『闇色のセレナーデ』
    
                           とっきーさっきー:作
第5話 淫具の響きは、同士の囁き


 「さあ、千佳。今夜はここで思いっきり鳴いてもらおうかな」
昼間になると子供の声で賑わう遊具広場も、月明かりに照らし出される無人のそれは、
物悲しさを通り越して不気味にさえ思えてくる。

 「はうぅぅっ、あぁっ……お兄ちゃん、きついのぉ……バイブが暴れて……ふぁっ、
わたし、また……」
千佳はここまでの道すがら、既に2回は絶頂を極めている。

 突然歩様が止まり、突き出したヒップをブルブルっとさせたかと思えば、上半身を
仰け反らせて嬌声をあげる彼女の姿を、卓造は目撃しているのだ。
そして、3回目がまもなく。

 「ふふっ、だったら、もっと暴れさせてあげるね。バイブを」
カチッ……! ヴゥゥーンッ、ヴゥゥーンッ、ヴゥゥーンッ……!
「ひゃぁっ! だめぇっ、きつく……しないでぇ。あうあぅっ、バイブがぁ、中でぇ
……も、もうっ……イク、イク……イキますぅぅっっ!!」

 和也がリモコンを操作したのだ。
明らかに大きくなったバイブの音ともに、千佳が3度目の絶頂を経験させられる。
ビクン、ビクンと何度も両肩が震えた。

 愛液で汚れた内股が、膣肉を嬲り続ける玩具をギュッと絞め付けていた。
桜色の唇が空を見上げて、哀しい声で鳴いた。

 「あーぁ、イッちゃった。千佳ったらそんなにオマ○コが気持ちよかったの? ち
ょっと、はしたなく鳴きすぎだよ。でも、イク時にはイキますって。これだけは褒め
てあげる。ちゃんと言えるようになったからね」
「んんっ……は、はぁぁ……だって、お兄ちゃんがそうしろって……んぐぅっ」

 次の快感の波が押し寄せてきたのだろう。
千佳は砂地に指先を突き立てると、漏れる吐息を減らそうと唇を噛み締めている。
だが、激しいバイブのうねりに蕩け切った恥肉は、少女の乙女心を嘲笑うかのように
淫靡な快感をもたらそうとする。

 植え込みの陰からその様子を覗いていた卓造は、ズボンのファスナーを引き下ろし、
硬くなったペニスをひたすら擦り上げていた。
間違っても、1カ月前の夜みたいに下着の中での射精はごめんだった。

 あの時の惨めさは、今でも忘れられない。
しかし今夜も、中途半端な惨めさは付き纏うことになる。
それまで千佳を見下ろしていた和也だが、不意にその顔を上げたのだ。
全てを知っている。

 そんな顔付きで、卓三が潜む植え込みに目を向けたのである。
「佐伯さん。そんな所に隠れてないで、こちらへどうぞ」
「ひ、ひいぃっっ!」
もう少しで放出という時になって、卓造は女のような悲鳴をあげた。

 和也に見抜かれていたのだ。
「アナタのことは、何もかも調査済みです。ご自宅のアパートも、勤めていらっしゃ
る会社のことも。ああ、会社と言えば、2千万の受注は目処がつきましたか? それ
がないと、リストラ候補とか……くくくくッ」

 「な、何がおかしいんだ?! お前のようなお金持ちには……俺の……」
立ち上がり、言い返そうとした卓造の声が尻すぼみになって消えた。
急速に萎え始めた肉棒を両手で隠したまま、棒立ちしている。

 (もう、何もかも終わりだ。この男は、俺のことを全部調べ上げたうえで泳がせて
たんだ。この1カ月間、ずっと)
絶望の二文字が急速に現実味を帯びてきた。
リストラ……無職……ホームレス……

 卓造は自棄になったつもりで二人の元へ歩み寄っていた。
ただし両の手のひらは、股間の前で交差させたままである。

 「で、出てきてやったぞ。わ、笑うな……!」
「くくくくっ、申し訳ありません。どうやら僕は佐伯氏の自尊心を傷付けたようです。
ですが勘違いしないでくださいね。僕はアナタの心根を知ったうえで、同士に迎え入
れたいと思っているんですから」

 「ど、同士だって?」
突飛もない和也の答えに、卓造は唾を飛ばして聞き返していた。
「ええ、僕にとってたったひとりの同士にね」
呆けた顔をする卓造を前にして、和也が大きく頷いてみせる。

 「俺が、たったひとりの同士……」
希望を失った顔をしていた。希望を失った声をしていた。
だが卓造は感じた。腹の中で蠢き始めた心地よい快楽を。
そして足元では、湧き上がるバイブの刺激に限界を迎えた千佳が、4度目の絶頂を可
愛い声で知らせた。

 それから10分後。和也から信じられない相談を持ち掛けられた卓造は、夢見心地
のままOKサインを送る。
社会の底辺へ転落し始めた営業マンにとって、和也から垂らされた糸は細い蜘蛛の糸
ではない。両手でしっかりと握れる太いロープだったのである。

 「チカ、佐伯さんがお呼びだよ」
話がまとまり落ち着いたのを見計らったように、和也が千佳に声を掛けた。
一瞬首を上げて、はっとした顔をする少女だが、兄の命令は絶対なのだろう。

 紅潮した顔をすぐに伏せると、四つん這いのまま卓造の足元へ移動する。
「か、和也君……お、俺はなにも、そんな……」
全裸の少女が目の前で畏まるのを見て、卓造はうろたえた。

 「いいんですよ。佐伯さんは、そのままじっとしていて下さいね。チカ、佐伯さん
のを、お前のお口で気持ちよくさせるんだ。できるよね?」
「は、はい……お兄ちゃん……」

 (俺のを? お口で? 気持ちよく?)
卓造の脳ミソが、和也が口にした単語を復唱する。
その間にも膝立ちになった千佳によって、股間で揃えられた手のひらが解かれる。

 「お嬢ちゃん……いや、そこは……その……」
半立ちのまま垂れ下がるペニスを露わにされて、千佳に負けないほど卓造も赤面して
いた。
そんな中年男の性器を目の当たりにした少女も、目を潤ませたまま言い様のない憂い
を湛えていた。

 「失礼します」
けれども、千佳の憂いは数秒で消えた。
氷の目で見下ろす和也に射すくめられたのか、目尻に涙を溜めたまま顔を寄せてきた
のである。
卓造の股間へと。

 (こんな可愛い少女を、1ヶ月間も自由に出来るなんて……)
ペニスを包み込む柔らかな肉の抱擁に、卓造は10分前に和也と交わした約束事を思
い返していた。

                
       
 この作品は「羞恥の風」とっきーさっきー様から投稿していただきました。