『サチ ドールハウス』
 
                    Shyrock:作
第1話

 昨年、私は2年間付き合った人を伴侶に迎え、今、それなりに幸せな結婚生活を送
っています。
ただ記憶から消せない辛い思い出があって、夫にも言えずずっと悩んでいます。

 昨年の夫との結婚式の日のことでした。
結婚式に来てくれた叔父に祝福を述べられたのですが、どうも素直に喜べなくて・・・。
叔父と会ったことで、薄れ掛けていた辛い記憶が再び蘇ってしまったようです。

 それは今から13年前にさかのぼります。
私がまだ小学校6年生の時でした。確か5月だったと思います。
ある土曜日の昼過ぎ、両親はどちらも出掛けていて、私がひとりで留守番をしている
とインターホンが鳴りました。

 父母からは「知らない人だと出てはダメ」と言われていたので、注意深く覗き窓か
ら外を確認しました。
すると表には親戚の叔父が立っていました。

 叔父と言ってもまだ若く、父より8歳年下で当時30才でした。
私は父母が留守であることを告げ、帰ってもらおうとしました。

 すると、
「それじゃ、どちらかが帰ってくるまで待たせてもらうよ。大事な話があって、どう
しても今日中に会いたいから」
といって家に入ってきました。

 私はやりかけていた手芸用品を片付けようとすると、叔父は「何を作ってるの?そ
のまま続きをやればいいから」と言いました。
私はそのまま居間のソファで、ドールハウス作りを続けることにしました。

 叔父は近づいてきて覗き込むようにしながら、「サッチャンって手先が器用なんだ
ね。うまいもんだ」と褒めながら、頭を撫でてきました。
叔父はすぐに頬をくっつけてきたり、身体に触りたがるので以前から苦手でした。

 叔父はソファの私の横に座って、 べらべらとしゃべりながら肩に手を廻してきまし
た。
私は身体を遠ざけようとすると、
「叔父さんね、今日来たのはね、実は君のお父さんにお金を貸しててさ、それを返し
てもらわにといけなくなったので来たんだ」

 私は子供心に驚きましたが、どう返事したらいいのか分からず、ただ黙って聞いて
いました。
さらに叔父は、家中を見回しながら、

 「サッチャンのお父さんさ、このお家を買う時に頭金が足りないので貸して欲しい
と言ってきたので、叔父さん、弟だしさ、お父さんにお金貸したんだ。ところがさ、
返してもらわないといけない日がもう来てるんだけど、まだ返してくれなくて。この
ままだと借金がもっと増えて、お父さん大変なことになるんだよ」

 と続けました。
父が叔父から借金をしていたとは知らなかったので、かなり驚きましたが、返事も出
来ず、ただ黙って聞いているしかありませんでした。

 困った顔の私を覗き込むように見つめながら、叔父は真顔で言ってきました。

 「でもさ、お父さんを助ける方法はあるよ」
「・・・?」
「サッチャンさえその気になれば、お父さん助けられるかも知れないよ」
「え?私が・・・?お父さんを助けられるの?」
「うん、そうだ。サッチャンががんばってくれたら、お父さんの借金は待ってあげて
もいいんだよ」
「そうなの?」
「そう」

 30才の叔父はこっくりとうなずきました。

                

   この作品は「愛と官能の美学
」Shyrock様から投稿していただきました