『哀奴まどか』

                             イネの十四郎:作
第2章 氷 雨 (3)


 お願いですっ・・中に、もう中に入れて下さいっ・・・

 思わず声を上げた私は、ご主人様の横をすり抜けて、部屋に入ろうとしたのですが
・・・。
素早く私を捕まえたご主人様は、私を後ろ手にして持っておられた手錠を掛けてしま
ったのです。
そして、涙を流してイヤイヤをしている私に、今度はゆっくりと買ってきた鎖を首輪
に繋いでしまいました。

 もう私には、逃げる術もなくなったのです。

 首輪に繋いだ鎖の、反対の端を持ったご主人様は、庭の真ん中に、私を引いて行き
ます。
もうその頃には、周囲は暗くなっていましたが、誰かに見られたらどうしようと、私
は不安で一杯でした。

 太い庭木の前まで私を連れだしたご主人様は、私の頭の上にある枝に鎖を巻き付け
て、繋いでしまわれたのです。

 あと30分・・5時半になったら、家に入れて上げるからね・・・
それまで雨に打たれて、よく反省しておきなさい・・・

 ご主人様はそう言い置いて、家の中へ戻られたのです。
明るい窓越しに、ご主人様がゆったりとソファーに腰を降ろし、読書されているのが
伺えます。
対照的に哀れな私は、歯の根も合わないほどガタガタと震えながら、裸身を氷雨に打
たれ続けていたのです。

 ご主人様・・あんまりです・・
私は・・私は、ご主人様の気に入るようにしているのに・・
ご主人様と、一緒にいたいのに・・ご主人様に、可愛がって欲しいのに・・

 それは気の遠くなるような、永い、永い時間でした。
最初は寒さで、冷たい雨が針に刺されるような痛みと感じていた身体が、次第に感覚
を失い、私は眠気に襲われ始めたのです。

 これではいけない・・ここで寝てしまったら・・
私は首を吊られて・・死んで・・しまうかも・・
そうしたら・・もう・・ご主人様の近くに・・行くことも・・できない・・

 時々薄れる意識に首が締まり、ハッとして我に返るのでした。
そんな私の様子に気が付かれたのでしょうか、それとも時間が来たのでしょうか。
私は夢遊病者のようにご主人様に連れられて、部屋の中にいたのです。

 ご主人様は、お風呂を用意して下さっていました。
私は首輪だけを外されて、手錠のまま、そっと抱き抱えられるように湯船に漬けられ
たのです。

 用意してあったのは、温(ぬる)いお湯だったのですが、徐々に感覚が戻ってきた
身体には、まるで熱湯のようでした。
全身の激痛に私は悲鳴を上げ、泣き叫びながら浴槽から出ようともがいたのですが、
ご主人様に許して頂けませんでした。
肩まで何とかお湯から出ると、強い力で押さえ付けられて、また湯船に沈められるの
です。
僅か数分の内に、私の身体は真っ赤に火照っていました。

 ようやく許されて、タオルで身体を拭いて頂いた私は、ご主人様とリビングに戻り
大きな鏡の前に立たされたのです。

 泣きそうな顔で、雨に濡れているまどかって、とっても可愛かったわよ・・
それにまどかの身体、綺麗だし・・まどかのこと、とても好きよ・・
今日はお食事をしたら、もう休みなさい・・
また明日、うんと苛めてあげるから・・・

 鏡の中で私の顔が歪み、ふいに泣き出してしまったのです。

 そうだったのです。
ご主人様は、私を虐めるためだけに、あんな目に遭わしたのではなかったのです。
ご主人様も、私を好いて下さるのです。
それに気付かせるために、それを言うために、あれだけのことをして下さったのです。

 それならば、私も嬉しいのです。
それならば、あの辛さも耐えられるのです。

 ご主人様が喜んで下さるのなら・・・愛して下さるのなら・・・


 私は奴隷として、これからも一緒に生きて行く・・ご主人様の奴隷として・・・


               

  この作品は、”ひとみの内緒話”管理人様から投稿していただきました。