『まりあ 19番ホール』
 
                      Shyrock:作
第5話

 窓際の席にはまりあが座り、通路側の席には車本が、そして向い側の席には望月夫
妻が座っていた。

 望月がにこやかな表情でまりあに語りかけた。
「ピン側(そば)に寄せるだけでも難しいのに、あのスーパーショットは本当に凄か
ったですね」

 「ありがとうございます。でも、あれはまぐれですわ」
「まぐれも実力のうちですよ」
「まあ、実力だなんて。そんな滅相も……」
まりあは照れてみせた。

 「やっぱり日頃コーチの指導がいいんだろうね」
「はい、車本先生にはいつもよく教えていただいてます」
「車本は手取り足取り、上手に教えてくれるでしょう?ははは~」
「……」

 おそらく望月は車本が丁寧に指導するさまを表現したのだろうが、まりあとしては
少しセクハラっぽく聞こえた。
その時、間髪入れず車本が話に入ってきた。

 「阿部さんをあんまりいじめないでくれよ」
「ははははは~、すまないすまない。阿部さん、変なことを言っちゃってごめんなさ
い」
望月の妻もまりあに丁重に詫びた。

 「阿部さん、ごめんなさいね。この人ったら、いつも一言多いんですよ」
「いいえ、いいですよ。気にしてませんから」
まりあは柔和な表情で望月の妻に答えた。

 まりあたちは昼食後のコーヒーを飲んだ後、後半のインへと向かった。
幸い天気もよく日中は秋の陽射しが眩しいが、時折吹く涼風が肌に心地よく感じられ
た。

 午後3時頃、ラウンドは終了し、まりあたちはバスに向かった。
車本と望月は男子用へ、まりあと望月の妻は女子用へと分かれ、それぞれシャワーで
汗を流した。

 シャワーの熱いしぶきが疲れた身体を癒してくれる。
まりあは鏡の前に座って髪を洗った後、ボディソープで身体を洗う。
望月の妻はシャワーだけ浴びて先に上がってしまったようだ。

 まりあは身体を洗いながらある妄想に耽っていた。
それは今日プレイをしたゴルフのことなどではなく、帰路についてからのことであっ
た。
(もしかしたら、帰りに車本先生から誘われるのでは……)

 まりあは直感的にそう思った。
木陰での出来事がなければそんな想いは芽生えなかったのだろうが、明らかに誘惑と
とれる車本の行動がまりあにそう思わせたのだった。
(でも、やっぱりそんなことはあり得ないわ。だって車本先生は私が結婚してるって
ことを知ってるんだもの……)

 まりあはバスタオルで身体を拭いながら考えた。
濡れた髪をドライヤーで乾かさなければならない。
脱衣所に自分以外いないとは言っても、全裸のままドライヤーをするのは拙い。

 まりあは着替え用に準備している下着をランジェリーポーチから出した。
ゴルフのプレイ中は汗を吸収しやすいコットンのパンティを着用していたが、着替え
用に持参したショーツは刺繍の施した純白のTバックであった。

 普段まりあはTバック党と言う訳ではなかったが、今朝準備をするとき何気にTバ
ックを詰め込んでいた。
Tバックの場合、通常のパンティと比べて嵩が低く、掌に乗せてみても重さを感じな
いほど軽い。

 まりあは手にしたTバックをじっと見つめた。
「まあ、いやだわ…。私、こんなエッチな下着を持って来てたんだわ。うふっ」
まりあはTバックに足を通した。

 まもなく小さな布切れはまりあの大事な部分を包み込んだ。
Tバックの場合ノーマルショーツよりクロッチ部分が狭く、大事な部分を隠せるのか
不安になる場合がある。

 まりあは姿見鏡の前に立った。
Tバックショーツからはみ出した形の良い臀部が映しだされている。
「きゃっ、大胆だわ。というかかなりエッチな感じ……」

 Tバックショーツを穿いたまりあはセットになっている同色のブラジャーを胸に着
けた。
そして丸椅子に腰を掛けドライヤーで髪を乾かす。

 まりあがバスルームから出てみると、すでに車本たちはカフェで寛いでいた。
「お待たせしました」
「やあ、阿部さん、お先に失礼してますよ」
「阿部さんは何をお飲みになる?」
「そうね」

 オーダーを待っているボーイに、まりあはアイスティーを注文した。
その後まりあたちは和やかに談笑を交わしたあと、まもなく解散となった。
望月夫妻から「またいっしょに周りましょうね」と言葉をかけられたまりあは笑顔で
答えた。

 「今日はとても楽しかったです。機会がありましたらぜひまた誘ってくださいね」
車本も望月夫妻に手を振った。
「じゃあ、そのうちまた周ろうな。奥さんもお元気で」
「ありがとうございます。車本さんもお仕事がんばってくださいね」
「では」
「さようなら」
「またね」

 望月夫妻のクルマが一足先にゴルフ場を後にした。
続いて車本がハンドルを握るクルマが動き出した。
「車本先生…いえ、車本さん、今日はどうもありがとうございました。すごく勉強に
なりましたしとても楽しかったですわ」

 「それは良かった。今日は僕自身もすごく楽しくゴルフができましたよ。まりあさ
んが来てくれたお陰です」
「まあ、そんなお上手を」
「お上手なんかじゃないですよ~。本音ですからね」
「まあ……」

 ゴルフ場から道路に出たクルマはシフトアップし一気に加速した。
マニュアル車の場合、ミッション操作がある分運転手に個人差が現れる。
一見おとなしそうに見える車本だが案外飛ばし屋のようだとまりあは思った。

 「阿部さん?」
「はい」
「真っ直ぐに帰りますか?それとも……」
「え…?」
「僕ともう1ホール周りませんか?」
「え?もう1ホールって?今ゴルフ周り終えたばかりなのに」


                

   この作品は「愛と官能の美学
」Shyrock様から投稿していただきました