『見果てぬ夢』

                            とっきーさっきー:作

第29話  屋外露出 上級……その果てに?


 4月11日 金曜日 午後11時40分  岡本典子

 シュッ、シュッ シュシュ、シュッ……
「はあ、はあ、いいぞぉ。はあ、はあ……」

 暑くなんかないのに?
寒いはずなのに?
顔が火照って額から汗が垂れ落ちていく。
肩に引っ掛けただけのシャツがはためいて……
指が白くなるほど、めくり上げたスカートを握り締めて……

 寒さと羞恥に乳房が震えてる。
意地悪な風の悪戯に過敏な乳首が硬く尖っている。
ビュゥビュゥ吹き付ける強い風に、狭まっている股の隙間を、人の指のように撫でら
れて擦られて刺激される。

 「い、イヤ……だめ……もう……」
こんな会話じゃないつぶやきを、何度漏らしたかな?
両足がふらふらして、何度しゃがみ込もうとしたのかな?

 今の私には、『恥ずかしい! 辛い!』
この単語さえ当て嵌まらない気がする。

 なんなのかな?
ものすごく恥ずかしいのに、今まで経験したことがないくらい恥ずかしいのに。
身体の芯が仄かに熱いの。
風に晒されているのに、おっぱいの奥がキュンとなっちゃうの。

 「はあ、はあ……典子、そのままだぞ。オマ○コを隠したら承知しないぞ! はあ
……はあ……」
さっきから河添も同じセリフを繰り返している。
きっと、横断歩道の先の植え込みの陰から覗いているんだ。
ズボンのファスナーを開いて、硬くなった男のモノを上下にしごいているんだ。

 私を材料にして。
大切な処を全部丸見えにしている、典子をオナニーの材料にして。

 コツ、コツ、コツ、コツ……

 「それでね……」
「うんうん……」
「そうなんだ……」
背中の方から帰宅途中なのかな?
若い女の人の話し声が聞こえてきた。

 ひとり? ……違う、ふたり?!
全身を硬直させたまま両耳だけを研ぎ澄まさせる。
無駄なのに何もできないのに、近づく人の気配を必死で探ろうとする。

 歩道にヒールの音が響いて……
当たり前のように会話して、当たり前のように小さく笑って……

 お願いだからこっちに来ないで!
どこかで曲がって!
会社に忘れ物とかないの?
引き返してよ!

 コツ、コツ、コツ、コツ……

 「この前のあの店のランチ、どうだった?」
「うーん、イマイチかな……でも、値段的には……あれっ?!」
「ちょっと? どうしたのよ?」
「見て……あの女の人……?」

 それなのに、耳が信じたくないリアルな会話を拾った。
その途端、足下がグラついて肩がビクンって震えた。

 後ろ姿だって変に決まってる。
羽織っているシャツも、ボタンを全部外しているから今にも脱げそうだし、スカート
の前を限界までめくり上げているから、太腿の付け根……ううん、お尻の肉だって見
えているかもしれない。

 でもそれ以上に、信号が青なのに渡らずに歩道の脇に佇んでいる女の人って、絶対
に怪しい。そうに決まっている。
「お、お願い。このままだと本当に見られちゃう! 拓也さん、もう許して……許し
てください!」

 私はスカートに包まれたスマホに小声で呼びかけた。
でも返って来るのは、上ずった男の呼吸と早く激しくなる肉をしごく音。

 「いやだ……なにあの人の服装……?!」
「シーッ! 聞こえるよ!」
後ろ髪の生え際から冷たい汗が幾筋も流れ落ちていく。
うなじを通って背中の窪みを通過して、ウエストに巻き付くスカートに染み込んでい
く。

 やっぱり、見られている!
気付かれている!
異性だけじゃない。
同性にまで典子の恥ずかしい姿を晒して……私は……もう……

 「ね、ねえ。あの人……なにしてるの?」
「だから、声が大きいって……どうせ、AVの撮影でしょ。でも、いくらひと気のな
い所だからって、お尻まで丸出しにして恥ずかしくないのかしら?」

 声が真横から聞こえてくる。
刺々しい侮蔑を含んだ会話が、露わにした素肌に突き刺さってくる。
私は人形の振りをして立っていた。
服を着せ替えられる途中のマネキンみたいに立っていた。

 全身を震えさせたいのに、悲鳴を上げて逃げ出したいのに……
私だって普通の女性だから……
こんな露出狂の典子も、心はあなたたちと一緒、普通の女性の筈だから……

 シュッ、シュッ シュシュ、シュッ、シュッ、シュッ……

 「はあ、はあ、出るぞぉ、もうすぐ……出るぞぉっ!」
そんなささやかな願望を、スマホの声があっさり否定した。
横断歩道の真ん中で、振り向いた彼女たちも冷たい視線でそれに応えた。

 風に煽られて顔を覗かせるおっぱいも、おへそが見えるくらいめくり上げられたス
カートの中身も……
さあ見てよ。典子の女の象徴を全部見てよ。
乳首がピンと立って硬くなっているでしょ。
ふさふさした陰毛が風になびいているでしょ。
両足だって開いているから、股の隙間から典子の恥ずかしい割れ目も覗いているでし
ょ。

 私は人に見られるのが好きなの。
人前で露出すると快感なの。
だから典子は平気よ。

 通り過ぎながら言われた「変態! 恥知らず!」って言葉。
遠ざかりながら風に乗って聞こえてくる「信じられない。あんな露出狂、初めて見た。
絶対に頭オカシイよ」「うん。同じ同性として、あんな人軽蔑しちゃうね」って、会
話も……

 きっと大丈夫だから。
まだ私の心は、壊れるわけにはいかないから。

 シュッ、シュッ シュ、シュ、シュ、シュッ、シュシュ……!

「はあ、はあ、で、出る! でるぅッ!」
「ドピューッ……ドピュ、ドピュ、ドピュ、ドピュゥゥゥッッ!!」
「あぁぁ、い、いやぁぁっ! 掛けないでぇっ! 典子に振り掛けないでぇっ!」

 河添の姿なんて見えないのに。
勢いよく射精したって、白い液は届かないのに。
私の全身は熱い液に覆われている。
乳房にもお尻にもアソコも、みんな白濁液に染まってる!

 私はセックスしたんだ。
路上で見えない河添とセックスしちゃったんだ。
ほらその証拠に、身体中が熱く火照って割れ目の中がジンジン疼いている。匂ってい
る。

 風が吹くたびに典子の身体を包み込んで……
男の精液の匂いが、見えないベールになってまとわりついて……
大切な人の香りを、またひとつかき消していく。
典子のもう取り戻せない、大切な想い出を……