『きょうこ 歪んだ構図』
 
                    Shyrock:作

第8話

 身をよじらせ、肌を赤く染め、汗を滲ませるきょうこ。
膣の収縮もかなり活発になっている。

 さらには意外にも芳雄にしがみつき、呼吸を乱している。
悩ましげな喘ぎ声を発し、今にも昇りつめようとしていた。
「ああああああ~っ!はああっ~~!ああああああ~~っ!」

 芳雄もすでに限界に達していたため、腰の動きがにわかに慌しくなっていた。
そして最後の一撃とともに、ついに果ててしまった。

 ねっとりとした白濁色の液体はきょうこの体内に放出された。
「えっ……?お父様っ……まさか中に……!?」
きょうこは不安そうな表情で芳雄に尋ねた。

 雄はこともなげにさらりと答える。
「心配しなくてもいい。もし赤ちゃんができたら光治の子供と言うことにする。私は黙っててやるから安心しなさい。どちらにしても私の血を引くのだから問題ないだろう?」
「そんな訳には……」
「ふっふっふ」

 芳雄は得手勝手な御託を並べ終えると、ティッシュ箱から数枚取出しきょうこの股間に宛がってやった。
「いいえ、自分でやります」

 きょうこは頑なに拒んだ。
「遠慮しないでいいのに。夜はまだまだ長い。先程のセックスはほんの序の口だ。本番はこれからだから楽しみだな。ふっふっふ……」

 67歳だと言うのに何というパワーだろうか。
娘のような年頃の息子の嫁を散々抱いておいて、もう新たな欲望が芽生えている。
きょうこは深い失意に襲われた。

◇◇◇

 その後、きょうこは夫の光治から求められるがままに肌を重ねたが、わだかまりもあり燃え上がることは一度もなかった。
また、終わった後「良かったかい?」と必ず尋ねてくる光治に些か閉口していた。

 それでも芳雄とのことを勘づかれるまいと、心とは裏腹に「すごく良かったわ」と、心にもない言葉を返すきょうこであった。

 夫の留守中、芳雄は必ずと言っていいほど毎日きょうこを抱いた。
そんな爛れた生活が2ヵ月も続くと、きょうこは心身ともに疲れ果て、とうとう寝込んでしまった。
寝込んで弱っているきょうこであっても、芳雄の魔手は容赦なく伸びて来た。

 きょうこは堪りかねて、ついに俊介と会い一部始終を話した。
これにはさすがの俊介も驚き、ある決断をきょうこに勧めた。
それは光治との離婚であった。

 俊介はコーヒーカップを静かに置いて、真剣な眼差しで語った。
「きょうこ、僕ともう一度やり直そうよ。法律上、すぐに結婚と言う訳には行かないけど。君が今、幸せならば僕は君の前から消えるつもりだった。しかし幸せどころか全く反対じゃないか。君がこれ以上小山田家にいると君自身が壊れてしまう。早く離婚すべきだよ。もし光治さんが離婚を渋れば、その時は仕方がない、お父さんから受けている仕打ちを一部始終話すべきだ。裁判になっても君は必ず勝つ。1日も早く別れるべきだ」

 俊介のその熱い言葉にきょうはついに意を決した。
ついにきょうこは光治に離婚を申し出た。
しかし、詳しい事情を知らない光治は驚くと同時に離婚を拒んだ。
それもそのはず。光治自身には大きな離婚原因がないのだから。

 そこできょうこはやむを得ず義父芳雄の今までの行動を包み隠さず光治に話した。
光治は言葉を失い狼狽するばかりであった。

 光治は芳雄をなじった。
芳雄は「きょうこの同意のもとに」とあくまで合意の上の性行為であることを主張した。

 光治とすれば妻きょうこが合意の上で芳雄と淫らな行為に及んだなどとは当然信じられなかった。
光治はきょうこに父の行いを深く詫び、父とは別居するからもう一度やり直してくれと懇願した。

 しかし、きょうこはそれを退けた。
「たとえお父様と別居したとしても、私の怯えを消すことはできません。トラウマになってしまったみたいです。もうやり直しなんて無理です。やっぱり別れましょう……」

 頑なに拒むきょうこに光治はこれ以上説得しても無理と判断し、悲痛な表情で離婚届に印鑑をついたのだった。
晴れて離婚が成立しきょうこは自由の身となった。

 しかし経緯を知っている実家へは帰る気にはなれず、一人暮らしの道を選ぶこととなった。
その後自然のなりゆきで俊介との交際も復活することとなった。

 それから3ヵ月が過ぎ、雨がしとしと降る夕暮れのことだった。
きょうこの住むマンションをそっと見上げる人影があった。
その人影は黒い傘の陰からチラリと横顔を覗かせた時、わずかに白髪混じりの頭髪が見えた。

 人影はマンションの共用玄関の前に立った。
ガラス扉にはオートロックが施錠されている。
人影は扉横に設置されているインターフォンのボタンを押した。

 「こんにちは、初めまして。私は町内会の役員をしております山口と申します。町内会への加入のことでお話にまいったのですが、少しだけお時間をいただけませんか?」

 「え?町内会の役員さんですか?はい、分かりました。今オートロックを開けますので少しだけお待ちくださいね」
それから5秒後、開錠される音とともに共用玄関の扉が開いた。




 
                  

   この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました