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                          Syun:作

おことわり

 この作品は全て空想で書かれています。実在の人名、団体とは一切関係がありません。

 また、この作品の著作権は「Syun」が所有してます。作品の無断転用もかたくお断

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(1)ホスト仲間にダチがいて 

 俺は、いつも店ではベスト20位から11位のあたりだ。

マネージャーには、「おまえなら、ベスト・テンには楽に入れるのに」と言われている。

しかし、俺は、自分のやり方を変えるつもりはなかった。

俺の勤めているホスト・クラブは、常時30人のホストがいる。

売り上げランクで15位以内なら、首になることはない。

俺の店は、規模としては中堅どころで、常連客7割、飛び込み客3割といったところだ。

週1の割合で、旅行エージェントが20人ばかりの女性団体客を連れて来てくれる。

俺の店は手堅い商売をやっているといえるだろう。 

夕方のミーティングが終わって、俺は、コウジに呼び止められた。

「シンイチ、ちょっと」

「なんだ」

「おまえに頼みがあってさ」

「ああ、いいぜ」

「俺のところに、いつも来る女がいてな、弘子という」

「ああ、あの女か、いつも黒っぽい服着て、ほとんど口をきかない…」

「そうなんだ。あいつ、おまえに回すから、頼まれてくれよ」

「ああ、いいよ。それじゃ、あの女が来たら、俺を呼べよ」

「わかった、頼むわ。俺は、ああいう女、苦手なのよ。昔、ああいう女に関わっことがあってな。

その女、結局何があったのか、手首を切ってしまって」

 

 コウジと俺とは、二年前に一緒に、この店に入った。

二年前に入った同期の桜というやつは、もう、コウジと俺のふたりだけになってしまった。

入って一年が経った頃、コウジが三日も店を休んだことがあった。

それで、俺は、コウジにケイタイをかけてやった。

「コウジ、どうしてんだ?」

「ああ、シンイチか」

「元気ねぇーな」

「ばか、俺だって、考えることがあるんだよ」

「まぁ、店、やめんなよな。おまえが辞めたら、俺も、この店やめて他の店に変わるかもな」

「……」

俺は、冗談まじりに、ケイタイの向こうのコウジに言った。

「俺は、おまえみたいな元気のいい奴がいねぇと、何か、元気が出ねぇんだよ」

コウジは、あの頃から店のナンバー・ワン・ホストだった。

一方、俺は、目立たぬが中堅どころのホストとはなっていた。

だが、それから、俺とコウジは、仲良くなった。

もっとも、コウジは、実際、俺より二歳も年下なのだが、どっちかというと、店では、俺がコウ

ジのペースに合わせてやった。

むろん、店以外で、飯を食いに行ったり、コーヒーを飲みに行ったりとするときは、ダチであっ

た。

実際、コウジが前の日に飲みすぎて調子のわるいとき、客のついていない俺は、コウジのボック

スに行って、コウジの代わりに、酒を飲んでやった。

そして、コウジは、自分のところに女性客が重なったとき、本命の客は自分のところに置き、二

番手、三番手の客を俺のところに回してくれた。

俺は野球でいえば、コウジの中継ぎの役目だった。

そして、コウジのからだが空いたときは、俺もその女性客と一緒に、コウジのボックスに移り、

俺はコウジと一緒になって、待ちぼうけを食わされていた、その客の心をなぐさめ、盛り上げた。

 

 コウジはそれからも、俺に、『弘子をおまえに預けるから、よろしく頼むわ』と、何度も言っ

た。

「あいつ、けっこう、金、持ってるから」とも、コウジは言った。

ヒロコ(弘子)という女は、コウジの話だと、フウゾクに勤めているらしい。

本人が直接言ったわけではないが、コウジ自身のカンだという。

ヒロコの醸し出す雰囲気によって、コウジの独特な動物的カンが働き、そういうことがわかるの

かもしれない。

  

 ヒロコが店に来た。

ヒロコはむろん、コウジを指名した。

そして、コウジに呼ばれて、コウジのボックスに俺は行った。

そして、その日、コウジにはすぐにまた別の指名客が現れ、コウジは席を立った。

俺は、ヒロコとふたりになり、俺は、ヒロコに、俺のボックスに移らないかと誘った。

ヒロコは、水割りが好きだった。

それになぜか、ウイスキーは、古典的なホワイト・ホースにこだわっているらしい。

ヒロコは黙ってよく飲む。

そして、飲んでも、ケロッとしている。

特に饒舌になるということでもないのだ。

俺も、ヒロコのペースに合わせて、杯を重ねた。

せめて、俺は、ヒロコと一緒に飲んでやろうと思ったのだ。

 

 俺とヒロコは、ほとんどしゃべらなかった。

ふたりで黙って、水割りを飲んでいるのだ。

そういうことが重なった。

と、ある日、ヒロコが俺に、俺のボックスに居るときに言った。

「あなた、なぜ、この仕事を?」

「うーん、他に、成るものがなかったからかな?」

「でも…」

「最初、僕は、会員制のクラブでボーイしていましたよ。そのクラブにはステージがありまして

ね。一日、四回、クラブ歌手のショー・タイムがあって。僕は、そのクラブ歌手というのに、あ

こがれていて。それで、昼間、一時、音楽教室に通っていましたよ。その教室では、音程とか、

リズムはいいと言われましたよ。でも、そこの先生に言われましたね『君に声量があると、いい

のに』と。その先生の話だと、野球でいえば、ピッチャーは地肩が強いこと、バッターで言えば、

飛距離があること、それがプロとしての最低条件らしいですよ。歌手で言えば、声量があること、

それが最低条件らしいです。まぁっ、確かに、同じ歌、歌っていけば、音程はしっかりしてくる

し、リズムにも乗ってくる。声量がある、なしは、やはり、生まれついての、肺活量の大きさと

喉の強さですからね」

ヒロコは、俺に言った。

「でも、一度、あなたの歌、聞いてみたいな」俺は、ヒロコの目を見ていた。

いつもの暗い、つぶらな瞳が、やや光を帯びたように思えた。

「迫力ないですよ。声量はないし、声が高いですから、その分、声が細いんですよ」

「でも、簡単に、あきらめるなんて」

「歌は、好きですよ。でも、歌のみでめし、食えるほどの才能、ないですから」

 

 でも、俺は、いつのまにか、ヒロコと、昼間に会い、カラオケルームに行くという約束をして

いた。

俺も、年を取った。

来年は、30歳の大台に乗ることになる。

おかしなことだが、俺のモットーは店以外でも会うが、それはコーヒーを飲んだり、映画を見に

行く程度だった。

ラブホテルには行かない主義だった。

俺は、常連客と肉体関係ができると、その客とはうまくやれても、それ以外の客とは、うまくや

れそうにない気がしていたのだ。

客とは、すべて、適当な距離を置いて付き合う、というのが俺のやり方だった。

むろん、それでは、コウジのように、店のナンバーワンにはなれないだろう。

しかし、俺には、コウジのように、さほどの大きな夢はなかった。

コウジは二つ、三つのホストクラブを経営するオーナーになりたいと言っていた。

俺の夢は、せいぜいホストを長く続け、小銭を貯め、やがてホストを辞めたら、喫茶店を経営し

て、そこのマスターをやることだった。

そして、好きな絵を描き、好きな詩を書ければ、それで十分、幸せな老後が送れると思っていた。

 

 しかし、この頃はマネージャーと顔を合わせると、俺はマネージャーに言われるのだった。

「シンイチ、言葉だけで客を繰るのは、もう、そろそろやめろや。おまえも、いい年になってき

た。言葉だけでは、もう、今までのような成績は上げられないぜ。固定客をつかみな。それには

なぁ、やはり、店以外でもその客と付き合い、セックスの奉仕もすることだ」

「しかし、俺は…」

「まぁ、生きるためと、割り切るんだな。4,5人ぐらいの客を、肉体でつなぎとめるぐらいの

迫力がなくっちゃな」

確かに、マネージャーの言うことも一理ある。

実際、仲間のうわさでは、この白髪の、五十歳を過ぎたマネージャーには、20歳の愛人がいる

らしく、まんざら大風呂敷を広げた話をしているわけでもなかろう。

しかし、俺は、マネージャーには言わなかったが、セックスをするとき、男の品性が出るような

気がした。

 

 あるホストに、なじみの客がいた。

そして、ホストはその客と肉体関係を持った。

しかし、その日から、その客は店に来なくなった。

そのホストには彼女がなぜ急に店に来なくなったのか、その理由がわからないでいた。

しかし、たぶん、彼女はセックスをしながら、そのホストの人格を見抜いたのだろう。

そして、女は、そのホストを見切ったような気がした。

ある意味、それほど、男と女にとって、セックスとは大切なものであり、そこに精神的なものが

通わなくては、セックスをしたからといって、二人の仲が深まるとは言い切れないのではないか

と、俺は思ったのだ。

だから、俺には、肉体を駆使し、それでもって女を常連客にするという自信はなかった。

だが、もう、2,3年はホストをやりたかった。

そうすれば、目標の貯蓄金額に達する。

そのためには、ホストとして首にならぬよう、毎月、一定の売上げ金額を持続することだった。

 

 飛び込みの若い女の子たちは、もう、年寄りのホストは相手にしない。

せいぜい22,3歳ぐらいまでの、若い男の方が人気があるのだ。

俺は、ヒロコと昼間、喫茶店で待ち合わせて会い、コーヒーを飲み、それから、カラオケルーム

に行った。

ヒロコは、30は超えているだろう。

でも、オバサンという雰囲気はない。

しかし、最近の歌は、あまり好きではなさそうだった。

CHEMISTRY、ポルノグラフィティやEXILEの歌は、好きでなさそうだった。

ヒロコから、演歌をと注文された。

氷川きよしの歌を歌った。

しかし、これもヒロコには受けなかった。

それで、俺は、チョー・ヨンピルの「釜山港へ帰れ」を歌ってみた。

ようやく、多少、気に入ってくれたみたいだった。

 

 ヒロコとは、カラオケルームを出て、それから別れた。

ヒロコとラブホに行くつもりはなかった。

もっとも、ヒロコをセックスで満足させてやれる自信が俺にはなかったのかもしれない。

ヒロコにしても、他の客にしても、客とホスト、その関係でしか、俺には付き合えないような気

がした。

それから、何日かして、店の中で、コウジに言われた。

「おまえ、ヒロコと昼間会ったらしいな。でも、なぜヤラらなかったんだ?」

「なんで?」

「ヒロコから、ケイタイにメールがあってな。カラオケに行った、と」

俺は、なんか、コウジのやつに焼けてきた。

ヒロコと、ホテルに行かなくてよかったと思った。

ヒロコとの仲が、コウジに筒抜けになるのは、やはり、俺には、抵抗があった。

もし、ヒロコとやったら、ヒロコはまたメールで、コウジに、俺のセックスとのことを、事細か

に言いつけるかもしれない。

コウジとヒロコは、あるいはデキているのかもしれない。

仮に、俺がヒロコと寝たとしても、ヒロコはやがてまた、コウジと寝るのかもしれない。

その時、俺は、コウジとヒロコの、恰好の寝物語のタネになるだろう。

コウジは、セックスの実践がある。

しかし、俺には実践が乏しい。

せいぜいセックスのハウツーものの本を読んでいるだけなのだ。

理論と実践とはちがうのだ。

ヒロコとは、やはり、客とホストの関係を保っていった方がいいような気がした。

それに、セックスの実践が少ない俺は、コウジに、何となく気後れを感じるのだった。

(2)セフレ探し 

 セフレを見つけようとして俺は、貯金を下ろし、店が休みの火曜日には、ひとりでクラブを飲

み歩くようになっていた。

俺は、売り上げが落ちていた。

俺のやり方に不安を覚えはじめていた。

やはり、客と肉体関係を持ち、その中で、常連客となりそうな女に、店に来てもらい、お金を落

としてもらわなくては、今の売上げ成績を維持できないような気がしていた。

そのためには、クラブかなにかのホステスの中で、いい女を見つけ、セフレをつくり、その女を

常設の船着場にし、店に来る女の中で、金を持っていそうな女とセフレになろうと思った。

そして、セフレの中から、俺の常連客を掴もうと思いはじめたのだ。

 

 俺は、火曜日、いつも午後11時頃、クラブが店じまいをする頃に、出かけた。

ちょっと飲んで、気に入った子がいると、店が引けてから、その子を食事に誘うこともできるか

らだ。

 

 あるクラブに入った。かなり年配の女が、俺のボックスにやってきた。

見ると、顔はまあまあだった。

和服である。

しかし、なにしろ、太っている。

俺は、こんなんで、よくクラブのホステスをやっていられるなぁと思った。

が、そばについてくれるのだ、無碍に邪険にもできなかった。

水割りを飲み、それから、俺は、その女と、ブルースを踊った。

女は、俺の胸あたりまでしか、背がなかった。

胸の名札を見ると、「志穂」とあった。

「お兄さん、踊り、うまいね」

俺は、女と、からだをくっつけ合って踊りながら、今夜はついていない、と思っていた。

美人でもなく、太って、背も低く、スタイルもよくない。

これじゃ、セフレにする気も起こらない。

「お兄さん、何、してんの」

俺は、この女をセフレにすることには、あきらめていた。

だから、正直に言った。

「ホストやってんのよ。今日は店、休みだから、息抜きに、ネ」

「やっぱ、そうか。お兄さんが店に入ったときから、わたし、そう思ってたよ」

「へぇーっ、そんなのが、よくわかるね」

「雰囲気よね。それに、お兄さん、男前やし」

「そうかね。まぁ、そう言っていただくと、わるい気はしないよ」

「オダギリジョーに似てるね」

「ああ、あの、月曜のテレビで『ビギナー』というドラマに弁護士の卵の役で出ている役者ね。

でも、もうあのドラマも最終回が近い」

 

 俺も、客商売ゆえ、色々な知識は仕入れていなくてはならない。

「今度ね、NHKの大河ドラマの『新撰組』にも、準レギュラーで出るんよ」

「あんた、オダギリジョーのファンなの?」

「そうなのよ。一月が楽しみだよ」

俺は、新聞を見て、大河ドラマ「新撰組」で、沖田総司の役は、藤原達也がやることを知ってい

た。

しかし、女に、わざと聞いてみた。

「で、オダギリジョー、沖田総司の役でもやるの?」

「ううん、斉藤一の役だよ」

踊りが終わり、ボックスに帰ってから、俺は、女の顔を見た。

名前が思い出せない。

さっき、踊りながら、名札を見たのに。

やはり、ホストとして自分の店に居るときとは、緊張感が違うらしい。

俺は苦笑した。それでも俺は、ダメもとだと思って、すぐに名を忘れてしまった、隣に座ってい

る女に言ってみた。

「なぁ、店、終わってから、鮨でも、食べに行かない?」

「いいよ」 女は、うれしそうな顔をした。

いい顔をしていた。

 

 俺は、ふと、この女にも、彼氏がいるかもしれないと、思った。

しかし、今はセフレを見つける試用期間なのだ。

彼氏がいようといまいと、関係ないことだった。

セフレの鉄則は、互いのマンションの場所を教え合わないことだ。

セックスをする場所は、ラブホ。

お金はかかっても、お互いのプライバシーがそれで保たれる。

その女と、すし屋に行ってみると、その女は、ビールを浴びるように飲みながら、くだけてきた。

「あんた、なんで、あたしなんか、誘うのよ。店に来る女性のお客さんと、いくらでも店の外で、

会うことができるのに」

「う〜ん、そうは言ってもなぁ、店以外でデイトするといっても、やはり相手はお客さん、とい

う意識があって、なんか遠慮があるのよね」

「そうなの?。じゃ、あんた、顔は良くても、売り上げはいまいち、ね」

「そんなこと、よく、わかるね、君に」

「なんか、でも、あんた、やさしそう。ホストとしてはだめでも、結婚したら、いい旦那になり

そうよ」

「なに、それ?。誉めてもらっているのか、けなされているのか?」

「わたし、あんたとだったら、同棲して、養ってあげてもいいよ」

 

 俺は、驚いていた。ひょっとしたら、こいつ、あのクラブでは、そこそこ、成績を収めている

かもしれないと思った。

何しろ、口が上手だからだ。

「うーん、まぁ、こう見えてさ、俺って、プライド高いからさ、女に養ってもらう、そういうの、

できないのよね」

「だ、ろうね。そんな感じよ。でも、ホストクラブに通って来るお客なんて、みんな、セックス

を求めにやってくるんだから、あんたも、適当に、やっちゃえばいいのよ」

「そうは、簡単にいかないよ。酒を飲んで、若い男にチヤホヤされて、それで十分という客もい

るし、のめりこんだら、マンションまでやってきそうなオバサンもいるし。その見極めがむずか

しいのよ」

「なるほど、わかった。けっこう、あんたって、長く、ホスト、やれるかもしれないよ」

「どうして?」

「ガツガツしないところがあるからよ」

女は、真剣な顔つきで、そう言った。

俺は、ちょっと安心して、それから、女に聞いてみた。

「なぁ、わるいけど、俺の頼み、聞いてくれる?」

「なに?」

「ただでとは、言わないから」

「で、なによ」

「つまりさ、きれいなままで、お客の心、つかむの、限界を感じていてさ。でも、俺、もう少し

ホスト続けて、金を貯めたいし」

「いまさら、やり方を変えて、うまく行くのかしらね?」

「もう俺も若くないし、もう一皮剥けないと、これから、やっていけない気がしてさ」

「で、あんた、ほんとにお客とはセックスなしで、やってきたの?」

「そうだよ」

「スゴイね、そりゃ。やっぱ、マスクがいいし、上手に相手の話しを聞いてあげられるんだね」

「そのうえに、セックスの相手ができれば、俺も、まだ何とか、ホストが続けられそうなんだ」

「あんた、年は?」

「29」

「そうか。ちょうど、瀬戸際だね」

「だろ。だから、少し、間口を広げていかないと」

「……」

「それで、君、今、彼氏、いるの?」

「いないよ」

「じゃ、今晩、付き合ってよ。セックス、教えて欲しいんだ」

「授業料、高いよ」

「まぁ、そりゃ、仕方ないでしょ」

「じゃ、ちょっと、ケイタイするわ」

「えっ?!」

「子どもに、遅くなるって、電話しなくっちゃ」

「はぁー?」

「あたしは、32歳。あんたより、年上よ。小6と小4のふたりの子がいて。旦那は、若い女と

逃げた」

(なんじゃ、これは)

 

 俺は、完全に、引けた。

しかし、もう、女は、鮨屋の隅の方に行って、ケイタイをしているのだ。

上の子に、ちゃんと後始末して寝なさいよとでも、言い含めているのだろう。

もう、後には引けない状況になりつつあった。

これから、俺が気に入らない女とも、寝なくてはならなくなるだろう。

とすれば、この女とでも寝て、そういう弱い心にムチ打って、俺自身を奮い立たせ、挿入が可能

な状態に持っていかなくてはならない。

(3)ラブホやピンクサロンで

 和服の、背の低い、太った女と、俺はラブホに入った。

女は、スルスルと和服を脱いだ。

32歳ともなれば、和服の着付けぐらい、自分でできるのだろう。

何とも、着物を脱ぐ仕草が手際がよいのだ。

そして、おんなは、デカい尻を振りながら、バスルームに向かっていった。

俺は、ベッドに仰向けになりながら、何で、こんな女と、俺はやらなくてはならないのだと、た

め息をついていた。

女は、長い時間、バスルームから出てこない。

俺は、ベッドでタバコを吸っていた。

(俺は、何をやっているんだろう)

そう思いながらも、生きるためには、仕方がない。

仕方がないことを、仕様がないとあきらめ、いやいやながら、手抜きしながらやっても成長がな

いと、俺は思い直していた。

 女が出てきたので、俺は、バスルームに入った。

 

 俺は、シャワーを浴びながら、俺が21歳で、夜の水商売の世界に飛び込んだ時のことを思い

起こしていた。

そのとき、俺は、清水の舞台から飛び降りるようなつもりで、この夜の世界に飛び込んだのだ。

もう一度、清水の舞台から飛び降りようと思った。

最初の飛び込みの時は、目をつむっていた。

しかし、今度は、目を開けて飛び込もうと思った。

落下し、地面に衝突する寸前まで、俺は、しっかりと目を開けていようと思った。

俺が、バスルームを出たとき、俺は、下品な男に成り下がっていた。

俺は、女が、シーツに包まっているので、シーツを剥いだ。

女は、素っ裸だった。俺は、バスローブを脱ぎ、素っ裸で、女に覆いかぶさって行った。

キスをした。

そして、おっぱいを揉んだ。

「あんた、乱暴にしないでよ」

俺は、ニャッと笑った。

「俺は、ただで、やらせてくれとは言ってなかったろ?」

「でもね、あんたさ、いっそやるんなら、お互いに、無理矢理じゃなくて、楽しくやった方がい

いよ」

 

 まぁっ、そうかな、と俺は思った。

この女、なかなか、しっかりしているじゃないか、と俺は内心、女の据わった肝っ玉に舌を巻い

ていた。

惚れた女なら、乱暴にはしないはずだ。

惚れた女のように、丁寧にあつかわねばならないと、俺は思った。

そして、俺は、セックスに集中しようと思った。

女のおっぱいは、さほど大きくはなかった。

しかし、ともかく、胸の厚みがあった。

太っていて、背中にかなり分厚い贅肉がついているように思えた。

手を胸の下に這わせる。

おなかは二段バラになっている。

俺は、苦笑しつつ、手を、下腹部から、わき腹を撫で、背中に移した。

やはり分厚い肉がついている。

少し、女のからだを横向きにしながら、背骨のあたりを撫でてやった。

女の反応はない。

少し、指先に力を込め、指が肉に食い込むように、背骨のあたりを強く押しながら、撫で下ろし

てみた。

「フン」 女の声がした。

 

 背中全体を、手の平で、力を込めて、撫でさすってやる。

「うっ、ううぅぅー」女は気持ち良さそうであった。 

背中に肉のある女は、やはり、指圧でもするように、少し、指先に力を込めなくてはならないよ

うだ。 

わき腹にも、肉がついている。

そのわき腹の、下の方の、ぶよぶよとした肉を、揉みながら、そして、撫でてみる。

女が少し、腰をゆする。 

俺は、乳首を吸いながら、しきりに、女の左の内股を撫でている。

太ももにも肉がついている。 

右の手の平から指先まで、全部を使わなければ、それを揉むことができない。 

でも、揉んでいるうちには、女が内股に汗を掻いてきたのか、ヌルヌルとし、手のひらの感触は、

わるくはなかった。

「ハンハン、あんた、上手よ」 女が、お世辞を言ってくれる。 

こんなときは、お世辞でも、うれしがらなくてはと思い、内股を、揉むのではなく、丁寧に、な

でさすってみた。

 

 そして、内股から、右手を下からくぐらせ、外股を撫でてみる。

さらに手を上の方にあげると、でっかい尻に当った。 

尻の肉を、手を大きく広げて、揉んでみた。

「ウ、ウウウゥゥ」 女が、重そうな尻を上げる。

で、尻の穴をとらえ、くすぐるように、指を這わせてみる。

「フン、そこ、いいよ」 

で、俺は、調子にのって、中指を少し、女のお尻の穴に突っ込んでやった。

「ハァ、ヒィーっ、そこ、いい、いい」 

しかし、俺は、肛門の穴には、さほど興味が持てなかった。

それで、俺は、親指を立てるようにして、膣口の濡れ具合を確かめてみる。 

潤っている。

太った女は、厚みがあって、中指は尻の穴からはずし、親指をさらに、膣の中に深く、突っ込ん

でみる。

そこは、十分濡れていた。 

手は、完全に後ろから、正面に移す。 

今度は、中指の腹の辺りで、クリトリスを刺激してみる。

「ハンハン、いいよ、いいよ」 

俺は、女に、媚びるために、わかりきったことを聞いてみた。

「いいかい、いいかい、そんなにいいかい?」

「いいよ、いいよ。あたし、久しぶりなんよ」

「君さ、今、旦那もいないわけだし、店のお客さんとやればよかったのに」

「馬鹿!、あたし、そんなにモテないよ」

「そうかな?、顔、かわいいのに」

「そうぉおお?。でも、『鮨、食いに行かないか?』って、誘われたとき、あたし、うれしかっ

たよ」

 

 そうなのか。俺は、改めて、女は誘われて喜ぶものだ、と思った。 

男は、女を誘って、女にそれを断わられると、いやな気分になるから、めったなことでは、誘え

ない。

しかし、俺は、ホストというプロなのだ。 

断わられて、いやな気分になったとしても、それを乗り越えられるような、たくましさがなくて

はだめなのだ。

「そうなの。うれしいこと、言ってくれるね。じゃ、今度、また、店に行くからさ、そのときは、

また、誘うよね」

「うれしいよ」 

俺は、女のその言葉が、本当かどうか確かめるために、中指をさらに、からだの奥深く、突っ込

んでみた。

奥も濡れていた。

まんざら、嘘でもないらしい。 

俺は、そういう女の気持ちに応えるために、乳房からくちびるをはずし、女の口を、吸ってやっ

た。 

女は、俺の首に、腕を回し、そして、俺の唇を、舌を吸ってくる。 

それで、俺は、キスをしながら、下に置いた右の親指や小指で、女の膣の周りをなでつつ、中指

で、膣の中をかき回した。

 

 女のその下の口の締め付けは、さほど、強くはない。 

しかし、とてもよく濡れていた。 

俺には酒も入っているし、女の締め付けもさほどきつくないとすれば、俺のモノを入れ、それか

ら抜き差しをしても、時間的には、かなり持ちそうな 気がしてきた。

俺は、余裕をもって、指を出し入れしつつ、クリトリスをさすっていた。

「ハンハン、もう、イッイーっ」 

女が、腰を左右に揺らし、そして、時に、上下動をさせている。

「ウーン、早く、あんたのもの、入れて!」

「ああ、でも、ちょっと、待ってよ。コンドーム、着けるから」

「純ナマがいいな。出るまで、純ナマで、突っ込んでぇー」 

俺は、そんなことができるかな、と一瞬、思った。 

しかし、プロをめざすなら、すべて、危険覚悟のチャレンジだと思った。 

しかし、あまり自信もなかったので、出そうになったら、すぐに装填できるよう、コンドームだ

けは、テーブルの引き出しから出して、手許においた。 

女が太っていて、からだの厚みがあって、俺の上体を、おんなの上半身にかぶさせたまま挿入す

るのは、無理のように思えた。 

ホントかどうかは知らないが、身長は179cmあるコウジは、勃起時には15.5センチある

と言っていたが、俺のモノはそんなになかった。 

しかし、男の機能は、長さや太さだけではない。

硬さや持続力や、一度射精したとしてもその後の回復力の速さというのも、男の能力を測る上で

の、 ものさしになるだろう、と俺は思った。

それで、俺は、上半身を起こし、女の足を広げさせ、女の足を割って、間に入ると、足を曲げさ

せ、足首をにぎった。

そして、女の股を開き、俺は自分の上半身をさらに起こしていく。そして、もう一度、指で膣を

愛撫し、濡れを確かめた。十分、濡れていた。

そして、女の草むらの茂りが多いのに、情欲を覚え、俺自身が勃(お)っ立っていくのを見た。

 

 俺は、天を向いて聳えている自分のモノを、指で下に押し曲げ、女の膣の入り口あたりに当て

て、腰を前に押し進めた。

ヌルッと入った。

そして、俺は腰を前後に動かしながら、抜き差しをする。

「アッフゥー、アッ、フーン、イッイーッ!」 

女は、急に上体を反らした。

そして、上体を左右に揺らしはじめる。

「あっあああっ、イッイー、イクイク、イッちゃうぅぅぅぅ」女は、オルガスムスを迎えた。

女は分厚い胸を波打たせながら、ハァハァと荒い息をしていた。

少し、女を休ませてやろうと思った。

抱えていた女の足を下ろしてやる。 

俺は、上体を起こし、中腰のまま、俺のモノを女の奥に差し込んでいたが、女の奥がヒクヒクと

痙攣していて、俺のモノを心地よく刺激するせいか、 俺のモノはおんなの中に納まったまま、

固い状態を維持していた。

俺は、頃合を見計らい、再び女の足を上げ、まるでカエルを仰向けにして、ひしゃげさせたよ

うに、膝のところで足を折り曲げ、 股を大きく広げさせた上で、俺のモノを、ゆっくりと、抜

き差し、しはじめた。

 

 と、俺のモノが、女の奥の襞肉で、締め付けられはじめた。

俺も、ソノ気になり、大きく、抜き差しをはじめた。 

抜き差ししながら、女のクリトリスを親指で、刺激しながら。

ハウツーものの本に書いてあるとおり、三浅一深で抜き差しを繰り返す。

しかし、男にしてみれば、やはり、深く差し込んだ方が気持ちがいい。 

そして、抜き差しのスピードを速めた方が気持ちがいい。 

俺は、いったん、全部抜いた。

そして、避妊のためにコンドームを装填しようと思った。

「アッ、ダメダメ、純ナマでやってよ」

「でも…」

「だって、あの熱いものが吹き出るの、あそこで感じたいんだから」

「でも…」「ったく、終わったら、すぐ、トイレに入ってビデ使うから、大丈夫よ」 

それじゃ、まぁー、終わったら、すぐトイレに駆け込んでもらおうかと、俺は、また、ズブリと

俺のモノを女のビラビラの奥に差し込んだ。 

残忍にならなければ、俺は、俺自身が爆発しそうになかった。

で、俺は、女の太ももに手をかけ、それを手前に引き上げながら、上体を起こし気味にして、 

強く、抜き差しをした。

「ウグーッ、キクキク、ファッ、イッイーッ」

 俺は、抜き差しのピッチを上げた。

そして、尻に汗を感じたとき、ドバァーッと女の奥深くに、俺のモノを吐き出した。 

そして、俺は、女のからだに、上体をあずけていった。 

なぜか、虚しい気がした。

なぜだろうと、俺は、考えていた。

「ねぇ、君、ビデ、使ってきたら」女は、笑いながら、言った。

「わたし、あんたの子だったら、欲しいよ」

「馬鹿なこと、言わないでさ」

「大丈夫よ、ったく、あんたも心配症なんだ、かぁっらァー。そろそろ、生理がはじまる頃だか

ら、だいじょうぶだよ」 

俺は、生理後の排卵の時期じゃないし、たぶん、大丈夫だろうと思って、少し、安心した。

それで、横向きになりながら、女の肩を抱いてやった。

「ねぇ、あんた、独身?」

「ああ、ひとりもんだよ」

「どうして?」

「面倒くさいから」

「あたしんところに、来ない?」

「……」

「あたし、あんたのこと、気に入ったから」

「でも、子供、ふたり、いるんだろ」

「あんた、当分、ホスト、続けてもいいよ。そして、広い部屋を借りようよ」

「……」

 

 俺は、まだ、一人での自由が欲しかった。

「まぁ、急に言われても。考えておくよ」 

女は気落ちしたようだった。 

女は、立ち上がり、着物を着始めた。

そして、俺は、財布を取り始めていた。 

女が、着付けを終わったみたいだ。

そして、こっちを振り向いた。

「どう?」

「あっああ?」

「あたし、きれい?」

「ああ、きれいだよ」 

俺は、なんか、気のない返事をしているなと思った。

でも、女が寄ってきたので、軽く、額にキスをしてやった。

女もしつこくなかった。 

やはり、うちにいる子供、ふたりのことが気になるのだろう。 

俺は言った。

「じゃ、これ、少ないけど、取っておいて」 

俺は、それでも、ティッシュに包んだ、一万円札3枚を、女に渡した。

「ありがとう。じゃ、また、店に飲みに来てね」 

女は、いそいそと、ドアの方に向かう。

しかし、その女の後ろ姿に俺は寂しさを感じていた。

それは、たぶん、俺自身の寂しさなのだと思った。 

俺は、金も続かなくなって、クラブ通いをやめていた。

しかし、セフレ探しはあきらめられなくて、店が休みの火曜日には、比較的料金の安い ピンク

サロンに通いはじめていた。 

エステサロンは、そのままズバリ、「抜き」に入る感じだが、ピンクサロンはまだ若い女の子た

ちと酒を飲みながら会話ができる。

話がはずめば、 その女の子に「抜いてくれるか?」と言えるのだ。 

俺は、あるピンクサロンで、幸い、俺の好みの顔をした若い女の子に当たった。

名は源氏名だが、マリと言った。

年は19歳だと言った。

 

 俺のカンも、はずれることはある。

しかし、俺は、マリが、特定の彼氏と同棲しているとは感じられなかった。

とても、子供、こどもしているからだった。 

セックスの体験も少ないように、俺には見受けられたのだ。 

なぜかは、よくわからない、しかし、俺は、二度目にそのピンクサロンに行ったとき、マリを指

名していた。

たぶん、セフレになったとして、 マリのセックスが未熟であれば、それはそれで、互いに開発

しあえばいいのだと、思ったのだろう。 

マリが聞いてきた。

「あんた、何しているひと?」

「ホスト・クラブに勤めている」

「ウッソー!?」

「うそ、言ってもはじまらんだろぉ」

「信じ、ラレナッイー」

「なんで?」

「ウーン、なんか、クズれたところ、ないから」

「サンキュウ。まぁ、俺、肉体で勝負してないところ、あるから、カモな」

「そんなんで、あんた、よく勤まるね」

「そうなのよ。今、それでもって、成績が伸びないから、首寸前」

俺が、手刀で、横に首を切るマネをしてやると、マリはうれしそうに笑った。

「でも、いいな。マスクがいいだけで、お金を稼げて」

「稼いではないって。ひとり、飯、食えれば、それでいいっていう感じなんだから」

「あたしなんか、いっつも、あそこ、使いすぎて」

「あれっ、ここは、お口とお手の専門じゃ、なかったっけぇ」

「ばかね。そりゃ、そうだけど、本番の方が実入りがいいもん。でも、使いすぎて、あそこ、ヒ

リヒリして、痛いよ」

「おまえ、オイル、使わないの?」

「使う人もいるけど、あたし、けっこう、濡れるし、面倒くさくって。後で、あれ、落とすの、

大変だしぃー」

「じぁー、さぁ。俺とやったら、濡れてくれる?」

「うん、大丈夫と思うよ」 

俺は、マリに手を取られていた。

そして、ボックスのイスから一緒に立ち上がった。

マリに腕をとられ、二人でフロアを歩いていく。 

マリは、さほどスタイルはよくなかった。

しかし、今さら理想を追っても仕方がない。 

俺にとって、その女が濡れ、俺の欲望の棒を納めてくれる穴を持っていれば、それだけで十分な

のだ。

 

 狭い廊下みたいなところに入り、個室に向かった。

入り口には、ほんの薄い、ベニア板みたいな引き戸がついていた。

「ここよ、ここが、わたし、専用のところ、なんだ」

「ずいぶん、狭いね」

「で、あんた、本番まで、やってくれるよね」

「ああ、モチ」

「うれっしぃー」 

女が、俺の首っ丈にしがみついてきた。

女は背が低かった。

それで、からだを持ち上げようと、女の尻をにぎった。 

キスをしてやると、自分からも、口を開けて、俺のくちびるを吸ってくるので、いとおしかった。 

俺は、ともかく、マリのやつを濡らしてから、入れてやろうと思った。

だから、俺は、立ったまま、ずっと、長いキスをしていた。

「ウッ、ウウウーッ」 女はうめきながら、でも、唇を離した。

「早く、やろうよ、時間、ないし…」

「延長になっても、いいよ。俺、今日、お金、持ってるし」

「そぉお?」

「なんか、気に入らないみたいだね」

「だって、あまり、しつこい人、わたし、きらいだから」

「あっ、そうなの?」

「ごめんなさい。わたし、イッちゃうと、あと、疲れてきて。閉店の時間まで、体力、持たない

から」

「じゃ、自分のマンションに帰ったら、グッタァーか?」

「バッカ、マンションなんかじゃないよ、店が借りてるオンボロアパートよ。それに、グターッ

じゃなくて、バッタン、キューなの」

「ふんふん、化粧も落とさず、にか」

「ばぁーか、店の奥のシャワー室、使って、顔も洗って、スッピンで、店のマイクロバスに乗っ

て、アパート直行よ」 

俺は、もうすでに、おっ立っていた。

それで、ズボンを脱ぎ、下半身、はだかになって、小さな簡易ベッドの上に腰を下ろした。

すると、女は、ミニスカートを穿いたままで、パンティだけを取って、俺の太ももに乗っかかっ

てきた。

俺は、キスをしながら、女の下腹部をまさぐった。

濡れていない。俺はガッカリした。俺は、乱暴にも女をベッドの上に寝転がせた。

「アッ、ダメダメ」

 

 しかし、俺は、女の足を広げ、女の足を抱え込むようにして、女のあそこに口をつけた。

「アッ、きたない、きたない。あたし、いちいち、シャワー、使ってないのに」

「かまわないさ」 

俺は、女にクリニングスをしていた。小陰唇のビラビラを舌で舐める。

シッコ臭い、においがした。

そして、クリトリスのまわりを指でつまみ上げ、クリトリスそのものを、舌を使って、舐め回し

た。 

そして、膣の中に、舌先を刺し入れ、俺自身の口から唾液を出し、その唾液を舌先を通して、女の

膣の中に差し入れた。 

唾液で、女の膣の中はダラダラに濡れている。 

しかし、唾液というやつは、女自身の潤滑液とは違って、すぐに乾くらしい。

それで、俺は、すばやく、俺のモノに、そばにあったコンドームをつけた。 

そして、女の両膝を折るようにして押さえつけながら、女の股を押し広げ、腰を前に押し進めな

がら、俺の硬くなったモノを一気に、女の膣の中に 差し入れた。

「ウン、アッ、グゥーッ」

「痛いか?」

「ウン、ちょっと、だけ」

「がまん、しろ。もう、俺、入れっちまったから」

「ねぇ、ねぇ、動かないで、動かさないで、痛いから。動くんなら、わたしの方から、動くから」

 俺は、俺自身が気持ちよくなりたいから、自分の思うように、動きたかった。

しかし、それでは、女の方が、奥の方の肉がこすれて、痛いのだろう。 

しかし、結局は、この女も、女の持ち物で、勝負して生きていかねばならないのだろうと思った。

 

 俺は、上体を起こした。

女は、腰を上げ、両足を俺の太ももに載せてくる。

女は、腰を浮かせつつ、俺の膝に手をかけた。 

そして、からだを前後に揺すらせはじめた。 

女の眉間にシワが寄っている。

あそこが痛いのだろう。でも、がまんして、男が早く射精に至るのを待っているのだ。 

しかし、俺は、痛そうで、少し苦しそうな女の顔に、残忍な心を芽生えさせていた。 

俺は、女の太ももを引き寄せ、太ももの肉に指を食い込ませ、女の小さなからだを前後にゆすり

ながら、俺自身の快楽を追った。

「痛い、痛い」 女が泣いた、そして、目じりに涙を見せた。

しかし、俺は背をそらしながら、ピッチを速めた。

そして、女の太ももを俺の両腕で、左右から内側に 締め付け、グッと腰を入れ込んだ、と、そ

のとき、俺は、はじけた。 

俺は、射精が終わると、すぐに装填されたものを、引き抜いた。

そして、ティッシュを取り、自分で始末をした。 

女は、まだ、寝ていた。みると、女は涙を、まだ流していた。

「わるかったな。でも、俺、イッたよ」 と俺は、言った。 

すると、女は、上体を起こし、俺にキスを求めてきた。

痛かったけれども、割に早く終わったことが、女にとっては、うれしかったのかもしれない。 

そして、また店に来て指名して欲しいのかもしれない。

そんな女の心情が哀れに思われ、俺は、マリをかき上げるようにして、くちびるを吸ってやった。

「しかし、おまえも、よく、がまんしてるな、こんな仕事して」

「だって、行き場がないもの」

「どうしてさ」

「わたしね、中学出て、理美容の専門学校を出て、何度も美容院を変わって」

「なんでよ」

「わたし、意外にぶきっちょで。毎日毎日、お客さんのシャンプーばかりで。クシやハサミ、使

わせてもらえなかったよ」

「ばか、それが修行、つうもんだろぉ?」

「そりゃ、そうだけど、がまんできなくて。すぐ、店長にキレてしまって」

「美容院のママと、けんか、するのか?」

「いつのまにか、そうなってる、のよね」 

俺は、苦笑していた。

 

 俺は、マリに連れられて、入り口のレジにいた。

勘定を済ませた。

店の外まで、マリが送ってくれた。

「また、来てね」

「ああ」俺は、なんか、気のない返事をし、それでも、マリに手を上げ、それを振って、さよう

ならをした。 

俺は、あのマリという女の子を、ピンクサロンの安アパートから引き取る気はなかった。 

俺の、ホストクラブの稼ぎでは、とても無理だった。 

俺は、夜風に吹かれながら、『セックスをしているときは確かにいい、しかし、それが終わって

みると、何か虚しさが残るな』と、ちょっとしんみりと 思った。 

人はセックスの快楽のみで生きているのではないと思った。

仕事を持ち、お金を稼いで一日三食の飯を食っていかなくてはならない。

 

 ホストであろうと、ホストでなかろうと、ともかく、俺には、生きるための仕事を持っている

のだ。 

俺は、俺のやり方で、お客さんサービスをすればいいのではないか。 

俺には、セックスで女性客をたらしこむのは土台無理だ。

しかし、俺には、客の話をじっくり聴けるという資質はあるような気がする。 

お客の話を引き出す、良いあいづちが打てれば、それでいいのではないか。

俺は、耳学問であろうと、本を読むことであろうと、人や本と接することで 色々と知識を深め、

そして、自分の心をみがいていこう。

それは、やがて、俺が、俺自身の喫茶店を持つにしても、 『人柄のいいマスター』、『おいし

いコーヒーを入れてくれるマスター』となるための、いい修業になるだろう。

それを甘い考えだと言われれば、 それも仕方がないことだ。

しかし、俺には俺のやり方しかできないような気がした。

                                    (おわり)

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