『恵 快楽出張』
 
                    Shyrock:作
第10話


 もちろん惠のものではない。
チェックイン以降この部屋に入ったのは自分と昨夜のマッサージ師三谷だけ。
たぶん三谷が落としたのだろう。
惠はしばらくストラップを眺めていた。
甘い蜜のような昨夜の出来事が瞼に浮かんんできた。
惠は急に恥ずかしくなってポッと頬を染めた。

 惠は思い返したように手に持っていたストラップをテーブルに置いた。

「さあ、仕事、仕事。その前に朝食に行かなくちゃ」

 ほぼ身支度も終えたところで、朝食をとることにした。
朝食は1階のカフェレストランでバイキングだ。
惠は部屋を出て1階に向かった。
手には先ほどの携帯用ストラップが握られていた。

 惠はカフェレストランへ行く前にフロントに寄ることにした。
フロントはチェックアウトの客で賑わっていた。
そんな中で手の空いている女性のホテリアが、惠の姿を見るとすぐに笑顔で挨拶をし
てきた。

 「おはようございます」
「おはようございます」

 惠は挨拶を返したあと、すぐに用件を告げた。

 「あのぅ、これ、昨夜のマッサージ師さんの忘れ物なんです。すみませんが本人に
返しておいてもらえませんか?」
「はい?マッサージ師さんの……ですか……?」

 女性のホテリヤは訝しげな表情に変わった。

 「はい、部屋に落ちていたのでたぶんマッサージ師さんの物だと思うんですけど。
他に誰も入ってませんし……」
「それはおかしいですね……」
「え?どういうことですか?」
「はい、確かに当ホテルでは、以前はマッサージサービスをうけたまわっていたので
すが、昨年、依頼先がつぶれてしまってからはお受けしていないんです。そんな訳で、
昨夜もマッサージ師を呼んではいないはずなんですが……」
「ええ~~~!う、うそっ……!そんなはずないわ。昨夜、部屋からフロントに電話
をして呼んでもらったのよ~」
「そ、そんなはずはないと思うのですが……」
「じゃあ、昨夜来たのは誰なのよ~」
「そうは申されましても……」

 信じられないようなホテリヤの返答に、驚いた惠はつい声がトーンが上がってしま
った。
女性のホテリヤは困り果てている。

 「昨夜フロントにいたホテリヤは今いるの?」
「はい、私どもですが……」

 ホテリヤ同士が惠には聞こえないように小声で会話を始めた。
「もういいです」

 フロントとこんな問答をしていても埒が開きそうにない。それに仕事の時間に間に
合わなくなってしまうかも知れない。
惠はフロントに見切りをつけ、カフェレストランへと向かった。

 「ったく……いったいどうなってるよ。まるでキツネにつままれたみたい……」

 惠は吐き捨てるようにつぶやいた。


 惠は白いコーヒーカップを傾けながら、あることがふと頭をかすめた。

 「もしかして……あれって夢だったとか……?」

 もしかしたら疲れていて、夢を見たのかも知れない。
それならばちゃんとパジャマも着ていた理由も分かる。

(でも……)

 であれば携帯のストラップは誰のものなんだろう。
前の客の忘れ物なら、きっと清掃員が見つけるはずだ。

「間違いないわ……彼は来た……」

 惠はカフェレストランに向かう途中、身体の奥からネットリとしたものが溢れ出し
てくる感覚に襲われていた。
クロッチがべとついて気持ちが悪い。

 「部屋に戻って、もう一度パンティ穿き替えなくちゃ……」



                   

   この作品は「愛と官能の美学
」Shyrock様から投稿していただきました