『見果てぬ夢2』

                           とっきーさっきー:作

第15話 アナタ……ただいま……

 岡本典子の視点

 じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ……じゅちゅうっ、じゅちゃっ、じゅちゅうっ、じゅちゃ
っ……
「あはっ、はあっ……バイブがぁっ……くうぅっっ、暴れてぇっ……でも、いいぃっ
……気持ちいいぃぃっっ!」

 私は霞む両目で河添を見上げた。
こんな刺激、強すぎてオナニーになっていないと思う。
でもね、そんなお化けバイブの刺激に身を任せた方が、典子の心は楽かもしれない。
好きでもない男のモノでセックスさせられるより。

 「あうぅ……ふうぅ……う、うぅっ……な、生より……太いぃっ……はあぅ……」
そうよ、これが典子の気持ち。
お腹の中のバイブを思いっきり意識して、
拓也、アナタの粗チンより逞しくて立派だよって。

 「ふんっ、言ってくれるぜ。だったらそのバイブと心中しな」
河添の眉間に皺が寄る。
悦に浸っていた表情が急に陰って、男の右腕が伸びてきた。

 カチッ!
ヴイィィ―ンッッ、ヴイィィ―ンッッ、ヴイィィ―ンッッ、ヴイィィ―ンッッ……!

 「はぐうぅぅぅっっ! あぁぁっ……くああぁぁっっ!!」
私は夜空に向かって吠えさせられた。
狂ったように動くバイブの振動に、膣が?! 子宮が?! 典子のアソコが?!

 ベンチの上で全身をのたうたせる私。
それを見下ろして眉間の皺を刻んだまま男が笑った。
じゅぶぅ、じゅぶぅ、じゅちゅ、じゅちゅぅ……じゅぶぅ、じゅぶぅ、じゅちゅ、じゅちゅぅ……

 「くはあぁぁっっ! だぁ、だめぇ……アソコが……あ、あうぅぅっっ!」
全身の筋肉が放棄するように力が抜けていく。
握り締めていた両手もバイブを手放そうとして、その瞬間、男の腕がそれを支えた。

 私の指にゴツゴツした指を絡ませて、唸るバイブを揺すられる。
生身の肉の棒のように、激しくピストン運動させられる。

 「ひいぃぃっ! だめぇ、バイブぅ触らないでぇっ……おぉ、お願いぃ、うごかさ
ないでぇぇ……ふあぁぁんんっ!」
身体中をエッチな刺激で満たされて、目の前の景色がグニャリと歪んだ。
意識が飛んでいっちゃう。
絶頂の扉が急接近してジャンプしようと踏み切ったのに、真っ白な海を漂っているの。

 どうしちゃったの? 典子のアソコ。
感覚がないの! あんな太いバイブが暴れているのに、典子の大切な処は何も感じな
いの!

 私は霞んでいく視野の隅っこに、大切な人を追った。
公園のベンチでオナニーしてる痴女を、ずっと見守ってくれた典子の旦那様。

 でも、その人と目を合わす前に両目が閉ざされていく。
もう少しだけってお願いして、これで良かったのって納得して。
分裂した心のまま、どこまでも沈んでいく。

 「ちっ、世話の焼ける女だ」
そして、どこかで誰かが舌打ちした。
上せちゃうほど全身が火照っているのに、両肩を何かが覆った。

 世話の焼ける女で悪かったわね。
だけど命令通りにオナニーしてあげたんだから、介抱くらいしたってバチは当たらな
いわよ。

 私は寝言のつもりで口を動かした。
眠っているのか、起きているのか。
その境界線を彷徨いながら、アソコに突き立てられたままのバイブの感触を、今にな
って感じていた。

 『ベーカリーショップ 岡本』
私はそう記された看板を見上げた。
その目線を下にずらせて、窓ガラスに糊付けされた手書きの張り紙を見つめる。

 『おいしい焼き立てのあんぱんあります』
その字を目でなぞっていく。
たったこれだけの短い文章なのに、分裂しかかった典子の心が癒されるのを感じた。
余白に描かれたあんぱんの絵に、思い出したように頬が緩んだ。

 「ただいま……」
私は声を殺してささやくと、そっと引き戸を開いた。
身体を半身にして滑り込ませると、もう一度、音を立てないように戸を閉める。
まるで、夜遊びをして朝帰りした娘さんのように。
頭から角を出して待ち続けるお父さんに気付かれないように。
そのまま、足音を忍ばせて2階へと続く階段を昇っていく。

 どこからか『お帰り』って声が聞こえないかな。
『こんな時間まで、典子。お前はなにをしてたんだ!』って、叱ってくれないかな。
1段2段と足を踏み出すたびに、ギシギシと階段が鳴いて。
典子は帰って来たよって、教えてあげているのに。

 聞きたいな、アナタの声。
できることなら、もう一度だけ。ね、お願い。

 「ただいま、あなた。遅くなってごめんなさい」
私は寝室のドアを開くと、もう一度ささやいた。
玄関から入ったときよりも、ほんの少し大きな声で。

 そして部屋の真ん中に立って、窓際のベッドを見つめた。
ひとりで眠るのには、大きすぎるベッド。
でも、ふたりで夢を見るのには、ちょっと狭いかなって話していたのに。

 「よいしょっと……ふふ、こんなことを言うようになったら、典子もおばさんの仲
間入りだね」
ベッドに腰掛けていた。
たったひとりで呟いて、たったひとりで笑って。
電気も点けずに青白く照らす月明かりだけの空間で、私はじっとしていた。

 それから思い出したような表情を浮かべると、サイドテーブルに飾った写真立てを
手に取った。
写真立ての中の眩しすぎる笑顔に、視線を少し外して勿体ぶるように話しかけていた。

 「あっ、そうだ。博幸、今日はとっても嬉しいことがあったの。ふふ、なんのこと
か分かる? あのね……」
そこで話すのを止めて、目を細めて笑顔を作る。
本当は眩しいのをごまかしたいだけなのに、典子ってずるい。

 「それでね……じゃあ、教えてあげる。この街の再開発が中止になりそうなの。ま
だ正式の決定ではないけど、アナタが命をかけて守ってくれたこの街並みが、このま
ま残ることになったのよ」

 私は肝心なところを一息で話すと、窓を開け放っていた。
写真立てと一緒に、窓の外を眺めた。

 「ね、凄いでしょ? 突然のことで驚いたでしょ? ある人が、開発を進める会社
の偉い人に、掛け合ってくれたらしいの。
詳しいことは知らないわ。だけど、これでこの街はもう大丈夫。アナタと私が探し求
めて見つけた、掛け替えのない街なんだもん。良かったのよね、これで……」

 静かな寝息を立てている街並みを、私はいつまでも眺めていた。
ある人が誰なのか?
そんなこと、どうでもいいじゃない。
その人はどうして、再開発を中止させたのか? 
もっともっと、どうでもいいことでしょ。

 せめて今夜だけは、アナタとふたりで嬉しい気分に浸りたいの。
夜が明けるまでずっとね