『放課後の憂鬱』

                               ジャック:作
第10章「陥   穽」(3)

 (・・やっぱり・・できない・・・そんなこと・・)
藍はやめようと思った。そう思って周りを見回した。
高科にセットの裏で抱きしめられた温もりが、まだ胸に残っていた。
しかし、同時にその直前の、吉田達の言ったことが思い出された。

 みんなは照明の外に下がったので、よく見えなかった。
しかし、このままでは済まない・・・服を脱がなければ、着替えなければ許されない、
そんな雰囲気が伝わってきた。

 藍は覚悟を決めた。
なるべく早く着替えを終わらせてしまいたかった。
思い切ってブラウスのボタンに手をかけると、そそくさと外し始めた。

 しかし、今度は吉田が注文をつけた。
「藍ちゃん、そんな急がないでさぁ・・もっと恥ずかしそうにできないかなぁ?・・ゆ
っくりと、さぁ」
藍は、注文どおりゆっくりとボタンをはずした。
ボタンが一つ外れるたびに、ブラウスの前がはだけていった。

 とうとう全部のボタンをはずし終わった。
藍はしばらくジッとしていたが、やがて思い切ったようにブラウスを脱いだ。
脱いだブラウスを手に持ったまま、片手で胸を覆うようにしていた。
「おっ! いい表情だねぇ! さすが女優!」

 吉田がからかうように言うと、藍はキッと睨んだ。
「そうだそうだ。いいぞぉ。無理やり着替えさせられてる雰囲気、すごく出てるな!」
藍はスカートを穿いたまま、レオタードを着ようとした。
片手に脱いだブラウスを持ち、それで胸を隠したままレオタードに足を通そうとした。

 もぞもぞとスカートを少し捲くり上げ、レオタードに手を伸ばしたその時、
「だめだだめだ。藍ちゃん! まず先に、今度はスカートだ。いいね!・・それに、ま
さか下着のままなんて、ないよね!」
すかさず吉田が声をかけた。すっかり助監督を気取っていた。

 (えっ、まさか・・裸になれっていうの?)
それまで藍は、下着の上からレオタードを着ればいい、と思っていた。まさかみんなの
前で、下着まで脱いで着替えるとは、思ってもいなかった。
ブラウスで胸を隠したまま、どうしていいか分からずに、グズグズとしたままだった。

 ふいに高科が近寄って来た。顔が険しかった。
低い、ドスの利いた声で、藍に話しかけた。
「藍。あんまりみんなを怒らせるなよ。みんな撮影が進まなくて、いらついているんだ。
折角仲間になって、力合わせてるのに・・・仕事だからって黙って休んで、やっと出て
来たら撮影いやだって文句言って・・・それでやっとやってくれるって約束したのにさ。
これじゃホントにどうなるか、俺でも知らないゾ。」

 そこで突然、大声を張り上げた。
「やるき、あんのかよっ!! やらねぇってんなら、覚悟できてんな!!」
藍は怯えた。突然の、高科の急変が恐ろしかった。口も利けず、手がワナワナと震えて
いた。
「・・・ってコトにならないうちにさ。頼むぜ、藍!」
高科は普段の口調に戻ってそう言うと、藍の背中をポンと叩いた。元の場所へ戻って
行った。

 もう一度藍はみんなを見回した。
さっきよりも雰囲気が殺気立っていた。
このままでは・・・ナニをされるか分からない。藍の顔が、泣きそうに歪んだ。

 その時、ゆうこが声をかけてきた。
「そうよ、藍。ここで裏切ったら、もう仲間じゃないから。どんなコトが起こっても、
藍のせいだからね。」
「・・・わかった。着替えるから・・へんなこと・・しないで・・」

 とうとう藍が言った。
覚悟を決めるしかなかった。あの写真をばらまかれるだけでなく、ここから帰してくれ
そうになかった。
(さちもゆうこも・・先輩もいる。まさかここで・・)
そう思う反面、着替えなかったら無事で済まない予感に怯えた。

 藍は手に持っていたレオタードを、もう一度見てみた。裏地も、胸パットもなかった。
いや、それが取り去られた跡があった。
それを着ると、下着も無しでそのレオタードを着るとどうなるか、すぐに想像できた。

 藍はレオタードから手を離すと、泣きそうな顔を高科に向けた。しかし高科は頷いて
いるだけだった。
それが「藍、頑張れ!」と言っているように見えた。そう思うしかなかった。

 そのとき、さちが照明の中に入ってきた。
ニコッと微笑むと「はいっ!」と手を差し出した。
重苦しい雰囲気の中で見た笑顔に、救われる気がした。
藍はその笑顔につられるように、ブラウスを渡した。

 さちは、ブラウスを受け取ると、すぐに照明の外へ消えた。
その時、机の上からレオタードを一緒に持っていってしまった。
もう藍は、みんなに言われるまま、脱ぐしかなくなった。
それでもしばらく、両手で胸を覆ったままグズグズと立ちつくすだけだった。

 が、高科から「さあっ!」ともう一度声をかけられると、おずおずと片手を下ろした。
そしてスカートのファスナーを下ろし、ホックをはずした。
パサッという音とともにスカートが床に落ち、藍は下着姿になった。
「おおっ!」

 吉田たちが歓声を上げた。
藍はその声が耐えられなかった。耐えられないほど恥ずかしかった。
片手を胸に、もう一方の手でをパンティの前にしっかりと当てていた。
身体が震えていた。

 「さ、ブラを取って。」
高科が容赦なく言った。
そう言われると、藍は辛そうに背中に手を持っていき、ブラのホックを外した。
そして手で胸を隠したまま、片方ずつ腕からブラを抜き取った。

 さちが再び近寄ると、スカートとブラを取りあげ、持ち去った。
「両手をどけてくんないかなぁ・・・それじゃ撮影がすすまないんだ!」
吉田が、苛立った声で言った。

 「い、いや・・・できない」
藍は、小さな声で答えるだけだった。
「それじゃあ藍ちゃん、約束がちがうぞ・・・」
吉田が言いかけるのを、高科が押さえた。
「いや、藍ちゃんならやってくれるよ。ね、藍ちゃん、約束破るようなこと、しないよ
ね?」

              

    この作品は「ひとみの内緒話」管理人様から投稿していただきました。