『まりあ 19番ホール』
 
                      Shyrock:作
第9話

 ただし動きはまるでスローモーションを見ているかのようにゆるやかだ。
しかし着実にまりあの最も鋭敏な花芯へと向かっている。
指の腹を内股にピッタリと密着させて円周を描きながら近づいている。

 その焦れったさがゆえに、女の期待感を一段と高めていく。
指を通して車本の体温がまりあの身体へと伝わって来る。
(なぁに?この充足感は……どうしてなの……?)

 まだ愛撫が始まったばかりではないか。
協奏曲に例えるなら、まだ序曲を奏で始めたばかりだ。
それなのに、どうしてこんなに満ち足りた心地のさせるだろうか。

 まりあの脳裏にふとそんな想いがよぎった。
結婚以来、夫に対してこんな気分になったことが一度でもあっただろうか。
毎晩残業で帰りが遅く、たまに抱かれることがあっても、判で押したような機械的な
セックス。

 愛の言葉をささやかれることもなく、決まりきった手順で、形だけの愛撫といきな
りの挿入。
結合はあっても、夫の欲望は短時間で潰え、即座に眠りに就いてしまう。

 まりあはそんな慣例的な夫婦関係に一抹の寂しさを感じていたことも事実だが、い
つしか自身の心にポッカリと空洞が開き始めていることに気がつかなかった。

 てのひらが小高い丘陵地帯を慈しむように旋回した。
布地の上からではあるがその内側には女の鋭敏な箇所が潜んでいる。
まりあは次第に湧き上がって来る熱いものを抑え切れなかった。

 「あぁ……」
「まりあさん、本当に素敵な人だね……」
「あんっ……嬉しいわ……」

 車本はまりあに一言ささやくと、突然、クロッチの中心部を擦り始めた。
「ああっ……そこは……」
窪みを擦る指の動きが次第に忙しくなっていく。

 そして強く中指を押しつける。
「あっ、いけないわ……あああっ、そ、そんなに、あぁ……擦っちゃいやっ……あぁ
ぁぁぁぁ……」

 卑猥な粘着音が静かな部屋に響く。
「あぁ、どうしましょ……あぁん、あん、あん~……ああっ……」
「どうしたの?感じてきたのかな?」
「あぁん、そんなぁ……分かってるくせに……いじわるぅ……」

 「どこが感じるのか言ってごらん」
「いやん……そんなこと言えない……あぁ~……」
「ねえ、言ってよ」
「いやぁ~ん……恥ずかしいもの……」

 車本はまりあに唇を合わせながら、右手で乳房をやさしく揉みしだいた。
一方左手は何の前触れもなく腹部からショーツの内部へとスルリと滑り込んだ。
「あっ……」

 指が繁みを慈しみながら、さらに奥地へと進んでいく。
まもなくすでにとうとうと水を湛えた渓谷に到達した。
「ああっ、そこは……」

 まりあはびくりと身体を震わせた。
指が渓谷の水をすくうように蠢動する。
「あぁ……あぁぁぁ…………」

 まりあは込み上げて来る欲情の飛沫を感じながら、懸命に声を堪えている。
堪えていなければ、今にも激しい喘ぎ声を漏らしてしまいそうで。
でもここはラブホテルだ。激しく喘いで隣に聞こえても何ら構わない場所なのである。

 実際にラブホテルで隣室から声が聞こえてくることなど茶飯事のことなのだから。
それでもまりあは声を抑えた。
人妻という身上が、無意識のうちに声を抑制させてしまうのであろうか。

 声を堪えるまりあに、容赦なく次から次へと快楽の波が押し寄せてきた。
その頃、車本は“栗いじり”を開始していた。
いうまでもなくクリトリスは女の鋭敏な箇所の一つである。

 ショーツの中に潜り込んだ指はクリトリスを探り当て激しく攻め立てている。
「あっ……ああっ……!」
抑えているつもりでもつい声が出てしまう。
そこには徐々に感情の抑制が効かなくなっていく自分がいた。

 車本はショーツにそっと指を掛けた。
ゆっくりと下ろしていく。
ムッとするような甘美な香りが漂っている。

 それは成熟した女の香り。
ともすれば酔いそうになる気持ちを抑えながら車本はさらに下げた。


                

   この作品は「愛と官能の美学
」Shyrock様から投稿していただきました