『水面に咲く花火』

                           とっきーさっきー:作

第4話 ギャラリーは人魂?!


 「か、佳菜の……お……おま○こは……全然感じていません。ぬ、濡れてもいませ
ん」
口を閉じた途端、全身から汗が噴き出してきた。
はしたなくて口にしてはいけない単語に、佳奈の女の子が泣いちゃった。

 「さすがに処女のおま○こだ。中のヒダヒダまでサーモンピンクなんだねぇ。綺麗
だよぉ」
全然うれしくないのに、男は恋人のように褒めてくれた。
「も、もう充分でしょ。これ以上わたしを辱めないで」

 だからわたしはキッと睨んで、アナタの恋人なんかじゃないって顔をしてあげた。
両手の指で恥ずかしい処を拡げても、こんなの平気って顔もしてあげた。
でもね、割れ目の突端に触れた指がブルブルしている。

 ほっぺたの内側を噛み締めていたから、佳菜の血液と唾液が混ぜこぜになっちゃっ
てる。
そんなわたしが可笑しいのか、男がふっと息を吐いた。
そして、視線を窓の外へと向ける。

 「……なッ?!」
つられて覗いた目の隅っこで、光るモノがひとつ、ふたつと浮かんでいた。
ゆらゆらと漂っていた。
「やっとお出ましのようだね。遅かったじゃないか」
「な、なんなのよ、これ?」

 「ん、佳菜は知らないの? 人魂だよ。この世に未練を残して成仏できないってい
う、ホラー話なんかで登場するポピュラーな奴」
男は驚きもせずに平然と答えた。
窓ガラスの外でふわふわと踊る無数の青白い光。
大きいのや小さいのや、分裂したり吸収されたりしながら、次第にこの車を取り囲む
ように輪を狭めてくる。

 「ヒッ! ヒィィッッッッ! イヤッ、こないでぇッ、近づかないでッ!」
「ふふふっ、怖いかい佳菜ぁ」
「ヒャァぁぁぁッッ、イヤぁぁぁぁッッッ!」
泣き叫ぶ耳元でノブくんの顔をした男が囁いた。
ぞくりとする粘っこい声に首筋を舐められて、窓の外から人魂に覗かれて、わたしは
更に大きな声で泣いた。
もう少しで『ノブくん』って、叫びそうになった。

 「なにも怖がることなんかないんだよ。こいつらはただのギャラリーなんだからさ
ぁ。そう、女の肢体。女の匂い。女のよがり声。こんなのに寄ってくる虫みたいなも
のさ。それよりも佳菜。そろそろ初体験を済ませようよ。そのために俺はここにいる
んだからさぁ。信雄のおち○○んもほら、涎を垂らしまくっているよぉ」

 男がノブくんの身体を揺すった。
おどけてノブくんをけなすように、ピンとそそり立った肉の棒をゆらゆらさせる。
もう、気が狂いそう。

 だってノブくんがノブくんじゃなくて、周りを幽霊に囲まれて、それなのに……
それなのに、抱かれないといけないなんて。セックスしないといけないなんて……
大切な人の身体と、でも心は別のわたしの嫌いな人となんて……

 「ふふふっ……」
そう思うと悲しさを通り越しておかしくなってきちゃった。
わたしの上できょとんとしたノブくんの顔を見ていると、もっと笑ってもっとおバカ
になりたい。
なってみたいって……

 「おい佳菜ぁ。お前、笑っているのかぁ? どうして?」
「うふふふっ、そんなのどうでもいいじゃない。それよりもセックスするんでしょう。
だったら挿れなさいよっ。そのお、おち○○んを……佳菜の……お、おま○こに突き
刺して、セックスしなさいよっ」

 わたしは笑顔で挑発してあげた。
恥ずかしい単語だって、ちょっと詰まっちゃったけどちゃーんと言ってあげた。
どうせ逃げることなんて出来ない。
外には幽霊達が待っているし、抵抗したって男の腕力には敵わないし。

 だったらこうするしかないもの。
せめてノブくんの身体で、ノブくんの熱いモノで佳菜の初めての人になって欲しいの。
佳菜が18年間守ってきたバージンを、ノブくんの身体に奪って欲しいの。

 「そのかわり、これだけは約束して。わたしとのセックスが終わったら、ノブくん
を返して。ノブくんを解放してあげて」
「もしも、俺が約束を守らない時は……?」
おどけていた男の目付きが変わる。真顔でわたしを見つめてくる。

 「そのときは……死にます。ノブくんの首を絞めて、わたしもそこにあるカッター
ナイフで自殺して、ふたりして幽霊になってあなたを呪います。本当です!」
「ふっ、おもしろい」
何がおもしろいなのか、男は目を細めた。

 上体を被せてきて鼻の頭をひっつけながら囁かれた。
「佳菜が真面目にセックスさえすれば、信雄は返してやる。そのかわり、これは俺か
らの条件だよぉ。行為の間は、この春彦が恋人。甘い声で鳴いて淫らに悶えてみろぉ。
わかったな」

 わたしは頷いた。
同時に佳菜のおっぱいを手のひらが覆った。