『放課後の憂鬱』

                               ジャック:作
第5章「スタイリスト・前編」(2)

 次の朝、藍はかなり寝坊してしまった。その日は仕事だったのに。
「いっけなーい! 急いで支度しなきゃ・・」
藍は慌てて着替えると、メークもせず、さっきから待っていたタクシーに飛び乗った。

 藍はいつものように事務所に向かうと思っていたが、タクシーはぜんぜん知らない道
を走っていた。
「あ、あのぉ、こっちじゃないんですけど・・」
藍が運転手にそう言うと、運転手が事務的に答えた。
「岸田様からABCビルへ、直接お連れするよう言われておりますが。」

 藍はそんなことを聞いていなかったが「あ、そうなんですか・・」と答えた。
(今日は現地集合か・・)
(ABCビルって、この前のビルじゃないよね?)
(新しい仕事かな・・)

 藍があれこれ考えているうちに目的地に到着した。
タクシーを降りると、ビルの入り口へ向かって歩き出した。
「おぉ! 藍! こっちだ、こっち!」
背後からそう呼ばれ振り向くと、後ろに岸田がいた。

 「あ、おはようございます。すみません、遅れちゃって・・」
藍がすまなそうに言うと、「まぁ、俺は構わないんだが・・先方が怒ってなきゃいいけ
どな。ははは。」と岸田は藍を脅かすような素振りで答えた。

 「だ、だいじょぶですかねぇ・・」
藍は不安になって聞いたが、「だいじょぶだよ。ま、藍次第だけどな!」と岸田はその
不安を煽るように言うだけだった。

 二人はビルとは別の方向へ歩いてゆくと、やがて小さなマンションの前で立ち止まっ
た。
「おぅ、着いたぞ。ここだ」
そう言うと岸田は藍の肩を取り、手馴れた感じでオートロックを開けてマンションの中
へ入った。藍は岸田に押されるようにして、ついていった。

 ある部屋の前までくると、岸田はインターフォンを鳴らした。
すぐにカギが自動で解除される音がして、二人はドアの中へと入った。
「・・・遅かったじゃない!」
ヒステリックな感じの声とともに、奥の部屋から女性が現れた。この間のスタイリスト
だった。

 「おぉ、すまんすまん。」
岸田は平然として、馴れ馴れしく返事した。
藍は自分のせいで遅れたので気が引けて、「・・・ごめんなさい、わたしが少し遅くな
ってしまって・・」と謝りかけた。

 岸田は藍の言葉を遮るように「いいんだよ! なぁ?」と女性の方に顔を合わせた。
「しょうがないわね。この分はちゃんと返してもらうわよ。いいわね?」と女性が藍に
聞いたので、「・・はい。すみません。」と藍は謝った。
藍の返事があまりに神妙だったので、女性と岸田は「はっはっは」と同じように笑いだ
した。


 女性が自己紹介を始めた。
「藍ちゃん、だったわよね? この前はどうも。私は七種真里。よろしくね。しばらく
あなたのスタイリストをすることになったの。」
藍は真里ようなタイプが苦手だったので、自分を担当すると言われて落胆したが、しか
たないな・・と諦め「藍です。よろしくお願いします。」と挨拶をした。

 「藍、七種さんとこの前の水着のCMの、打ち合わせと衣装合わせをしてくれ。俺は
ちょっと用があるから後でまた迎えに来る。じゃ、あとはよろしく。」
それだけ言うと岸田は軽く手を振って、部屋を出て行ってしまった。

 藍は、真里と二人きりで部屋に残されたが、相手は女性だったので特に不安は感じな
かった。
「藍ちゃん、あ、“藍”でいいわよね?」と真里が聞いた。
藍は真里に怖いイメージがあったため、そんな風に言われて嬉しくなってきた。

「あ、はい。もちろんです、七種さん。」
「真里、でいいわよ。」
「あ、じゃあ、真里・・さん。」
二人は打ち解けて笑った。

 「さぁ、打ち合わせするわよ。いい? でもその前にお茶、かな?」
真里が少しおどけてそう言うと、藍には姉のように思えてきて、一層親近感を深めた。
「はいっ。いただきます。」
藍はにこやかに答えた。

 真里がコーヒーを入れ藍の前に差し出すと、藍はすぐに口にした。
真里も同じようにコーヒーを飲みながら、早速仕事の打ち合わせを始めた。
「この前の印象だと、藍はあんまり水着のことは知らないわね?」
「・・はい。あんまり体に自信なかったんで・・ちょっと・・」

 「そんなことないじゃない! きれいな体してるくせに。この前ちょっと見ちゃった
から、知ってるわよぉ?!」
「・・そぉですかぁ? でもなぁ・・」
「そうよ! 私なんか見せらんないのに!」

 真里は軽く握った手で、藍の頭を“こつん”とたたいた。
藍は自分の体を誉められたのと、真里がやさしかったので嬉しくて仕方なかった。
「今度のはこれとこれと・・これかな? 競泳タイプだから薄手だけど心配いらないわ
よ!」
「・・透けないんですか?」
「そうなのよ。よく出来てるのよ。最近のは。試着してみようか?」

 真里は藍の不安材料を先回りして話すので、藍は安心して、こくんと首を縦に振った。
「じゃあ、これを着てみて! あっ、あっちで着替えていいわよ。」
真里は立ち上がると奥の部屋を指差し、藍に最初の水着を渡した。

 藍も立ち上がり水着を受け取ると部屋へ向かおうとした。が、すぐに振り向き真里に
尋ねた。
「やっぱりこの前みたいに下に・・・何も着ないんですよね?」

 真里は笑顔で藍に答えた。
「そうよっ。決まってるでしょ?! 何度いったらわかるのぉ?・・今日は撮影じゃな
いんだし、あたししか見てないから、恥ずかしくないでしょ?」
藍はにこやかに、「はい。すぐ着替えまーす。」と答えると奥の部屋へと向かった。

 部屋に入ると、ドアを閉め、あたりを見回した。
(真里さん、ここに住んでるのかなぁ・・広い部屋・・)
そこはフローリングの床、高い天井、それに藍の部屋にある以上に大きな鏡が壁に埋め
込まれていた。

 早速藍は服を脱ぎ、言われた通り全裸になった。そして薄手の青い水着に足を通そう
とした。が、すぐに手を止めた。
さっき真里に誉められた言葉を思い出し、大きな鏡に映る自分の裸を見つめた。
(あたし、そんなにきれいかなぁ・・)

 そう思うと胸を持ち上げるしぐさや、自分の知っている精一杯セクシーなポーズを取
って鏡を見た。
(うん、結構いいかも・・)
 藍は嬉しくなり、水着に足を通した。

 その姿も鏡に映してみた。
やはり薄手の水着のせいで、乳首はくっきりと勃ち、水着を突き破らんばかりだった。
(・・なんか裸よりエッチかな。)
そう思ったが、真里に見せたくてすぐに部屋から出て真里のいる方へ向かった。

 「着替えました。」
真里は藍の声で立ち上がると、藍の前に立って、
「あっ、いいじゃない。胸はこうして形を整えて・・・」
と藍の水着を直し始めた。

 真里の手は藍の水着の肩紐から胸のラインに沿って這ってゆき、やがて藍の水着の胸
の部分を引っ張り、乳房の中へと入っていった。
「あっ! ま、真里さん・・」
藍は少し戸惑った。が、真里は冷静に作業を進めていった。

 「こうして、と。こうやって胸の形をきれいに見せるのよ。」
(あっ、そうなんだ・・・)
藍がそう思ったとき、真里の指が水着の中で藍の乳首を弾いた。
「あっ・・ん・・」

 思わず藍はヘンな声をあげてしまった。急に恥ずかしくなった。
「あら、藍は“感じやすい”のかな? じゃぁ、こっちはどぉ?」と反対側の乳首を、
水着の上から摘みあげた。
「あぁ! ま、真里さん、だめですよぉ・・」

 藍は恥ずかしそうに俯き、乳首を庇おうと真里の手に触れた。しかし体は正直に感じ
ていた。
「さてと、今度は下と・・」
真里は途中で胸から手を離すと、今度は腰のラインに手を移した。

 真里がすぐに作業に戻ってしまったので藍は物足りなかった。が、すぐにまた感じは
じめた。
真里の手は腰から、水着の辺りへと移り、そのラインに指を這わせ始めた。
「あぁ! ま、真里さん! だめっ!」

 藍は真里の指になぞられると、体をビクッとさせ、声を出した。
「だめって、それはこっちのせりふよ! 動かないでっ!」
真里は少し厳しい声で言うと、藍に構わず指を這わせつづけた。


              

    この作品は「ひとみの内緒話」管理人様から投稿していただきました。