『哀奴まどか』

                             イネの十四郎:作
終 章 旅 立 (1)


 アァッ、アァッ・・・アアァァッッ・・アアアァァァッッッ・・・

 ・・これで何度目になるのでしょうか。
また私はめくるめく絶頂を通り過ぎて、果てしのない苦痛の中に、転がり落ちようと
しているのです。

 本来なら、甘美な快感をもたらしてくれるあの淫靡な器具が、私の敏感な器官を苛
み続けているのです。
これほど長い時間、永遠かとも思われる時間を責め続けられると、これは苦痛・・本
当に苦痛でしかないのです。

 その苦痛の中で、私の肉体はまるで機械のように、一定の周期で反応してしまい、
大波の頂点に突き上げられ、そして再び谷底に叩き落とされるのです。


 私は今、自分のベッドに縛り付けられているのです。

 私の両手は一纏めにして綿のロープで縛られ、そのロープはベッドの頭の方に固定
されています。
そして足首は、それぞれ別のロープでベッドの左右の脚に、引き絞られているのです。
私はベッドの上で仰向けに、「人」の字の形にされて、身動きも許されぬ状態で寝か
されているのです。

 私の身体には淫靡な器具が、外れることのないようにテープで貼り付けられていま
す。
両の乳首と、それよりもっと敏感な突起には、あのピンクのパールロータが、そして
最も罪深い欲望の源には、私の購入したバイブレータが深々と差し込まれ、テープで
押さえ付けられているのです。

 こうして一つの抵抗も許されぬまま責め苛まれて、もうどれ程の時間が経ったので
しょうか。
私はその耐え難い苦痛と、苦痛の合間に時折訪れる快楽の絶頂に、身を焼かれ続けて
いたのです。


 今日は、あの日からちょうど1年目に当たるのです。

 そうです。
インターネットで、私の被虐への憧れを満たしてくれるHPを、初めて検索し探し出
したあの日から、ちょうど1年経つのです。

 あの日から、私は何と遠くまで来てしまったのでしょう。
もう、あの日より前のことは、想い出すこともないのです。
あの日より前に、帰ることもないのです。
これは私の往くべきところ、私の安らぎの場所なのです。

 あの日から、私は暫く一人で歩いていたのです。
まるで、生まれたての赤ちゃんが手探りをするように、手に触れるものを一つ一つ掴
んで確かめるように・・初めての世界を、少しずつ見回しながら、一歩、また一歩と
進んで行ったのです。

 そしてそれから3ヶ月、私は素晴らしいご主人様に巡り会うことができました。
その日から二人で手を取り、二人で探しては見つける秘密の扉。
その扉を開く度に、そこに開ける美しい花園。
それまで存在することすら知らなかった、あの甘美な世界。・・・それは本当に楽し
い、二人の探索の旅でした。

 私たちは、最初は恐る恐ると、次第に大胆になって、貪欲に次から次へと新しい扉
を探し、その中に浸って行ったのです。

 ご主人様・・・私は、私は本当に幸せだったのです。


 でも、何時からだったのでしょう。
私が、私だけが先に進んでいて、気が付いた時にはご主人様とはぐれていたのです。
私は突然、また一人だけで歩いていることに気が付いたのです。

 振り返ると、ご主人様はもう遠く離れ、私の方を見ながらも少しずつ、少しずつ後
戻りをされていたのです。
あぁ、もっとしっかりと手を繋いでいなければ、ならなかったのでしょうか。
それとも、私があまりに急ぎすぎたのでしょうか。
もっとゆっくりと歩かなければ、いけなかったのでしょうか。

 私には、もう元の世界に帰る場所はないのです。
でもご主人様は、元の世界に、父母も、親戚も、そして大勢の学校の友達も住む、あ
の世界に戻って行かれたのです。


 私は今朝、ご主人様に最後のお願い、最後の我が儘を聞いて頂きました。
私の泣きながらのオネダリに、ご主人様はやっと頷いて下さり・・・・私をベッドに
固定して、私の身体にあの器具を取り付けると、外出されたのです。
そして私は、一人家に取り残されて、もう何時間も苦痛と快楽の世界を往き来してい
るのです。

 これが私の世界、私のこれから生きて行く世界なのです。


               

  この作品は、”ひとみの内緒話”管理人様から投稿していただきました。