『加奈子 悪夢の証書』
 
                 Shyrock:作
第15話


 わずか5分が、加奈子にとっては30分にも40分にも感じられた。

 阿久原は時計を見ている。
ようやく地獄の苦しみから解放される時がきたようだ。

 「園木、トイレに連れて行ってあげなさい。」
加奈子の羞恥心をより煽るためには、阿久原たちの見ている前で加奈子
を排泄させることが望ましいのだが、補助便器の用意もなく、また阿久
原自身がスカトロ趣味を持ち合わせていなかったことが、加奈子にとっ
てはせめてもの救いと言えた。

 苦悶に顔を歪める加奈子を、園木はトイレへ連れて行った。
駆け込むように便座にしゃがんだ加奈子の菊門から、園木は栓を抜いて
やった。

 トイレで排泄を済ませた加奈子は再び阿久原の待つ悪魔の部屋へと連
れ戻された。
阿久原は胡坐座りで悠然とした態度で煙草をくゆらせている。

 「すっきりしたかいな?」
憎々しげに見つめる加奈子に、阿久原は事もなげに囁きかけた。

 「・・・・・・」
阿久原は顔を横に向け煙をプイと吹き出した。

 「がははは~、そんな恐い顔せんでもええがなあ。」
「どうして私にこんな酷いことをするんですか!いくら契約書を守らな
かったと言ってもあんまりです!まるであなたは鬼です!!」

 「鬼かいな?節分はまだ先やけどなあ。がははは~」
「ふざけないでください!」
「まあまあ、そうムキにならんでもええがな。園木、奥さんに何かドリ
ンクでも出したげて~な。」

 「ドリンクですね。奥さんところの冷蔵庫を使うのもなんだし、ちゃ
んと持ってきましたよ~。」
用意周到とばかりに、園木は鞄から小さな瓶を取り出した。

 「奥さん、これ飲んで。美味しいよ。」
「・・・」
「ははは~、心配しなくても毒なんて入ってないんだから~。」

 園木はキャップを開けて一口飲んだ。
「ほら。」
園木は悪びれる様子もなく、小瓶を加奈子に手渡した。

 横文字で何やら書いてある。
加奈子は怪訝な表情になった。

 「これ何ですか?」
「海外の清涼飲料水ですよ。」
「そうなんですか・・・。」

 加奈子は喉が渇いていたこともあって、持っていた小瓶を一気に飲み
干した。
横で、阿久原がにやにやと笑っている。
どこか韻を含んだような笑いだ。

 「美味そうに飲みはるなあ~。ははは」
「喉が渇いてましたから。」
「奥さん、今、飲みはったドリンク、ほんまに清涼飲料水やと思たはる
んでっか?」

 「えっ!?違うのですか!?」
「そんなに血相変えんでもよろしおます。別に毒やあらへんし。ずらり、
言うと女性用媚薬ですわ。」

 「び、媚薬・・・!?」
「女性の性欲、性感を高める効果があるんですわ。5分もすると確実に
効果が現れて、奥さんの方から『欲しい、欲しい』とすがりついてくる
はずですわ。がはははは~、こらぁ楽しみやねえ~」

 「くっ・・・だ、騙したのね・・・?」
「そんな人聞きの悪いこと言うて。まあ、身体に悪いもんちゃうし、よ
ろしおますがなあ~。がはははは~~~」