『シャッター・チャンス2』
                             とっきーさっきー:作
第11話

「お父さん、聞こえた?」

「うん。誰かがこっちに近づいて来る。でも、どうしよう? やっぱりこんなこと
なら……」

「もう! こんなところで怖気づいてどうすんのよぉッ!」

あたしは熱いお肉から指を引き抜くと、Tシャツの裾でぱぱっと拭った。
そのまま音を立てないように植え込みから抜け出し、近づく靴音を聞き分けようと
耳の後ろで手のひらを拡げた。
ツマ先立ちになって、黒い絵の具で塗りつぶしたような空間に目を凝らしてみる。

なにも見えない。
厚い雲に覆われた月明かりさえ届かない世界。あるのは不気味な暗闇だけ。
でも聞こえる。
足音を忍ばせながら接近する人の気配。

「ここは、あたしたちでなんとかしないと……」

目線をシーソーのふたりに送る。
そして、「うん」って深く頷いて撮影機材用のバッグをまさぐった。
中から取り出したのは、いざという時に備えて持ち出したサングラス。

もちろん雪音の持ち物じゃない。
お父さんが当時流行ってた西○警察のリーダーさんに憧れて衝動買いしたものの、
ある事情でタンスの中に封印されちゃったモノ。

理由は……?
そんなの『自分は知らないであります』ってことで、夜なのにサングラスを掛けた
あたしは涙目のお父さんに言ってあげた。
「ふたりのエスコート頼んだわよ。ピンクの傀儡子さん」って……



暗い。真っ暗。
それなのにサングラスなんか掛けているから、真っ平らな地面で3度も転びかけち
ゃった。

ここは公園を縦に貫くメインストリート。
あたしは大げさに両手を振りながら足音を立てて歩いていた。
ついでに音階を無視したハミングも熱唱した。

唄いながら、あごから滴る汗を拭って首筋を流れる汗も手の甲で拭いた。
汗ばんだ肌を冷ましてあげようと、Tシャツの裾もおへそが覗けるくらいめくり上
げてパタパタさせた。

その間も、首の関節をフル回転させて暗闇に潜む人影を探す。
『お願い、雪音に気付いて』という思いと『やっぱり怖いよ』という本音を同居さ
せながら、一歩また一歩と遊具広場から引き離していく。
そして、半径5メートルくらいしか照らさない街灯の下に、あたしは辿り着いてい
た。

ワサッワサッ……ガサッガサッ……

耳を澄ませないと聞き取れない小枝を揺する音。
それでも聞こえない聞きたくない、男のいやらしい息遣い。

見ている。見られている。
誰かが雪音を息を殺しながらジッと覗いてる!

「ふ~ぅ。ウォーキングしてたら汗びっしょり。なんだか気持悪いなぁ~……誰も
……見てないよね。ちょっと、脱いじゃおうかな?」

キョロキョロと周囲を窺うふりをして、頭に浮かぶセリフを棒読みして、こっそり
と止まりそうな心臓をトントンと叩いてあげて……
あたしはTシャツの裾を掴むと頭から抜き取った。
そのままグッと息を止めて、ほっぺたのお肉を噛みながらジーンズのホックを外し
た。
ファスナーを引いた。
お尻を人の気配のある草むらに向けて、焦らすようにゆっくりと下していく。
ついでにサービスだよ♪って、腰でダンスもしてあげた。

恥ずかしいよぉ。こんなお外でパンツとブラジャー姿になるなんて。
それも正体不明のお客さんに、雪音の美肌を無料で見せないといけないなんて。

あたしはお出かけ専用のレースたっぷりの下着姿でポーズを決めた。
お父さんに撮影されるみたいに、悩殺立ちポーズを次々と披露していく。

腰をくの字に曲げてお尻を突き出して……
前屈みになって無理して垂れ下がらせた胸の隙間を強調させて……
遠くから聞こえる女性の感じる声なんか幻聴だよって、目の前の美少女モデルにも
っと注目してよって……

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

「ひいぃぃっ……イヤッ……んんっ」

そしてお父さんが手にしたモノと同じ音を聞いた。
覚悟はしてたけど、雪音はエッチなモデルだからこんなこと想定済みだったけど、
だけど一瞬悲鳴を上げかけて口を押さえた。
口に手を当てたまま気付かれないように、背中をくねらせてお尻もくねくねさせた。
ちょっとだけパンツをずらせて、ヒップの割れ目も半分見せてあげた。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

そうしたら、悦んだカメラ君が拍手するようにまた鳴った。
それでもあたしは、身体が覚えてしまった淫らな振り付けを踊り続ける。

「……ふぅぅん、はああぁぁん……はぁっ、毅ぃっ……きもちいいのぉっ……」

遠くからも張り合うように淫らな声が流れてくる。
あたしはカメラを手にしたお客様を引き止めようと、もっともっと過激なショーに
切り替えていく。

草むらに笑顔を振りまきながら、背中に回した右手がブラのホックを緩めた。
真横にした左腕を胸に押し当てたままブラジャーを引き抜いた。
脱ぎすてられた服の上にそっと落とした。

「恥ずかしい……でも、がんばれ♪ 雪音!」

あたしは、藍色のジーンズの上に乗っかったブラジャーを恨めしそうに見つめた。
でもそんなの一瞬だけ。
またおバカな雪音に戻ってお客様にサービスを始めた。

胸のふくらみに両手で蓋をしたまま、挑発するようにお尻を揺らした。
白いパンツをもっとずらせて、ふたつに割れたお肉を全部覗かせてあげた。

これが汚れのない女子高生のヒップだよって。
こんな淫らな踊りをしているけど、雪音はバージンなのって。

なにもここまでしなくたって……
雪音、いくらなんでもやりすぎだよ。

良心があきれた顔で警告する。
そうよ、あたしだって恥ずかしいし情けないよ。
でもね、見ちゃったの。決めたの。
どんなに馬鹿げていても、愛に満ち溢れた協同作業をする夫婦のジャマはさせない
って。
だからあたしは……!

「は~あ。今夜は開放的な気分♪ パ、パンティーも脱いじゃおうっと……♪ だ
~れも見ていないし、ふふっ、見ないでね♪」

スルッ……スススッ……
カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

草むらに背中を向けて、両手をおっぱいから引き剥がして、お尻丸出しのパンツを
下していく。
前だけ隠してウエストのとこが紐になっちゃった最後の1枚を、棒読みハミングし
ながら脱いじゃった。

あたしは手にした白い布を、クルクルとボールみたいに丸めてブラジャーの横に並
べた。
でもそれは湿っていた。
ううん、水気を含んだみたいに雪音のパンツはズシリと重たかった。

カメラ君に全裸の後ろ姿をみせてあげる。
隠したって意味がないのに、おっぱいと女の子の部分に両手の下着をひっつけて、
そっと密着してた太股なのに隙間を拡げる。

「はあぁ、ううっ。雪音のアソコ濡れちゃってる」

生ぬるい風なのに、股間がヒンヤリと感じた。
中途半端に期待した恥ずかしい割れ目が、オナニーの続きをせがんでくる。

「んんはあぁっ、毅ぃっ、たけしのぉっ感じるぅっ! だめぇっ……美帆っ、気持
ちよすぎてぇっ」

カメラ君を誘惑するように、真夜中の公園に響く美帆さんの女の声。

ザザッ……ザワザワザワ……

草むらに潜んだ気配が、雪音と美帆さんを天秤に賭けた。
せっかくピチピチボディを晒してあげているのに、旦那様に愛されるムチムチボイ
スと互角だなんて。
ちょっぴり落ち込んで、哀しくなっちゃう。

「は、はあ~ぁっ……なんだか解放的♪ お、オナニーしちゃおうかな?」