『未来 黒い代償』
 
                     Shyrock:作

第1話 父の負債

 「お願いです! もう少し、もう少しだけ待ってください! 残りはがんばって返しますから!」

 「もう少し待てだと? もう少し待てば返せるというのか? 学生の分際でよく言えたものだなあ! 俺たちを舐めるんじゃねえぜ! おい! この娘を吊るし上げろ!」
「いやぁ~~~~~!!」

 未来は不在の父親の代わりに直談判に来たことを後悔した。
まさかこんなことになるとは。

 父親が事業資金として黒川商事から借りた二千万円の返済期日からすでに十日を経過していた。
あてにしていた取引先の手形が不渡りになってしまい、資金が廻らなくなったため、たちまち返済不能に陥ってしまったのだ。

 そのため父親は売掛金回収に奔走していてその日は不在であった。
そこへ黒川商事の社長が突然押しかけてきて、家にいた未来をうまく口車に乗せ連れ去ってしまったのだ。

 未来は応接間に通された。
未来と向かい合って黒川社長が腰を掛けている。
白髪交じりの髪をオールバックにして、ダブルのスーツを着ている。

 年齢は50歳ぐらいのように見受けられた。
一見紳士風だが、どこか脂ぎった印象が拭えない。
未来の両横には若い男性社員が2人陣取っている。

 黒川の最初の口調は気持ち悪いぐらい丁重であった。
「娘さんのあなたに申し上げるのはどうかとは思うのですが、お父さんがいつもご不在で連絡が取れなくて困ってるんですよ。そこで仕方なくあなたをお連れした次第で、どうか許してください」

 「父が借金をしていることは薄々知っていましたが……。それで、いつまでにお返しすればいいのでしょうか」
「返済期日はすでに10日過ぎてるんですよ……我々も借金して事業を行なっている関係で、返済が遅れると困るんですよ」
「そうですか。すみません……」

 未来は深々と頭を下げた。
「謝ってもらってもねえ……」
「……」
「とにかく早く返してもらわないとねえ」
「もう少しだけ待ってもらえませんか。何とか早くお返しするように父に説得しますので」

 「そうですか。返せそうですか?」
「それは話してみないことには……」
「それじゃ困るんですよ。はっきりとお約束していただかないと。まあ、娘さんのあなたに言っても仕方がないのですが。しかし、こっちとしては死活問題でしてね」
「申し訳ありません……」

 わずかな沈黙のあと、黒川は未来に対して常軌を逸した提案をしてきた。
「とにかく期日は過ぎています。でもどうしても待ってくれと言うなら……そうですね、今夜の0時まで待ってあげましょうか」

 「今夜の0時ですって!? そ、そんな無茶な!」
「期日はすでに過ぎているんだ! 無茶もへったくれもあるものか! 直ぐに耳を揃えて二千万円を返しやがれ!」
「そんな……」

 未来の頬に一筋の涙が伝った。
いくらがんばっても学生の身分で直ぐに二千万円を揃えることなど、親戚中を駈けずり廻ったとしても到底無理だろう。

 所有している土地や家屋にはすでに第二順位まで抵当権が設定されていて、銀行から借りることも厳しいだろう。
未来は途方に暮れた。
父親の悲痛な表情を想像し再び涙に暮れた。

 「泣かれたって困るんだよなあ」
「……では、どうすればいいのでしょうか……」
「そうだなあ。期日からすでに10日も過ぎてるんだ。せめて遅延利息だけでも払ってもらわないとなあ」

 「お金……いくらいるんでしょうか……大して持ち合わせはありませんが……」
「いくら俺たちでも、大学生のあんたに今ここで直ぐに利息を払えなんてあこぎなことは言わないよ」

 「ではどうすれば?」
「未来さん、あんた、すでに二十歳を過ぎてるんだろう? それぐらい直ぐに分かるだろう?」

 黒川はニヤニヤと淫靡な微笑を浮かべた。
言葉の裏に秘められた意味を悟った未来は恐怖で背筋が凍りついた。


                

   この作品は「愛と官能の美学」Shyrock様から投稿していただきました