『悪夢の木こり小屋』 Shyrock:作 第2話 雨宿りの小屋 「このままではみんな風邪を引いてしまう。無断はよくないけどこの雨だと仕方がないね、中に入らせてもらおう。住人が戻ったら事情を説明すれば分かってくれるだろう」 「そうね。山男はやさしくて力持ちというし」 「もえもえ、やさしくて力持ちの男の人って好きだな~」 「良いように想像するのは構わないけど、もしかしたら熊みたいな男かも知れないぞ」 「いやん、恐い……」 「もえもえもコワイ……」 恐る恐る小屋に入った俊介たちは、内部を見回した。 小屋の中にはダンボール箱や古びた道具類が無造作に置かれている。 部屋の中央には囲炉裏があり灰の中には立ち消えした炭が残っている。 俊介がポツリとささやいた。 「火があれば早く乾くんだけどなあ」 夏とはいっても、雨に濡れた衣服は乾くのに時間がかかる。 少しでも早く乾かしたい。 「服がぼとぼとになったね。無断で使うのはよくないんだけど、火を点けようか?」 「そうね。黙って借りるのは気が咎めるけど、この雨なら仕方がないよね。後でお詫びをしましょう」 「ぶるぶるぶる……寒気がするぅ……暖まりたいよぉ~」 「仕方がない。火を熾そう」 俊介は残っていた炭に新聞紙をくべた。 幸い炭は湿っていないようだ。 まもなく炭が着火し赤々と燃えはじめた。 雨に濡れた服はかなり水を浸み込ませている。 俊介がすぐに着替えるよう呼びかける。 「みんな、濡れた服を早く着替えた方がいいよ」 「風邪を引くといけないから早く着替えましょう」 「ぶるぶるぶる、急いで着替えよう」 俊介はすぐに着替え始めたが、イヴともえもえは俊介の存在もあってぐずぐずしている。 「ここで着替えるの?……車野先生がいるし……」 「あっ、車野先生がこっちを見た! 車野先生のエッチ~!」 「見てないって! 人聞きが悪いなあ」 「もえもえちゃん、仕方がないよ。場所はここしかないので思い切って着替えようよ」 イヴは上着を脱ぎはじめた。雨が下着まで浸みてしまっている。 (仕方ないなあ。ショーツも穿き替えなくては) 「もえもえちゃん、かなり濡れているよ。下着も替えた方がいいよ」 「は~い、下着も濡れちゃってますね~」 「車野先生、今から穿き替えるので絶対にこっちを見ないでくださいね」 「穿き替えるって……!? そんなこといちいち言わなくていいよ。そっちを見ないから安心して穿き替えて」 イヴは俊介に念を押すと、舌をペロリと出してもえもえに微笑みかけた。 もえもえもいたずらっぽく笑ってる。 着替えを終えたもえもえがイヴの耳元でささやいた。 「あのぅ、早乙女先生……おしっこしたくなっちゃったんですぅ……」 イヴももえもえにトーンを合わせて小声で応答する。 「雨で冷えたのね? お手洗いはどこにあるのかしら……」 イヴは小屋内をぐるりと見回したがそれらしきものがない。 もえもえはかなり前から尿意を催していた。 雨で身体が冷えたせいか、太ももは鳥肌が立っている。 そもそももえもえは人一倍我慢強さのある子だ。 尿意を催しても男性がいる前で「トイレ」の一言を言い出せず、限界ギリギリまで我慢していたのだった。 「あ、そうだわ。小屋に入る直前に気がついたんだけど、小屋の右側に小さな納屋のようなものがあったわ。お手洗いはあそこにあるんじゃないかしら」 「そう言えば倉庫みたいな物があったような気がします。早乙女先生、ちょっと行ってきますね。もう辛抱できないの」 「うん、気をつけてね」 もえもえは小走りで外に飛び出した。 「あれ? 早乙女先生、もえもえちゃんはどこに行ったの?」 「お手洗いです。きっと身体が冷えたんだと思います」 「トイレは外にあるの?」 「はっきりと確認したわけではないけど、たぶん右側の納屋のような物がお手洗いだと思うんです。私の直感ですが」 「そうなんだ。付いて行かなくても大丈夫なの?」 「すぐ近くだし、大丈夫だと思います。それにお手洗いを外で待たれるとゆっくりと用を足せませんしね、あは」 「ははは、確かにそうだね。あっ、服が少し乾いてきたみたい。炭火があると助かるね」 「私も早く乾かさなくちゃ」 ◆◆◆ ギギギギギギ…… もえもえは古びた木の扉をおそるおそる開けてみた。 誰の住処かも分からない場所で、未知の扉を開けるのは不安なものだ。 しかし開けてみれば、イヴの予想どおり、そこはトイレであった。 ただしトイレとは言っても水洗便所ではない。 昔ながらの汲取り式で独特の臭気がある。 だけどこの場において贅沢など言ってられない。 もえもえの膀胱はかなり切羽詰まった状況なのだ。 電気のスイッチはすぐに見つかったが、裸電球で球が切れかけてチカチカと点滅している。 不気味さは半端なかったが、もえもえにとって現在の最重要課題は生理現象を早期に解決することであった。 ところが一つ困ったことがあった。 鍵が壊れていて扉が閉まらないのだ。 「参ったなぁ……でも仕方ないか……今、贅沢言ってられないもの……」 こんな山奥だ。まさか泥棒や痴漢などいるはずはないだろう。 だから小屋の管理人も壊れた鍵を修理していないのだ。 もえもえはそう考えることにした。 見たくはないが、つい便器の下を覗いてしまう。 便壺はかなり深いようだ。 この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました |