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『見果てぬ夢』
とっきーさっきー:作
第26話 屋外露出 初級 その2
4月11日 金曜日 午後11時15分 岡本典子
♪♪……♪♪……
突然ポケットに入れてあるスマホが、軽快な着メロ音を流した。
私は慌てて摘み出すと素早く耳に押し当てる。
「もしもし……」
「よお典子……俺だ。ふふっ、指示通りの格好で突っ立っているところを見ると、プ
レゼントした服は気に入ってもらえたようだな」
「あ、ああぁっ……もう……許してよ! 私、恥ずかしくて死にそうなの! さっ
きから通りがかった人みんなに、ジロジロ見られて……もう、これ以上耐えられない!
それにこんな格好……もしも、誰か知っている人に見られでもしたら……私は……
典子は、もう生きてゆけない……」
ほっぺたを熱い滴が流れ落ちていく。
悔しくて、情けなくて……
でもそれ以上に、こんな恥辱から逃れたくて……
私は、鼓膜に響く残酷な男の声にすがるように訴えていた。
訴えながら、男の姿を必死で探し求めていた。
やっぱり、この人は見ていたんだ!
下着さえ身に着けずにエッチな服装の私を、どこかに隠れて覗いていたんだ。
どこ? どこにいるの?
「ふふふっ、大げさなこと言うなよ。顔はゆでダコみたいに真っ赤にしているが、
内心ではまんざらでもないんだろう? 何といっても、ベランダから『典子は淫らで
淫乱な人妻です。オチ○チンが大好きな人妻です』……だからな。この露出狂が……
!」
「ひどい……そんな言い方……これは、あなたの命令だから仕方なくしているのに。
そんな……私は……露出狂なんかじゃないわ! だから、は、早く私を……典子を解
放して! お願い!」
「まあ、待ちなって。そんな薄っぺらな生地の服でも、結構いい値段がしたからな。
うーん……そうだな。今から俺が、典子を材料にせんずり……ああ、オナニーをして
やる。お前はその間、俺の命令通りのポーズでもしてもらおうか? そして、俺が無
事抜け終えればこの露出ごっこから解放してやる。ふふふっ、いいアイデアだろう。
なあ典子」
瞬間、スマホを取り落としそうになる。
私は河添の話し声を遠い出来ごとのように聞いていた。
オナニーってなによ!
私を材料にって……?!
ううん、それ以上にポーズって……?
私は、まだまだ恥ずかしいことしないといけないの?
もう充分でしょ。昔の恋人にこんな仕打ちをして、あなたは満足でしょ?!
それなのに、こんな羞恥地獄に耐えないといけないなんて……
「おい典子。ちゃんと聞いているのか? お前には迷う権利なんて最初からないん
だからな。あるのは、イエス、OK……それだけだ。さあ、次のステージへと進んで
もらおうか。こっちは、お前の痴態がよく見える所で鑑賞しているんだ。言っておく
が、ズルはなしだぜ。ははははっ」
私は、雑音の流れるスマホをすっと耳から離した。
そのまま真っ直ぐに横断歩道を見つめる。
冬の名残のような北風がビュゥって吹き付けてきて、私の周囲で渦を巻いた。
大きくはだけさせられたシャツのせいで、典子のおっぱいが寒さにブルブル震えてる。
足下では、前からも後ろからも風が上昇気流みたいに吹き上げて、薄くて軽いスカー
トが風に煽られる旗のようにパタパタとはためいている。
そんな姿で私は、おへその辺りに握りこぶしを押し付けたまま立ち続けていた。
『イヤァッ』とか『キャアァ』とか可愛らしく悲鳴を上げたいのに、それもグッと我
慢した。
道路を走る車が、パァーンってクラクションを鳴らしていった。
暖房を入れているのに、窓を全開にして徐行するドライバーと視線がぶつかった。
ショーツを着けさせてもらえない股間に冷気を感じて……
恥ずかしい処もお尻も、丸出しにしていることを実感させられて……
私自身も思い始めてた。
……典子って露出狂かも? 変態かも?
歩行者用信号が赤から青に変わった。
信号機に設置されたスピーカーから、昔懐かしい童謡が流れてくる。
私はその場に佇んだまま、一歩も動かずに深呼吸をする。
そして、大きくゆっくりと頷いた。
そのまま下をうつむいて、そこだけ濡れたアスファルトに視線を落として……
私にも聞こえない声で呟いていた。
「典子……いつになったら、渡れるのかな?」って……
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