『闇色のセレナーデ』
    
                           とっきーさっきー:作
第18話 再び、悪夢の公園で……


 薄い闇は青白い闇の世界へと進化していた。
昇り始めたばかりの満月の光が、真冬の冷たい寒気を射し貫くように降り注いでいる。
卓造は千佳を引き連れて和也と対面していた。
場所は忘れもしない。あの市民公園、遊具広場である。

 「千佳を佐伯さんに預けて、もう1週間になるんだね。調教の方もうまくいってい
るみたいだし、やっぱり僕の目に狂いはなかった。そういうことかな」
「ああ、俺もキミには感謝しているよ。リストラ候補から救ってくれた上に、こんな
可愛い子を好き放題に出来るんだからね。はははっ」

 卓造が乾いた笑い声をあげ、満足気に目を細めていた和也もつられるように喉を低
く鳴らした。
そして男達の笑い声から取り残されたように、千佳だけが唇を噛み締めたまま俯いて
いる。

 全裸のまま四つん這いで、白い肌を戒めるように本皮製の首輪まで嵌められて。
「あ、あぁ……オシッコ……漏れちゃうぅっ!」
「ん? どうしたんだい、千佳。ブツブツ言っても聞こえないよ。言いたいことがあ
るなら、はっきりしないと。ね、佐伯さんもそう思うでしょ?」

 「う、うん……そうだな。キミの言う通りだ。千佳、震えているばかりじゃ分から
ないだろ?」
卓造は腹の中が煮えくり返る思いだった。
しかし和也に悟られるわけにはいかない。

 淫魔が取り憑き妖しい笑みを浮かべる男に愛想笑いで応えると、苦しむ千佳の姿を
堪能するかのようにしゃがみ込んでいた。
(可哀想に……薬なんか飲ませやがって。それでもお前は兄貴か!)

 この公園に着くとすぐに、和也は千佳に服を脱ぐことを命じ、その上で利尿剤入り
の清涼飲料水を飲ませたのである。
寒風が吹きさらす公園で、冷え切った500mlのペットボトルを一気飲みさせたの
だ。

 こんなことなら、ここへ来る前に喫茶店なんかへ立ち寄るんじゃなかった。
ほんの些細な湯気を立てたティーカップ一杯の紅茶さえ、今の卓造には辛い後悔でし
かない。
明らかに余裕を失い、込み上げる尿意とだけ闘う千佳を見れば、尚更である。

 「それじゃ、そろそろ恒例の散歩といこうかな」
だが和也という男は、この程度の余興では満足しない。
千佳の悶える様に悦を感じて見せながらも、首輪から繋がるリードを拾い上げると卓
造に手渡した。

 今から始まる地獄の散歩を調教師役に任じた卓造にやらせる気なのだ。
「んんっ……グゥッ! お願い……します。オシッコ……させてください」
「ダメだよ、千佳。ここは道路でトイレじゃないからね。オシッコがしたいのなら、
どうして公園を出る前に言わないのさ?」

 喉を絞り出して吐き出す千佳の哀願を、和也はとぼけた顔で拒絶する。
そして、どうしても手加減して歩く卓造に向けてアゴをしゃくってみせる。
動きの鈍い千佳を引きずってでも、散歩させろと言うことなのだろう。

 (すまない、千佳ちゃん。もう少しの間、耐えてくれよ)
卓造は胸の内で詫びた。
もう少しがどれくらいの時なのか、その答えを知らないままに足の速度を速めていく。

 大型犬用の鎖のリードがジャラジャラと音を立てて引き伸ばされて、ピンと張り、
千佳が苦しげに呻き声をあげた。
「ふふふっ、一滴でも漏らしたら、佐伯さんにお願いしてお仕置きだからね。う~ん、
何がいいかな? そうだ、浣腸なんかいいかも。千佳のお尻の穴に太い浣腸器を挿し
込んでさ、臭~いウンチをたくさん出させてあげる。ね、愉しみでしょ?」

 「嫌ぁっ! そ、そんなの、は、はぁっ……んんっ……くぅっ……!」
張り詰めていた鎖のリードが僅かに弛んだ。
和也の常軌を逸した言葉に脅されて、千佳の手足が死に物狂いの行進を始めたのだ。

 散歩が終われば解放してもらえる。
冷静な千佳なら首を振って否定するところを、切迫する尿意に押された彼女にはその
判断力さえ失われていた。

 「んくぅっ! はあぁぁっっ……! 辛い……オシッコ……」
(クソ! 俺はどうすればいいんだ?! このままだと千佳ちゃんが……)
犬のように四足で歩かされる千佳は、震える手足を懸命に踏み出させていた。

 ヒザ小僧にお情けみたいに嵌められたサポーターでアスファルトを擦って、尿水で
満たされた下腹を揺らせて、キュートなヒップを悩ましくくねらせて。
一歩一歩、和也しか答えの知らない無限回廊の散歩を延々と続けている。

 そんな彼女の悲痛な姿を見下ろして、それでも卓造は声も掛けてやれない。
一緒になって哀しい顔をすることも許されない。
口笛を吹きながら歩く和也の後ろを付いていくしかないのだ。

 そして、公園を出て20分は経過しただろうか?
薬剤による暴力的な尿意と懸命に闘ってきた千佳が、ついに限界を迎えようとしてい
た。
真冬の北風に晒されながらも、全身の肌を汗びっしょりにさせた少女は、立ち止まり
全く動けなくなっていた。

 「ふふふっ、そろそろギブアップって感じだね。どうやら浣腸される覚悟を決めた
ってことかな?」
「くぅっ! いやぁ、浣腸は……やだぁ……でも、もう……オシッコ、ガマンできな
い」

 勝ち誇り向き直る和也に、千佳が弱々しく頭を振った。
同時に漏れ出る声音も、消え入るように細かった。
どこまでも勝気な少女の背中から、諦めに似た絶望感が滲み出ている。

 卓造はその思いを意識した。
「和也君、ちょっとキミにお願いがあるんだけどな」
そうしたら、男の口からは勝手に言葉が飛び出していた。

                
       
 この作品は「羞恥の風」とっきーさっきー様から投稿していただきました。