『シャッター・チャンス』
                               とっきーさっきー:作
最終話 世の中には不思議が満ち溢れている??


律子さんの撮影が終了して、あたしはひとつの決意を固めた。
本当は、決意なんていう大げさなものではないかもしれない。
けれど、やっぱり女の子にとっては重大な決断なの。

そう、あたしも律子さんみたいにヌードを撮ってもらうことにした。
今までのように、大切な処を水着や絆創膏なんかで隠したりしない。
大きく足をひらいて、恥ずかしいスリットもその中の真っ赤なお肉も、ぜーんぶ全国に潜んでいる隠れ
雪音ファンに見せてあげる。

その代り、いただくものはちゃんといただくわよ。
なんといっても正真正銘のバージンガールのオールヌードなんだから。
そうよ、無修正の裏モノなんだからね。
うふふふ……

あとは……お父さんをどうやって説得させるかよね。
いざとなったら、男のくせに踏ん切りがつかないのよね。
それと、ティッシュもたくさん用意しておかないと……
愛娘のあそこを見た途端、鼻血ブチュウ! じゃ、お仕事にならないでしょ。



「ふむふむ、また記録更新かな? このペースだと今夜は200人……はあ~、羨ましい~」

あたしは、向かいの『そば屋 並木』から伸びる長い行列に大きく溜息を吐いた。

「それに比べて、うちは……はあ~」

まったく人の気配のない店内に、がっくりと肩を落とした。
『北原写真館』のお客様は、今日もひと桁。
だから、やりたくないのに学校の宿題がどんどんはかどっちゃう。

あたしだって、一度くらい大混雑のお店の中を駆けずりまわってみたいなぁ。
そうしたら、ちょっとくらいミニスカート履いてサービスしちゃうのに。

「ねえ、お父さん。面白いアイデアがあるんだけど、聞いてくれる? 明日からあたし……体操服でも
着て店番しようかなぁって?
半袖と短パン姿で……なんなら昔懐かしいブルマでも。ふふふ……男の人って、案外そういうのに弱い
でしょう? ……?! ねえ、聞いてるのっ!」

「…… ……きた!」

「きた? 聞いた? はいぃ?」

お父さんは店の奥でパソコンと睨めっこしていた。
う~ん、あの目では……無駄だったかも……?

「雪音、メールだ!」

「ふ~ん。誰から?」

「誰からって? そんなの久藤さんからに決まっているじゃないか!」

「それで……ああ、律子さんね。……で、なんて書いてあるの?」

あたしはそば屋の行列から目を離すと、お父さんの元へと移動した。
一緒になってパソコンを覗き込んでみる。

「え~、なになに? 『ピンクの傀儡子様、並びに優秀なカメラアシスタント雪音様へ。このたびは2
度にわたる私のわがままを訊いていただき大変ありがとうございました。お陰さまで、今度こそ主人の
心を取り戻すことに成功いたしました。
あの日から毎晩、夫婦らしい夜を迎えさせてもらっております。お恥ずかしい話、ベッドの中であの写
真を見ては……』うーん、なんだな、おほん」

「もぉーっ! お父さんったらいいところなのに……咳ばらいなんかしてごまかさないでよね。まった
く、初心なんだから」

「初心! ってお前?! 年頃の娘が……」

「いいから、いいから。うふ♪ でもあたしのこと、優秀なカメラアシスタントだって……それで、そ
の後はなんて?」

「ああ、えーっと……ちょっと飛ばして……『……おふたりには、感謝をしてもしきれません。つきま
しては、お写真を撮っていただいた代金とは別に、私たち夫婦のこころざしも合わせて振り込ませてい
ただきました。
ささやかな金額ですが、遠慮なさらずにお受け取りくださいませ』だって」

「夫婦のこころざし? ささやかな金額?」

あたしとお父さんは、顔を見合わせた。

律子さんに請求した金額だって、あたしの独断と偏見で普段の撮影より『0』がひとつ多かったのに…
…?
おかげでお父さん、気を失いかけたのに……?

「お父さん! いくら振り込まれているの?!」

お父さんがネットバンクの口座をひらいた。

「えーっと、1、10、100、1000……ひ、ひぃ、ひゃくっ、ひゃくぅっ! 雪音ぇっ、撮影料
と合わせて百十万!! 
う~、おやすみなさい……お父さん寝るね……」

「ち、ちょっとぉっ! お父さん、こんなところで気を失わないでよ。あら? 追伸が……え~っと……
『こんな素晴らしい腕をお持ちのおふた方に、私の友人を紹介したいと思います。彼女もまた私たち夫
婦と同じ悩みを抱えていて名前は……』
……これって、新しいお仕事だよね?! ふふふっ……ということは、帯封がもうひとつ……かも♪♪」

あたしは、机の上で気持ち良さそうに眠るお父さんを見つめた。
そして、自分自身を見つめた。

こんな人生って最低だと思っていたけど……
こんな生き方をしてたら神様に怒られるって、それは今でも思っているけど……
でも?……それでも?

今は、これでいいかも。
誰かを幸せにして、それにそれにお金もた~くさんもらえるんだから。
ふふふっ、雪音はお金が大好きなんだから。
お金をいっぱい貯めて、あたしの家族も幸せにするんだから。

それにしても……
あたしは、途切れることのないそば屋の行列を見ながらつぶやいた。

「世の中には、不思議が満ち溢れてる」って……