『惠 淫花のしたたり』
 
                    Shyrock:作
第7話

 男子生徒はいずれも生物理工学部の学生で、4年生の米田、2年生の小山内、1年
生の白木の3名であった。

 教授は手短に用件を伝えた。
「2日前、君たちは温室で植物の研究をしていたね」
「はい、教授もすでにご存知かと思いますが、現在、ランの培養組織の増殖法に関す
る研究中なんです。それが何か?」

 「うん、実はある女子生徒が2日前から行方不明になってるんだ。行方不明になっ
た日に彼女を見掛けたのは、君たちが最後のようなんだ。で、当日のことを教えても
らいたいんだ」
「ええっ!なんですって!?」
「2日前ですか?え~と・・・」

 「女子生徒2人が来て、猫を見かけなかったか、と君たちに尋ねたろう?」
「ああっ!そういえば!!」
「来た来た!来ましたよ。猫が迷い込んで来なかったかと聞かれて、こっちには来な
かったって答えましたよ!」

 「で、2人の女の子はどちらに向かった?」
「確か元来た通路を戻って行きました。でもその後どこへ行ったかは知りませんが」
「やっぱりそうか。彼女たちと出会ったのはその一回切りだけ?」
「はい、それだけです」
「他に何か気がついたことは無かったかな?」
「はい、そう言えば・・・おい、お前が話せよ」

 4年生の米田が2年生の小山内の肩を突付いた。
小山内はおどおどとした態度で語り始めた。

 「実は・・・あ、でも、こんなこと話すと教授に笑われるかも知れませんが・・・」
「笑わない。だから話して」

 山田教授は真顔で小山内の発言を促した。
「研究グループが南米から持ち帰った『植物X』のことなんですが・・・」
「『植物X』がどうしたの?」

 「はい、僕たちは温室に入ることが多いので様々な植物を観察しています。その中
でも特に『植物X』には大変な興味があって毎日のように鑑賞しています」
「うん、それで?」

 「毎日鑑賞していて妙な変化に気がついたんです」
「変化に?」
「はい、別名『人面花』と言われているだけあって、『植物X』を初めて見た時、花
弁が人の顔に見えたことに大きな衝撃を受けました。その後見た時、そうですね、3、
4日前だったでしょうか。人の顔に見えていたはずなのに、それが猫の顔に変わって
いたのですごく驚きました。でも驚いたのはそれだけじゃありません」

 「ふむ・・・」
「昨日の夕方、いつもと同じように温室での研究が終わり、帰り道いつものように、
『植物X』に寄ることにしました。すると、驚いたことに猫の顔がまた変わっていた
んです!」

 小山内は語っているうち自身もかなり熱くなってきた。
「猫から今度は何だ!?」

 教授の語気もかなり荒くなっている。
「ひ・・・人の顔です」
小山内の声がかすかに震えている。

 「つまり人から猫へ変わり、また猫から人へ戻ったと言うんだな?」
「いいえ違います」
「どう違うんだね?」
「僕ははっきりと憶えています。最初の顔を・・・。でもあれは男性の顔でした。で
も・・・でも・・・今は女性の・・・」

 そこまで語ると、小山内は気分が悪くなったのかうずくまってしまった。
「だいじょうぶか!?」
横にいた米田と白木が小山内を抱きかかえた。

 「直ぐに温室に向かうぞ!宮本君はいっしょに来てくれ!それから、すまないが白
木は南米研究グループに直ぐに温室に来るように伝えてくれ!」
「はい!」
「はい、研究グループの誰でもいいですね?」
「構わない!できればグループリーダーの武田がいい!」
「はい、分かりました!」

 「あのぅ、僕たちはどうしましょうか?」
米田と小山内が尋ねた。
「小山内はだいじょうぶか?」
「僕はもうだいじょうぶです」
「ならば、2人ともいっしょに来てくれ!」
「はい!」
「分かりました!」

 山田教授と学生たちは急ぎ足で温室へと向かっていった。


                

   この作品は「愛と官能の美学
」Shyrock様から投稿していただきました