『官能の国~Shy Land』あやの巻
 
                    Shyrock:作

第1話 

 「まさか40を過ぎて遊園地に来るとは思ってもみなかったよ」
「でもここは大人のための遊園地だから、きっと社長も楽しめると思いますわ」
「そうかね?見た感じ他の遊園地と変わらないように思うがね」
「建物の外観だけ見ると確かにそうね。でも中に入るとすごい仕掛けがあるらしいん
です」
「そうなの?ははは、それは楽しみだね。で、最初はどこに行くんだね」

 「最初は、『ロングメリーゴーランド』に行きましょうか?」
「メリーゴーランドかね?えらく幼い子向きのものを選んだね」
「いえいえ、甘く見るといけませんわ。中身はさっきも言いましたように超ハードな
んですって。私も雑誌で見ただけで、ここに来るのは初めてなんですけどね」
「ふうむ」

 社長と秘書の秘密の関係。世間にはよくある不倫である。
あやが22歳で国田が経営する会社に就職して以来、3年間は営業畑で勤務していた
が、持ち前の美貌とグラマラスなプロポーションが国田社長の目に止まり、まもなく
秘書に抜擢された。

 あやは秘書として十分に職務をこなしつつ、休日には接待ゴルフへ同行することも
多くなり、接する機会が多いことからいつしか深い関係になってしまっていた。
付き合い始めて5年の歳月が流れたが、妻子ある国田との関係は変わることなく続い
ていた。

 「えっ?あれがメリーゴーランドなの?」
「仕切りがあって中が見えないですね」

 あやたちは『ロングメリーゴーランド』まで来て、その奇抜さに目を丸くした。
通常のメリーゴーランドのように、馬の乗物がオープンになっている訳ではなく、手
前に仕切り板があって内部が全く見えない仕掛けになっていた。

 ただし全体が円形になっており、個々の乗物がゆっくりと回転していることだけは
確かだった。
それと言うのも、仕切り板で内部は見えないが、上部がオープンになっていて中にい
る人々の首から上だけが見えていた。
ロングメリーゴーランドでひとときを楽しむ人たちは、笑い合ったり、驚いていたり、
照れていたり、中には恍惚とした表情をうかがわせている人もいた。

 何とも滑稽で珍妙な光景に、あやたちは思わず吹出してしまった。
「中はどうなっているんだろうねえ。人の表情は様々だけど」
「うふ、ほんと。興味がそそられますわね。じゃあ、早速、入ってみましょうか?」

 あやたちは行列の最後尾に並んだ。行列はわずかに1列だけなので早く入れそうだ。
行列は短かったものの、周囲で眺めている人たちはかなりの数にのぼっていた。

 「あれだけ多くの人に見られてると、滅多なことできないわね。あはは」
「ふうむ。でももしかしたら、首から下が見えないことをいいことに、スリルに満喫
している人も多いんじゃないかな?」
「私にもスリリングなことしてくださるの?」
「ははは、それはどうかな?」

 「なんだ~。してくれないのですかぁ」
「さあね~。中がどうなってるのかまだ全く分からないし。とにかく中に入ってから
さ。ほら喋っているうちに順番が回ってきたよ」
「本当だ。待つ時間って長く感じるものだけど、2人でいると早いですね」
「まったくだ」

 あやたちが最前列まで来た時、切符切りの女性が簡単な説明を行った。
「ドアを閉めてからの所要時間は15分ですので十分ご注意ください」

 国田が怪訝な表情で聞き返した。
「注意って?メリーゴーランドで15分ってかなり長いと思うんだけどね」
「はい、我が国最長です」
「ほほう~、でも15分も回ってると飽きるんじゃないの?」
「さあ、それは・・・。お入りいただいてからご自分で体感してみてください。8番
の扉からどうぞお入りください」
「はいはい」

 国田はあやと腕組みながらゲートを潜った。
小声で・・・
「あの係員何か口篭っていたねえ」
「中身のこと喋れないし仕方ないんじゃないですか?」
「確かに」
「あはは、ドキドキしてきた~」

 しばらくすると、あやたちの前に8番ボックスが近づいて来た。
まるで観覧車に乗る時のようだ。
国田が先に中に入り、あやに手を差し伸べた。
あやは国田の手を掴み、ボックス内へ入った。
ボックスの中央にはどこの遊園地にもあるような白馬がゆっくりと動いていた。
 
 直ぐに扉が閉じられた。

 
                

   この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました