、マグロのユッケもおいしそうね。吾朗ちゃんは何にする
の?」
「お、俺は……冷奴に枝豆……」

 「えぇーっ、居酒屋定番メニューだけど、それってなんだか侘しくない? もっと
スタミナのつくものでお腹を膨らませないと」
涼花は、テーブルに備え付けの液晶パネルを相手に指を滑らせている。

 吾朗のオーダーをささっとクリックすると、急に眼の色を変えた。
カラフルなメニュー画面を次々とスライドさせながら、目ぼしい料理をチョイスして
いくのだ。

 やがて長方形なテーブルを、居酒屋料理が埋めた。
吾朗の財布の中身を小銭まで掌握しているのか、涼花は絶妙なさじ加減で注文を成し
終えたのである。
おそらく支払い時には、1円玉が数枚残されるだけになっているだろう。

 「いただきまぁ~す♪♪」
賑わい始めた店内に、若い男女の声が重なった。
向かい合う形で朱色の塗り箸が、目指す料理更に突撃をかける。
そして暫くは、食欲と格闘するための無言が続いた。

 「涼花、こっちに来いよ」
並べられた豊富な料理も、既にその大半が平らげられていた。
どちらの胃袋により多く収まったのか?

 それは知る由もないが、吾郎が不意に涼花を呼んだ。
呼ばれた涼花は、張り詰めたお腹をさすりながら席を立った。
「なんか、恥ずかしいよ」
「いいから、さあ早く」

 二人連れなら向き合って座るのが普通である。
なのに吾朗は、自分の隣に涼花を呼んだのだ。
間仕切りはあっても隣り合う席は、大声で話し込むサラリーマン連れで賑わっている。

 調理場が覗ける狭い通路は、客と店員が頻繁に行き交いをしている。
「もう、吾朗ちゃんってスケベなんだから」
「付きあっているんだから、このくらい普通だろ」
涼花が腰を下ろした途端、吾朗の腕に肩を抱かれた。

 まるで懇意にしているキャバ嬢を相手にするように身体を密着させると、アルコー
ルの効いた息を吹きかけてきた。
「やだぁ、吾朗ちゃんったらお酒臭いよ」

 「当たり前だろ。居酒屋に来たら酒を飲むのが常識さ。それに涼花だって、アルコ
ールの匂いがプンプンしてるじゃないか」
「まあ、それはそうだけど……キャァッ! ちょっとどこを触って?!」

 テーブルに載せられた皿の群れが、小さく踊った。
吾朗の片腕がそのテーブルの下に潜り込んで、涼花の太腿を撫でたのだ。
ちょっぴりお洒落して履いたタータンチェック地のスカートを、スルスルと捲り上げ
て、ぶ厚い手のひらが這うように股の付け根へと侵入してくるのだ。

 「涼花のアソコ、熱くなってるぞ」
「嫌ぁ、ここではダメなの……ねぇ、吾朗ちゃん……やめてよ」
テーブルに載せられた大皿までもが、弾むように踊った。

 肩を触れ合せる程度だった吾朗が、グイグイと涼花の身体にその身を密着させてく
る。
同時進行で、節だった男の指が彼女の下半身を覆うパンティーに達し、スルスルと股
間の中心部を刺激した。


                
       
 この作品は「羞恥の風」とっきーさっきー様から投稿していただきました。