『縁マンで抱かれて…』

                          とっきーさっきー:作
第1話

クリスマス、お正月と、楽しかったイベントが終了した。
待っていたのは、冷たい北風が舞うだけの寒~い毎日だった。

高校卒業を1ヶ月後に控えたアタシと友哉は、そんなピュウピュウと鳴く風に身を縮
込ませながら歩いていた。

「あ~ぁ、半日だけ登校して消化試合みたいな授業を受けるなんて、なんかバカバカ
しいよね。アタシも友哉も大学の推薦も決まってるしさ。卒業式まで春休みの前借り
出来ないかな」

「そんなもんかなぁ。俺は全然思わないけどな。だってよぉ、青春を共にしたクラス
メイトとも、残り1ヶ月でオサラバするんだぜ。なぁ、そう考えると寂しくないか、
千佳?」

「アタシはぜ~んぜん。それよりも早く大学に行って、マンションで独り暮らしを始
める方が待ち遠しいもの」

「ホントにいいのか、千佳? クラスの男共が、クラスで2番目の美少女に会えなく
なるって泣いてるぜ。きっと」

アタシより頭1個半分背の高い友哉が、首を斜め下に傾げて覗き込んできた。
野球部を引退して半年も経つのに、現役世代と一緒のクリクリ坊主の頭が、真冬の太
陽に反射している。

「友哉に質問です。どうしてアタシがクラスで2番目の美少女なんでしょうか?」

「ふふふっ。そんなの決まってるだろ。千佳と俺は太くて深~いエッチな絆で結ばれ
てるのに、それで1番だと他の男共の嫉妬がおっかないからな。まあ、2番目でガス
抜きってやつさ」

「太くて深~いエッチな絆って……! ちょっと、なんてことを言うのよ!」

とっても寒いのに、ほっぺたがかぁっと熱くなる。
アタシは覗き見しているツルツル頭をペシャリと叩くと、早足で歩き始めた。
後ろから友哉が呼び掛けてきても、知らん顔。振り向いてなんてあげないから。

でも、アタシが友哉とエッチな関係ってのは、本当の話。
だって去年のクリスマスイヴイヴイヴの夜に、大切なモノをプレゼントしちゃったか
ら。
ふたりお揃いのサングラスして、ふたりお揃いの自転車を漕いで、郊外にあるラブラ
ブホテルで、友哉に抱いてもらったの。
千佳はクリスマス、えーっと、イヴイヴイヴの夜に処女を卒業しゃったの。


「なあ、千佳。あの話どう思うよ?」

それから5分くらい歩いて、口をムズムズさせてたんだと思う。友哉が話しかけてき
た。

「どぉって?」

アタシは、ちょっぴり不機嫌そうな声をこしらえると聞き返していた。
首を傾げたまま斜め上の頭に顔を向けて、目の端にチラっとだけ『あの話』の対象物
を映し込みながら、そんなアタシの不満を忘れちゃった友哉の顔を醒めた目線で見つ
めた。

「どうってことないだろ? アレだよ。アレ!」

「だからアレって何よ? アレコレで通じるほど夫婦円満ごっこしてないから、千佳
は分かんない」

アタシはアレを知っているのに、知らん顔をしてそっぽを向いた。
そうしたら、鼻の穴を拡げた友哉が、顔を近付けてきて……

「縁マンだよ、そこのエ・ン・マ・ン!」

「ひゃあぁぁっっ!」

耳の中で友哉が口にした最後の4文字が、割れ鐘声で輪唱している。
3年間ずっと野球部に所属してたのに、鍛えられたのは拡声器並みの大声だけという
哀しい特技に触れさせられて、アタシは両耳を塞いだまま悲鳴をあげた。
これ以上は地声拡声器に襲われたくないから、何度も頷いてあげて、両腕を伸ばすと
指さしていた。
その縁マンと呼ばれる、小高い丘を。

「なんだ、千佳もわかってんじゃん」

「もう、友哉ったら大きな声を出さないでよ。言われなくたって知ってるから。だっ
て、あれでしょ。満月の夜にあの丘の頂上で、あのですね……エッチしたら、そのカ
ップルは永遠に結ばれるっていう、都市伝説だよね。あ~ん。まだ耳ん中がジンジン
してるぅ」

アタシは、友哉の地声を放り出そうと頭を揺さぶりながら、ついでに流れる視線で周
囲を見回してみる。
聞き耳を立てているオバサンが、電柱の影にもいないことをチェックすると、口から
洩れた恥ずかしい伝説に顔を赤らめてみせる。

縁マン……
街の人は、みんなそう呼んでいるけど、正式な名称を千佳は知らない。友哉だってそ
うだと思う。
でもね、小学校の頃だったかな、おじいちゃんが言ってたけ。あれは大昔の人が作っ
た古墳だって。そう、偉い人のお墓ってことだよね。たぶん。

「千佳、俺たちも縁マンでエッチしてさ、その永遠のカップルになってみたいと思わ
ないか? 見晴らしのいい丘の上でセックス、気持ちいいと思うぜ」

友哉は、なぜか歩道の上で仁王立ちポーズをすると、その縁マンを見上げた。
アタシはそんな友哉の隣で、はぁ~っと溜息を吐いてから、そのキラキラ輝く目線を
追いかけていた。

高さが5階建てのマンションくらいだけど、まるでお饅頭を半分に割ったような緑の
丘は、街の真ん中にあるせいかな。どこにいても目に入るシンボルみたいな存在。
当然、口を半開きにして見上げている友哉にも、嫌な予感がしてチラチラっとだけ覗
き上げている千佳の両目にも、ばっちりとユーモラスな姿を晒している。

「なぁ千佳、青姦って興味ないか?」

「あおかん? 何よ、それ?」

突然友哉が囁くように話しかけてきて、意味のわからないアタシは、両目に?マーク
を浮かべた。
でも、とっても嫌な予感だけは倍増している。

「屋外でエッチすることさ。公園とか山の中とか、そこの縁マンとかで」

「もしもし友哉君。ちょっと質問があるんだけど。アタシ達ってその、セ、セックス
経験どのくらいだっけ? たぶんだけど、アタシの記憶が正しければ、クリスマスイ
ヴイヴイヴの1回だけだったような……?」

「そうだよ。1回だけさ」

「そうよねぇ。セックスって1回しか経験ないよねぇ。セックス戦士レベル1ってと
こよねぇ。だったらさぁ……どうしてそんな大胆な発想が出来るのよ! 青姦?! 
冗談じゃないわよ! アタシ、誰かに見られながらエッチして快感なんていう露出狂
じゃないからね!」

アタシは始めゆっくり、途中からアクセル全開で言い返していた。
野原の真ん中で、裸のまま抱き合うカップルを想像して。
茂みの影からいやらしい目で覗いている変態さんを想像して。
覗かれているバカップルが、アタシと友哉だって勝手に妄想して。

ちょっと目眩がしてきた。
信じられない未来予想図なのに、そこに向かってエッチな情熱を賭けようとする友哉
を、引き留める言葉が見付からなくて。

「そうだ! 急用を思い出しちゃった。先に帰るね」

アタシは白々しく宣言すると、友哉を置いて歩き出していた。

「千佳ぁ! 今夜10時、縁マン公園入り口で落ち合おうぜぇ! 寒いから厚着して
来いよぉ!」

聞こえない。全然聞こえない。千佳には全然聞こえていませんから。