『惠 淫花のしたたり』 Shyrock:作 第6話 だがやはり声にならなかった。 目の前に人がいるのに呼び止めることができない。 彼らには自分の顔や姿が見えているのだろうか? いや、あの様子では見えていないようだ。 何を語り合っているのだろうか? 聞いてみたい。 だけど何も聞こえてこない。 沈黙の世界が惠を支配した。 しばらくすると男子生徒たちは立ち去ろうとした。 (待って!私を置いていかないでぇ・・・) 願いも空しく、男子生徒たちは惠の前から消えていった。 (あぁ・・・私はどうなってしまうの・・・ずっとこのままなの・・・?) 惠は泣いた。 それからどれだけの時間が経過しただろうか。 窓から差し込んでいた陽が翳り温室内が暗くなった。 夕闇のとばりが降りたようだ。 一層心細さが募っていく。 そんな頃、惠はふと、どこからともなく芽生えてくる快感を感じた。 それは女性特有のあの身体の内側から込み上げて来る欲情に似ている。 (熱い・・・身体が火照るようだ・・・ん?てことは私の身体はまだあるのね?) 快感は次第に具現化していく。 膣を擦られるような快感・・・子宮を突き上げられるような快感・・・ あ、そうだ。この快感はセックス時の快感に酷似している。 (あ、あ・・・どうして・・・?私の身体に何が起こったの?) 暑さ、寒さ、痛み等の感覚は目覚めてから一度も感じなかったが、性的な快感だけ はまだ残っているのだろうか。 そんなことがあるのだろうか。 しかしこの快感は性的なものであることは間違いない。 (どうして・・・?あ、あ、あっ・・・) 熱いものがじんわりと身体の芯から溢れ出しているのが分かる。 突き上げるような快感がさらに増していった。 (あぁ、だめ・・・いやっ・・・あぁん・・・あぁ~・・・) 惠が2日間帰宅しなかったことで、惠の母親が警察に捜査願いを提出した。 母親からの知らせもあって、大学内でも山田教授や惠と仲のよかった生徒たちが捜索 を開始した。 山田教授は2日前に、経済学部の宮本由紀が惠と会話していたことを知り、彼女か ら事情を聞くことにした。 由紀は当日温室で惠が猫探しに協力してくれたことをつぶさに教授に話した。 「で、結局、猫は見つからなくて、君と惠ちゃんは温室の出入り口で別れたんだね?」 「はい、そうです」 「その後、惠ちゃんは温室の中へ戻った訳か」 「はい、そのとおりです」 「そうか・・・」 「ほんとうに先輩はどこに消えてしまったんでしょうね・・・私のために親身になっ て猫探しに協力してくださったのに・・・」 由紀はそういって肩を落とした。 「宮本君、ありがとう。呼び出してすまなかったね。また何か思い出したら連絡して ね」 「はい、分かりました。気がついたことがありましたらまた連絡します。あ!」 「ん?何か思い出したかね?」 「はい、そういえば・・・」 「うん」 「温室の中で男子生徒が植物を調べていたのを見ました。惠先輩と温室の中に入って いって『猫が来なかったか』と尋ねました。確か、3人いたような・・・」 「ほほう、詳しく聞かせてくれないかね」 調査の結果、同じ時間帯に、生物理工学部の男子生徒が温室で植物の研究を行って いたことが明らかになった。 早速、3人の男子生徒が教授のもとへ呼び出された。 この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました |