『シャッター・チャンス』
とっきーさっきー:作
第2話 地下スタジオのアイドル その2
あたしは、バスタオルを肩に掛けて椅子に座っていた。
お父さんは、被写体のいない真っ白な壁に向かって機材を調整している。
因みに、お父さんのお仕事は写真屋さんだったりする。
創業者は、もう死んじゃったけどあたしのおじいちゃん。
よくショーウインドに七五三や結婚式の写真が飾ってある昔ながらの写真屋さんって感じかな。
そしてこの部屋は、お店の地下に造られた特設の撮影用スタジオ。
広さは……うーん?
あたしのお部屋の倍は有りそうだから、畳でいうと8畳くらいかな?
それと隣接する着替え室。
こっちは元々撮影用の資材置き場だからもっと小さくて……畳2枚くらい。
あたしが中学生だった頃に、『1階のスタジオでは僕の求めている写真が撮れない』とかなんとかお父
さんが言いだして、お母さんが止めるのも聞かずに強引に造っちゃった。
その時のことは今でもはっきりと覚えている。
自分の趣味の世界に没頭するお父さんを見て、陰でお母さんは泣いていたんだよ。
当然だよね。
今どき街の写真屋さんなんて流行らないものね。
来てくれていたお客さんだってどんどん減っちゃって、お店だって赤字だったのに。
だからお母さん本当に怒っちゃって、実家に里帰りしたまま帰って来なくなっちゃった。
もう2年になるんだよ。
お母さんがお父さんに愛想を尽かしてあたしの家族が崩壊して、あたしとお父さんだけの父子家庭が2
年間も……!
それなのに……
そこまでして作ったスタジオってなによ!
お父さんの求めている写真って、娘の卑猥な姿をシャッターに収めることだったの?!
そんな写真を現像しては、エッチな目をした男の人たちに売り渡すことだったの?!
家族ふたりが暮らしていくのには、仕方ないって思っているけど……
危なっかしいお父さんだから、雪音が協力してあげないといけないことも理解しているけど……
ちょっとだけ、心の中で叫ばせてよ。
『お父さん、ズボンの前を膨らませないで!』
……て、いけない。
雪音は感情のないロボットだったんだよね。
それなのにあたしったら……
「あ、お父さんが呼んでる。行かなきゃ……」
あたしは肩に掛けていたバスタオルを振り解くと、再び白いステージに立っていた。
隣には、背もたれ部分がくり抜かれて木枠だけ残された木製の椅子。
そしてお父さんはというと、写真集をペラぺラとめくりながら構図を考えている。
あたしと同世代の女の子たちが、卑猥なポーズをしながら笑顔を振りまいている写真。
初めて見たときは、同性なのに顔が真っ赤になっちゃって心臓もバクバク鳴っちゃったけど、今は結構
平気かな。
だってこの後、雪音も同じポーズをさせらされるしね。
「それじゃあ、始めようか。まずは、その椅子を跨ぐようにして背もたれに向かって座ってみて」
「……うん」
あたしはお父さんが見守る中、背もたれの先端に両腕を乗せたまま、太ももを120度くらいに拡げて
椅子に座った。
それを正面からカメラのレンズが捉える。
カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……
背中を反らし気味にして突き出したおっぱい。
大きく拡げられ、隠したくたって隠せない太ももの付け根。
縦に走る紐に割れ目の中だけ隠してもらった、大陰唇丸出しの女の子の部分。
容赦なく撮影するレンズにも、お父さんの目にも晒させた。
全然嬉しくないのに、ホントはものすごく恥ずかしいのに……
雪音がお仕事にだけ作る特製の笑顔のおまけつきで……
「次は……そのぉ……すまない、お尻を……」
「はい。次は、お尻ね」
あたしは、お父さんからの指示を復唱すると座っていた椅子を逆向きに置いた。
そして、さっきと同じように腰掛けながらお尻を強調するように後ろに突き出した。
背中をもっと湾曲させて、Tバックのお尻を座席部分からはみ出させる。
それを待っていたかのように、連続したシャッターの音が響いた。
カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……
「雪音、水着を……」
「うん、わかった。……最初は……半分くらいでいいよね?」
「ああ、すまない……」
あたしは腰を浮かせて、お尻に喰い込んだTバックを下していく。
ふたつ並んだ割れ目の真ん中あたりに、紫色の紐で真横にラインを引く。
おっぱいに比べてしっかり大人になっちゃったお尻のお肉を、当り前のようにお父さんに見せながら身
体を固定する。
背中越しにシャッターの音を聞いて、カメラに写っていない時だけくちびるを真一文字に結んで……
真っ赤に火照ってくる顔を関係のない空想でごまかして……
「雪音」って呼ばれて振り向いて、その瞬間だけ微笑んじゃった。
カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……
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