『球 ~鏡~』
 
                    Shyrock:作

第4話 ベッドのある部屋はどこ?

 「ところで、ベッドルームってどこにすればいいんだろう? やっぱり二階だよな~」
「そうね。ドラマに登場するお屋敷とかだと、やっぱり二階が多いね」
「ああ、高級なベッドが欲しいなあ」
「そんなお金がどこにあるのよ~。ワタル、もしかして結婚前のへそくりとかたっぷりあるんじゃない?」

 「ば、馬鹿言うなよ~。貯金は結婚で全部使い果たしたさ」
「確かそう言ってたね。じゃあ、買えないか。あ、でも、チラシに家具付って書いてあったから、もしかしてベッドも備え付けてあるんじゃないかしら?」
「もし、そうだったらめちゃラッキーだね」
「じゃあ、始めましょう~♪」

 「何を?」
「何をってベッド探しよ~。ベッドがあるかどうか各部屋を調べるのよ~」
「うん、いいね。まるで宝探しみたいだ」
「じゃあ、手前の部屋から順番に開けていこうよ~」
「うん、そうしようか」

 ドアは右側に二つ、左側に二つある。
左側の手前はトイレになっているようだ。
最初に右側のドアノブを回してみた。

 軋む音とともにドアが開く。
中は居室であった。
年季の入った洋ダンスがある以外は特にめぼしい物は見当たらなかった。
カーテン越しに陽が燦々と降り注いでいる。
採光は申し分ないだろう。

 「この部屋にベッドはなかったね。でもあの歴史もののタンスはかなりの値打ち物みたいだね」
「うん、あれ、売っちゃおうか?」
「え~?なんで~?」

 「あの古めかしいタンスを骨董品屋へ売って、新しいクローゼットを買うのも方法だと思うの」
「なるほど。でも売れるかな~?」
「どうだろうね? さて、じゃあ、次の部屋に行こうか」

 球たちはつづいて右側の二つ目のドアを開いた。
部屋の端にレトロな帽子掛けがある以外何も見当たらなかった。

 「へ~、帽子掛けって珍しいね~」
「ワタルのキャップを掛ける?」
「それも悪くないけど、オレ、帽子掛けって初めて見たよ~」
「今は帽子だけじゃなくて、アウターやバッグが掛けられるポールハンガーとして売ってるよ」

 ワタルは帽子掛けを珍しそうに眺めていた。
「さあ、次の部屋に行こうか」
「二階の最後の部屋だね。あるかな~?」
「どうだろう。何か期待薄のような気がするね」
「望みは最後まで捨てないの~」
「そうだね」

 廊下に出た球たちは左奥にある部屋のドアを開いた。
(ギギギ……)
「おお~~~っ!」
「やった!」

 二人は思いがけず大声を張り上げてしまった。
それもそのはず、部屋の端にはまるで王侯貴族が使っていたのでは、と思わせるような格調高いダブルベッドが設置されていた。
色は落ち着いたダークブラウンで、高級感と温もり、そして上質な安眠が保証されているような気がした。

 二人は呆然と立ち尽くしている。
ベッドがあまりにも豪華過ぎて、言葉を失ってしまったようだ。
おもむろに球が口を開いた。
「ワタル、すごいベッドだねぇ……」
「うん、驚いたよ……」

 それはまるで『ベルサイユの薔薇』に登場するベッドでは、と思わせるほど立派なものであった。
ところが不思議なことにベッドはまったく古びて色褪せた様子が窺えなかった。
最近新調したのではないか、と思わせるほど真新しいものであった。

 「ワタル、ちょっと触ってみようか……」
「うん……」
二人はベッドに導かれるようにベッドへと歩み寄った。

 近くで見るとその豪華さが手に取るように分かる。
枕元と足元の部分には花や蝶を形どった細やかな彫刻が施されており、実に優雅な雰囲気が醸し出されていた。
掛け布団もベッドと調和の取れた大変美しく柔らかなものが使用されている。

 「うわ~、すごいベッドだよ~! ワタル、一度でいいからこんな豪華なベッドでいちゃついてみたいな~」
「これって買うと100万円以上するだろうな~」
「100万円じゃ買えないかもしれないよ」
「マジで?」
「もう~、ワタルったら~。球がせっかく乙女チックな気分に浸っているのに、現実的な話をするんだから~」

 「え? ああ、悪い悪い。でもあまりにも豪華過ぎて、ついどのくらいするのかと考えてしまうよ」
「確かに高そうね~。値段は想像つかないよ~。球ね、このベッドに寝転んじゃいたくなった~」
「球、ちょっと、それは拙いんじゃないか?」
「ちょっとぐらいいいじゃないの」

 球はそういってベッドにごろりと寝転んだ。
「おいおい、やばいって」
「ワタルもおいでよ~」

 球はワタルの手を引っ張った。
「ああっ! 球、ダメだよ~!」
ワタルはバランスを崩して、球の真上に乗っかる形で倒れ込んでしまった。

 真下には球の顔がある。
「ワタル、チューして……」
「……」

 球は瞳を閉じている。
ワタルは唇を寄せた。
軽くキスをして、一度唇を離した。
今度は球から唇を求めた。
先程よりも少し長めのキス。
キスというものは、感情がこもると次第に濃厚なものへと変化していく。

 ねっとりとした熱いキス。
「あぁ……好きよ、ワタル……」
「オレも好きだよ。球のこと……」

 ふたたび唇を重ねる。
「幸せになろうね、球……」
「嬉しい……ワタル……」

 上下に重なり合う形から、まもなく横並びに変化してキスは続いた。
ワタルが部屋の中央を向き、球が壁側を向く形になった。
球は何気に目を開けると、ふと壁に重厚なジャガード織のカーテンが掛かっているのを発見した。

 (ん? 壁にカーテン? 妙だな?)
「ワタル、ちょっと……」
「ん? なに?」


                

   この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました