『NOA 鍵』
 
                    Shyrock:作

第5話

 腰の動きはいつにも増して軽やかだった。
腹と女の尻がぶつかるたびにいささか滑稽な空気音が聞こえてきた。

 ピストン運動の時に空気を一緒に送り込んでしまうため出る音であり、まるで屁のようにも聞こえるが、真剣勝負の最中であり、オレも女もまったく無視した。

 額から滲み出した汗が女の背中にポタリと落ちた。
オレは慌てて背中に落ちた汗を手で拭いた。
その瞬間、腰の運動が少し休んだが、拭いたあと、女の腰をもう一度抱え先ほどより強めに突き込んだ。

 「あっ……あっ……ああっ……いいわぁ~……ああっ……はぁ~……あああああ~~~……」
(ズン、ズン、ズン、ズン……ズン、ズン、ズン、ズン……)

 艶やかな水音と女の喘ぎ声を聞いているうちに、オレの堤防が決壊寸前になっていた。
腰が忙しく動きまくった。

 女も感極まってきたのか、髪を振り乱し動きがオーバーになっている。
嗚咽とも取れるようななまめかしい声がオレの耳に届いた。

 「あああ~~いいわぁ~~~、いやぁん、もっと~もっと~!もっと激しく突いて~!もっとめちゃくちゃにしてぇ~~~!」

 (ビクンッ!)
頭が真っ白になり魚が飛び跳ねるような感覚に陥った。

 (うっ!!)
(ピュッ!ドッピュ~~~~~ン!ドボドボドボドボ~~~)

 「ううっ……!」
「ああああああ~~~!いやあああああああ~~~ん!はああああああ~~~~~」

 魚が跳ねるのを合図に、堤防はもろくも崩れていった。
ついに見知らぬ女の中でオレは果ててしまった。

 実は発射する直前挿し込んでいた肉棒を抜こうとしたが、女は射精を拒むどころか「抜かないで!」と叫び、結局オレは女の中に発射してしまった。
終わった後も女はうつ伏せで崩れ落ち、甘美な余韻に酔いしれているかのように思われた。

 女は仰向けになりオレに唇を求めてきた。
オレは応えた。
まだ火照りの冷めない女の身体を抱きしめ、背中や腰をやさしく愛撫した。

 満ち足りた至福のひとときがオレと女を包み込む。
熱い吐息が、オレの胸にかかった。
女は恍惚の丘をゆるやかに下っていく。
男のそれよりもずっとスローテンポで。

 女はオレの胸の中でぽつりとつぶやいた。
「すごくよかったわ……」
「オレも……」

 まるで旧知の恋人同士のように……
ところが女の次の一言がオレを一気に現実に連れ戻した。

 「ところで……」
「うん……?」
「あなた、誰なの?」
「えっ……?」

 「確か玄関の鍵を掛けたはずなのに、あなたは入って来た。一体どうなっているの?」
「そ、そんなっ!だ、だって、ここはオ、オレの家だよ~!鍵を持ってるんだし、そりゃ入るさ~!君こそどうしてオレの家にいるんだよ!」

 「えええ~~~っ!?うそっ!何を言ってるのよ~!ここは私の家よ~。先月、賃貸契約を結んでここに入居したのに~!」
「ま、まさか……」

 「あなた一体誰なの?もしかして夜這いの常習犯?うふ、気持ちは良かったけどさ~」
「夜這いってそんな失礼な!」
「失礼なのはあなたの方よ!」


                

   この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました